「お前、そんな無責任ならもう寮長をやめろっ!」
鬼軍曹と恐れられている銀狼寮の寮長ギルベルトの強い怒りを感じさせる声と言葉にそれまで不自然とも思えるほどの笑顔があふれていた辺り一帯の空気が凍り付いた。
少し離れたあたりにいた2年生数名はそれでもブーイングをするが、すぐ目の前でそれを言われた当人のルークは目を丸くしてポカンとしている。
そのどちらにも構わずギルベルトは続けた。
「寮長の責務は知っていて寮長の座につくことを選んだはずだが、それを全うできないと思うなら今すぐやめちまえっ!」
「…えっと…でもアンちゃんは学校に慣れてないし…食堂に連れて来てあげないと…」
「教師は教師の食堂がある。
百歩譲って本人が生徒用のを利用したいと言ったとしても、お前が案内する義理はない。
お前が命じる権限のある一般の寮生が周りに何人いると思っているんだっ」
「…え?えっと…でもアンちゃんが俺に……」
どこか不自然におずおずと言うルークにギルベルトは大きなため息をついた。
「お前は銀竜の寮長だ。
で?寮長が一番に優先すべき相手は誰だ?」
「………」
「…誰だ?」
「…自寮のプリンセス…」
「…で?自寮のプリンセスに昼食も摂らせずに待たせて何をやっている?」
「…え?…あれっ?…そう…だよね…あれ??」
言われていきなり混乱したように首を傾げだすルークにこちらも訳がわからないという顔のギルベルト。
「お前…大丈夫か?」
とそれでも言葉を紡ごうとした時、いきなりアンが二人の間に割って入った。
「ごめんなさいっ!!全部私が悪いのっ!!
ルーク君が優しいからつい頼んじゃったのっ!!
副寮長さんが怒ってるのね?!
すごく怖いけど謝りにいってくるからっ!」
涙を零しながらそういう彼女を数名が
「アンが悪いわけじゃないよ。
軍曹はもともと口が悪いから気にしないでいい」
などと囲んで慰めている。
そんな間にもルークは混乱したように、あれ?あれ?を繰り返しているので、ギルベルトは
「とにかくさっさとフェリのとこに行ってこい。
今俺様のアルトと一緒にルッツが護衛しつつ飯食ってるから」
と促した。
「あ。そうだっ!フェリの飯っ!!
俺ほんとどうしたんだろっ!
ギル、ごめんっ!ありがとうっ!!」
慌ててランチボックスを取りに教室へ戻ろうとするルークに
「ふざけんなっ!アンが可哀そうだろっ!ルークっ!!」
とアンを取り巻いている何名かがまたブーブー罵るが、
「ざけんなっ!!」
とギルベルトが一喝。
「ここは俺に任せてさっさといけっ!」
とルークに声をかけつつ、一部追いかけようとする2年の前に立ちふさがった。
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