寮生はプリンセスがお好き10章4_嵐の前

今日は自寮のプリンセスが特に可愛い。

もちろん我らがプリンセスはいついかなる時も世界で一番可愛いが、今日は特別だ。
なにしろ1週間ぶりの登校である。
毎日続けているギルベルトのプリンセスのお手入れにも力が入るというものだ。

落ち着いた金色の髪は日々丁寧にシャンプー&トリートメント、そしてその後はタオルドライで、朝には痛まないようにヘアオイルを使用後ドライヤーでセットするので子猫の毛並みのようにふわっふわだし、真っ白な肌はそれも毎日ギルベルトが乳液や化粧水でお手入れしている。

手先も爪を綺麗に切りそろえて磨いた上で手はハンドクリームを塗るのを忘れることはないし、美しい肌や髪を内面から保つための食生活だってばっちりだ。

そんな日常の中でもう一つ加わったプリンセスの要素…それがモブースに献上された素晴らしく良い匂いの香水である。

白モブ三銃士のモブースによって実質アーサーのために素材となる花の品種改良から始めて7年間かけて完成した逸品だ。

いい匂いなだけではなくどことなくアーサーをイメージさせる香り。

それを資産家の息子のモブースは惜しげもなくアーサーをプリンセスに頂く銀狼寮の寮生全員が当座つけられる分を提供し、また、今後も使用できるよう量産してくれると言う。

それだけで本来ならややテンションの下がる休み明けの登校日、銀狼寮の寮生達は皆テンションが高かった。

新学期の学校で厄介ごとが待ち構えていることを知っているギルベルトですら、少し浮かれた気持ちになる。

もちろんアーサー自身もとても気に入って
「とてもいい匂いだ。
それに寮生のみんなとお揃いなんてすごく嬉しい。
ありがとう、モブース」
と直接声をかけ、かけられたモブースの方は感激のあまり涙した。

そんな対応は普段なら抜け駆け禁止で睨まれるところだが、今回ばかりは寮生も自分達もおおいに恩恵を受けているその功績を考慮にいれてそれを黙認することにしているようである。


こうして時間になって、全員学校へ。

確認をするとやはり新任教師は高等部2年の歴史を担当するらしいので、不穏な波は高等部の真ん中から広がっていくのだろうと思われる。

朝、姫君を中等部の教室まで送り、あとはルートに任せてギルベルトは高等部の教室へ。

女教師が来ることはすでに学校全体に知らされていたが、見たところどの学年も特に変わった様子はない。

時折り廊下で
──なんで今更制度を変えようと思ったんだろうな?
などと不思議がる生徒の声が聞こえる程度である。

教室に行ってもそれは同じで、担当の学年ではないということもあるのかもしれないが、皆の関心は新任の女教師よりはそれぞれが過ごした秋休みのことであったり、休みが明けて少しした頃にある中間考査のことだったり、その後の学園祭と言う名のこれも他と同じく寮対抗の戦いについてだったりと、自身や自寮の学生生活に対する話が圧倒的に多い。


「ち~すっ。
銀狼の寮メン、今日いい匂いじゃね?
学祭に向けての寮の結束UPイベントな感じ?」

教室の自分の席につくと隣の香が軽く手を挙げて声をかけてくる。
それにギルベルトが今回の香水について説明をすると、
「ワオっ!グッドインフォっ!
それアルにもテルしないとっ
今日はアニメ観賞会をエサに筋トレな感じ?」
と笑って言った。

「隣の寮のプリンセスの宣伝動画みてえなもん喜んで見る寮長と副寮長ってお前らくらいだぜ?
ま、いいけどな」
とギルベルトは肩をすくめて席に座る。

「うちのゴリプリ動かすにはそっちの姫様エサにすんのが一番グッドだから」

香は…というより金狼寮は秘かにプリンセスの争いを投げ捨てているので、今年の1年は寮長のみならず、寮生達もわりあいと仲が良くて平和な学年だ。

現に金狼寮の寮生は銀狼寮の愛らしいプリンセスをイメージした香水をつける銀狼寮の寮生達を素直に羨ましがっている。

もちろん、それは自寮のプリンセスの香水をつけたい的なものではなく、隣のプリンセスの香水が羨ましい、そういう意味合いだ。

「銀はいいよなぁ…確かに銀のお姫ちゃん、こういう花の香してそう。
うちのゴリプリなんて香水作ったらきっとハンバーガーかピザの匂いな気がする」
「あ~それそうだなっ」
などと自寮のプリンセスに対してはそんな容赦のない会話が飛び交う。

「ま、今回、2年に女教師来るらしいけど、うちのプリンセスが居たらぜんっぜん気にならん。
愛らしさ尊さではうちのプリンセスの足元にも及ばないことは目に見えているしなっ」
などと誇らしげに言う銀狼寮の寮生達。

「…確かに。
可愛いよなぁ…銀寮プリ。
俺も銀寮生になってお仕えしたかったわ」

「うんうん。
相手が女でもあれを超える逸材はいない」

などと語り合う寮生達に表面上は笑顔を見せつつ、アイコンタクトを送り合うギルベルトと香。

(…で?実際どんな感じ?)
(…まだわからねえけど…まあ、女が何かかき回そうにも、数名の寮生がそれに惑わされたとしても、寮長は寮長の自覚あるだろうし、ピシっと締めると思うんだけどな…)

そう、金狼以外の5寮は全寮生をあげて自寮のプリンセスを敬愛しているし、感情面とは別な意味でも少なくとも海千山千の寮長達は自寮…ひいては自分の将来的な評価につながる寮の結束を乱す者を放置したりはしないだろう。


…大丈夫なはず…なんだけどな……

と、現実的に考えると心配ないはずの状況なのだがどうにも消えない漠然とした不安に、ギルベルトは盛り上がっている寮生達のテンションに水を差さないように、小さな小さなため息を吐き出した。










2 件のコメント :

  1. 見落としてた誤変換発見しました「姫君を中東部の教室まで送り」→「~中等部~」ですよね^^;なぜここだけワールドワイドに…ご確認ください。

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😀

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