寮生はプリンセスがお好き
私立シャマシューク学園は広大な敷地に立つ名門校だ。 そう、広大な敷地。 このせいで通うのにはなかなか不便な学校でもある。 なので小等部まではたいていは親が自家用機で送り、中等部と高等部は全寮制だ。
そんな風に香水一色で始まった朝だったが、何か違う…とモブースが気づいたのは授業が始まってすぐくらいの時だった。
うちの寮長カイザーは世界で一番カッコいいし、うちの副寮長プリンセスは世界で一番可愛い。 それは東から日が昇り西に沈むくらい当たり前のことである。
「お前、そんな無責任ならもう寮長をやめろっ!」 鬼軍曹と恐れられている銀狼寮の寮長ギルベルトの強い怒りを感じさせる声と言葉にそれまで不自然とも思えるほどの笑顔があふれていた辺り一帯の空気が凍り付いた。
「…おい、ルークを知らないか?」 高等部の校舎に戻ったギルベルトは銀竜の寮長であるルークを見なかったか、まずは同学年の自分の教室の自寮生達に尋ねる。 すると寮生達はなんだか意味ありげに顔を見合わせた。
あれだけ警戒していたのにあっけないほど平和な時間が過ぎ、いつものようにランチボックスを持ってプリンセスを迎えに中等部に向かうギルベルト。 授業終了が5分ほど長引いてしまったので、アーサーがお腹を空かせているかもしれないと思えば自然と足も早まっていく。
今日は自寮のプリンセスが特に可愛い。 もちろん我らがプリンセスはいついかなる時も世界で一番可愛いが、今日は特別だ。 なにしろ1週間ぶりの登校である。 毎日続けているギルベルトのプリンセスのお手入れにも力が入るというものだ。
ぜひプリンセスに献上したい物があるので直接会って話をしたいというモブースの要望で、ギルベルトは自分の方が彼の部屋に出向く。
寮長ギルベルトは目に見えて不機嫌だった。 プリンセスは今ここには居ない。 だからそんな素の感情を表に出せるのだ。 居たら内心機嫌が悪かろうと絶対にそんな素振りを見せる彼ではない。
──マイクっ、ボブっ、届いたぞっ!! モブースが通うシャマシューク学園は二期制なので、前期と後期の間に秋休みと言う少しばかり長い休みがある。