寮生はプリンセスがお好き10章5_不穏の始まり

あれだけ警戒していたのにあっけないほど平和な時間が過ぎ、いつものようにランチボックスを持ってプリンセスを迎えに中等部に向かうギルベルト。

授業終了が5分ほど長引いてしまったので、アーサーがお腹を空かせているかもしれないと思えば自然と足も早まっていく。

まあ、いつもはこの時間はアーサーをギルベルトに任せて、ルートはさっさと食事を済ませたあとに自主トレに励むのが日常なのだが、今日は何が起こるかわからないと思っていたので、休み明け初日だから…と理由を付けて、ルートにも昼休みいっぱい一緒に居てもらうことになっていることもあり、心細い思いはさせていないと思いたい。

しかし拍子抜けするほど何もなく午前中が終わり、もしかして杞憂だったか?ルッツのトレーニングの時間を割いてもらって悪かったか?と思いつつも3人分のランチボックスを手に中等部に足を運んだギルベルトは、そこで本日初めての異常を目にすることになった。

高等部の校舎から中央校舎を抜けて中等部の校舎へ。
そこからは3,2,1年の順番で教室があるのだが、どうも2年3年の様子がおかしい。
ざわついている。

不思議に思いながらもギルベルトの最優先事項は自寮のプリンセスだ。
だからアーサーを待たせないようにと早足で2,3年の教室を通り過ぎようとしたのだが、2年の教室の前を通った時に、中からフェリシアーノが飛び出して来た。

「ギルベルト兄ちゃんっ!!」
と、他寮とは言えプリンセスに名指しで呼び止められればガン無視も出来ない。
仲良くしなければならないという法はないのだが、あまりに邪険にすればプリンセスを戴いているその寮全体に喧嘩を売る行為とみなされる可能性がある。

なのでギルベルトは仕方なしに
「なんだ?
悪いけど俺様のクラス、今日は少しばかり授業時間が伸びて迎えが遅れがちだから、早くアルトと合流したいんだが…」
と暗に急いでいるので後にして欲しい旨を告げると、フェリシアーノはどこか不安げに
「…もしかして2年も授業終了が遅れてたりする?」
と聞いてきた。

「いや?俺様が教室を出た時には2年も3年もそれぞれ教室の外に出てた気がするけど?
どうしたんだ?」

2年…という言葉にギルベルトは反応した。
例の新任の女教師が担当しているのは確か2年の授業だ。

「うん…まだルークが来なくて……」
と綺麗な形の眉を八の字にして困った顔で言うフェリシアーノに
「フェリちゃん、寮長の事は俺が待ってるし、他が言うようにクラスの寮生が護衛するから、今日はカフェテリアにどうぞ?」
と、どうやらフェリシアーノの寮、銀竜寮の寮生が気づかわし気にプリンセスフェリシアーノを囲む。

「…でも……」
とそれに心細げに気乗りしない様子を見せるフェリ。

「あ~、じゃあ、こうしよう!
今日はルッツも一緒だからランチもかなり多めに用意してるし、俺らと一緒に飯にするか?
アルトもフェリが居ると喜ぶし、いったんフェリちゃんをアルト達に合流させたら、俺が2年の校舎にルークを探しに戻ってやるよ」

「いいのっ?!
そうしたい、ギルベルト兄ちゃんっ!!」
その言葉にようやく笑みを見せるフェリシアーノ。

他の寮の人間なら若干警戒を見せるところだが、いざ戦闘イベントという時以外の日常では公明正大正々堂々で知られる銀狼寮のカイザーは信頼度が違う。

銀竜の中等部生達も
「ありがとうございますっ!
なら俺らも少し離れて中庭に陣取りますっ!」
とホッとした様子だ。

こうしてギルベルトはフェリシアーノをエスコートしつつ後ろに銀竜の護衛達を引き連れて1年の教室へ。

その集団を見てアーサーは丸い大きな目をさらにまんまるくしていたが、集団の中にフェリを見かけて、ぱぁっと花がほころぶような笑みを浮かべた。

そしてルートの横から軽い足取りで走って来て
「ギルっ!今日はフェリと一緒にランチ?!」
とキラキラした目で言うので、ギルベルトまで笑顔になってしまう。

「ああ。なんだかちっとばかりルークが遅れてて連絡つかねえみたいだからな。
俺様、ちっと高等部の校舎に探しに戻るけど、フェリちゃんも腹減るだろ?
だから悪いけどフェリちゃんとルッツと一緒に先に食っててくれるか?
俺様は食うの早いし気にしねえで良いから」

そう言うとアーサーは少し困ったように…でもフェリシアーノが空腹になるからと言えば待ってると言い張ることもなく、
「うん。じゃあギルの分はちゃんと残しておくし、戻ったらお茶もいれるから早く戻ってきて」
と素直にギルベルトを送り出した。







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