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──義勇…大丈夫か?苦しくなったらすぐ言えよ? 随分と長い間、下がらなかった熱。 胸の痛みも息苦しさも完全に消えたわけではなかったのだけれど、家に帰りたいのだ…と泣きながら訴えたら、錆兎は自宅療養に切り替えてくれた。 そして、ちょうど撮影が終わったばかりでオフを取れたので、ずっと...
一体何が起こってる? それが目を覚ましてまず思った事だった。 確か自分は意識を失って…次に目を覚ました時にはそれだけはしっかり抱きしめていたはずの元恋人に模したクマのぬいぐるみサビ君が無くなっていて… そして今、再度気を失って目を覚ますと、その元恋人が目の前にいる。
きしむ心臓… 「…ぎゆ…う……いやだ……」 自分のものではないようなかすれて弱々しい声が遠くに聞こえる。 一気に視界が絶望に薄暗く塗りつぶされていく。
頭痛がするという義勇をいったんマンションの駐車場で降ろして、錆兎は義勇の忘れものを取りに戻るべく、車をUターンさせた。 しかしバックミラーに映った義勇が駐車場でしゃがみこんでいるのが見えて、焦る。 車の流れがあるので即止めるという事も出来ず、マンションの区画の周りの道路をグルリと...
パタン…とドアを閉めて鍵をかけ、ここ1年間過ごしたマンションのエントランスを出ると、義勇は郵便受けの前で足を止めた。 ポケットから出すキーホルダー。 それは映画の中で主人公が彼の恋人に贈ったのと同じ物…
夏休みが開けて撮影がまた始まる。 場所のせいなのだろうか…それとも付いていけない義勇のために錆兎が加減してくれているのか? 意外に普通に終わったキスシーン。 続くベッドシーンはさすがに続くNG。 それでも、とにかく錆兎に触れて、錆兎から触れられているのが恥ずかしくて、泣いて泣いて...
錆兎と同居を始めたのは3月の始めだった。 それから暑い夏が来て、1週間だけもらえた長期休暇には旅行に連れて行ってもらった。 錆兎の運転する車で行く高原の別荘。 義勇はとにかくとして錆兎は有名人なのでどこへ行っても注目を浴びてゆっくりできない。 そんな理由でのチョイスだった。
―― 一緒にクリスマスを作ろうぜ! 錆兎がそう言った時の恋人の表情は忘れられない。 ポカンと口を開いて固まったあと、ふわりと蕾が花開くような笑みを浮かべ、コロン、コロンと朝露のように透明な涙をこぼしながら、うん!と頷いた。
今日の朝食はパンケーキだ。 色々施行錯誤した上で出来た錆兎特製のふわふわのパンケーキ。 ポイントは卵の白身をメレンゲ状態になるまで泡立てて粉と混ぜる事。 普通よりも数段手間はかかるが、これで本当にふわっふわのパンケーキが出来るのだ。
「カ~ット!! 義勇、そこ、そんなに固い表情するところじゃないっ。 もっと打ち解けた感じでっ!!」
――1人で大丈夫か? 少し身をかがめて視線を合わせると、錆兎は気遣わしげに義勇の顔を覗き込んできた。 本当に綺麗な澄んだ藤色の瞳。 頬に添えられた温かい手。 それはこの1年間慣れ親しんだもので…そしてこれが最後になるもの。
1_ラストシーン 錆兎との別れを決めた日の義勇。 2_カウントダウンは止まらない 孤児で生活に困窮する義勇の目に入ってきた映画の主役の相手役のオーディション募集のポスター。 撮影期間1年間の予定のそれに、その間は食べていけるのかと思って応募してみたら、その相手役が有名俳優の鱗滝錆...