生贄の祈りver.普英_12_6

「あんたいい加減にしなさいよねっ!国王でしょっ!
どうしても自由になりたければ保険の一人でも作ってから好きにしなさいよっ!
ルートはいても、何かあったり子どもが生まれなかったりしたら血が途絶えちゃうんですからねっ」
片手を腰に当てて片手でピシっとギルベルトを指さすエリザの様子は勇ましい。


「ああっ?!」
と、ロヴィーノがまた涙をポロポロ流すような目でギルベルトに睨みつけられても一向にひるむ事はなく、ロヴィーノが秘かにこの女性について行こうかと思ってしまうくらい頼もしい。

「この国がここまで大国になってあんたがこうやって国王張ってる裏には、たくさんの犠牲があったのを忘れたとは言わせないわよっ!
どうしても国王の地位を放り出して海に沈みたいっていうんなら、せめて自分が協力できなくなる代わりを用意すんのが筋ってもんでしょうがっ!」

「ガキの1人でもつくりゃいいんだなっ?!わかったっ!!」
すくみあがるロヴィーノをグイっと押しのけて、娘の腕をつかもうとするギルベルトの手を制して、エリザは娘を自らの後ろへやった。

「とりあえず、東の塔をちゃんと後宮として復旧しておいたから。
そっちに連れていっとくわよ」
エリザの言葉にギルベルトは一瞬目を見開いて、次にハッと乾いた笑いをもらした。

「用意周到だな。ここんとこ東に籠ってると思ったら、そんな事してたのかよっ。
もしかしてアルトの事も、俺を種馬にするためわざとだったんじゃねえかっ?」

「ふざけないでっ!!」
ピシっとエリザは思い切りギルベルトを平手うちした。

「なにすんだっ!!」
と、つかみかかろうとするギルベルトを、かけつけたルートが慌てて止める。

「いいから、エリザも早く行ってくれっ!!」
とルートとロヴィーノでギルベルトを羽交い絞めにしている間に、エリザは娘に
「行きましょ」
と声をかけて、一緒に部屋を出て行った。


パタンと閉まるドア。
力を抜くギルベルトに、ルートも羽交い絞めにしていた腕を離した。

「確かに…あの時陛下を強引に海から引き揚げたのはエリザだけど…彼女だって立場上これ以上成果上がらない上に最終的に死ぬかもって状況で相手放置できないだろう?」
ため息まじりにうつむくルートに
「そんなことはわかってる」
とギルベルトは唇をかみしめる。

「だけど…な…俺、アルトを助けてやれなかっただけじゃなくて、あんな冷たい海に一人残してきてしまったのが…耐えられねえんだ。
…せめて…息してなくても心臓動いてなくても温かい格好させて綺麗な場所に寝かせてやりたかったんだよ……。
助けられないだけじゃなくて、見捨ててきちまった自分も許せねえ…許せねえんだ…」
片手で目を覆ってそう言うと、ギルベルトは嗚咽をこぼした。

「だから…次は邪魔しないでくれ…。ちゃんと国が潰れないように、血筋が途絶えないようにしたら…アルトんとこ行かせてくれ。
もういい加減解放してくれ…。もういい加減きつい…。」

武闘派の大国の王の思わぬ本音にロヴィーノは言葉を失った。
時として死ぬより生きる方がつらいと言う事もあるのだ…。

しばらく嗚咽をこらえるように黙り込んだ後、ルートに促されて東の塔へと向かったギルベルトを見送って、自分がした事で少しでも、あの痛みを知っているがゆえに愛情深い、愛に不器用な王が、少しでも幸せになれるといいなと、ロヴィーノは思った。


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