寮生はプリンセスがお好き10章10_四畳半一間から3LDKへ

私立シャマシューク学園は広大な敷地に立つ名門校だ。
そう、広大な敷地。
このせいで通うのにはなかなか不便な学校でもある。
なので小等部まではたいていは親が自家用機で送り、中等部と高等部は全寮制だ。

もちろん、教師とて同様で、簡単に通勤できる距離ではない。
なので教職員用の宿舎と言うのも当然敷地内に用意されている。

学園で初の女性教師…とされているアン・マクレガーにも当然それは用意されていた。

──粗末な宿舎でご不自由をかけて申し訳ないが…
と案内されたのはなんと3LDKの豪奢な部屋。
粗末どころか単身者の寮としては十分すぎる広さと質で、それまでは四畳半一間に住んでいたアンからすると一気にセレブの世界に放り込まれた気がするくらいだった。


アンは大学を卒業したばかりでそこそこ有名な企業に採用されたので、さすがに経済的に四畳半にしか住めないわけではない。
だが、彼女には大きな野心があって、そのためには住まいに金をかける余裕はなかった。

目指すは玉の輿…そう!大金持ちの妻の座だっ!
アンはそのために秘かに自分磨きに力を入れる一方で、どういう方向を目指すのかを模索した。

まず自身の家は全く金持ちでもなんでもなく、当たり前に金持ちの子息との縁談が舞い込んでくるようなことはない。
それでは必要不可欠なレベルの有能な人間になれるかと言うとそれも無理だ。
一部の才能のある人間を除いては知識と教養、そして申し分ない学歴を身につけられるかどうかというのはしょせん金持ちの出来レースのようなものだ。

となるともう”ふさわしい”を目指すのは無理だ。
目指すのは平凡だがセレブにはない純粋さと愛らしさを持つヒロインが駆け上がるシンデレラストーリーだ!!

そう思った瞬間からアンは恋愛に関する書物や漫画、ドラマなど片っ端から読み漁り、最終的にはゲームまでやりつくした。

純粋で天然なシンデレラを目指すならむしろ住まいなどは粗末なくらいでいい。
ブランド品も要らない。
むしろ安くても清楚に見えるようなものを。
見えるところには金をかけない。
そんなものは玉の輿に乗ればいくらでも手に入る。

化粧品もプチプラ。
ただし素肌を綺麗にキープするために基礎化粧品だけは秘かに良いものを使う。

自然体で可愛らしく…。
周りの男は少し可愛らしいことを言って自尊心をくすぐりつつ、優しく好意的な言葉をかければたいていはコロっと落ちてきた。

ポイントは優しいことをしたり誉め言葉を口にするのにためらいを持たないことである。

その分まわりの女には嫌われたがどうってことない。
女性が主人公で男キャラを攻略する乙女ゲーと同じで、そういう可愛く優しい主人公を攻撃する女たちはたいてい、男に嫌われて終わるのだ。

こうしてアンは日々めぼしい男が居ないかを物色していたが、一流と言えどそこは会社でサラリーマン。
そこそこ高収入でもとてつもないセレブとは言い難い。

かといって起業家や大企業の創始者の一族などに出会う機会もなく悶々としていた時、その話はあったのである。

いきなり重役室に呼ばれて何事かと思えば、まず第一に言われたのが、大切な取引先の企業のトップが賢い…しかしそれを表に出さずに男性に好かれるような女性を探しているという。

これは…本性がばれようとしているのかもしれないが、大手企業のトップとのコネが出来るかと言うのもあって悩みに悩んで、とっさに
「え?あ、あの、あたしは特に賢いとかは…」
とか戸惑った風を装って言ったら、
「そう言うのは良いからYesかNoで答えてくれ。
Noなら二度と言わないので呼び出し自体を忘れること」
とピシリと言われて、思わず
「い、イエスですっ!」
と食い気味に答えてしまった。

こうしてアンは呼び出した重役に連れられて、その日のうちに某高級レストランの個室へ。
そこで引き合わされたのは誰もが知る大企業JSコーポレーションの社長だった。

そこでこれからの話は決して他言しないように、他言したら身の安全は保障できないとまで言われて少し恐ろしくなったが、話の内容を聞いてみれば悪い話ではない。

…というか、まさにアンが望んでいたような話だった。


全世界から富豪の子息が集まっている私立シャマシューク学園。
そこに潜入して寮生…特に権力を持つ寮長達を手なづけ、とあることに協力させること。
何に協力させるかは今の時点では言えないが、目的を果たしたあとは学生たちとそのまま交流を続けるも、引き上げるもよし。

アンの身分はそのまま保証するから好きにすればいい。

そう言われてアンは俄然やる気がわいてきた。

世界中の金持ちの子息。
それを片っ端から篭絡して玉の輿どころか逆ハーレムだっ!!








0 件のコメント :

コメントを投稿