―― 一緒にクリスマスを作ろうぜ!
錆兎がそう言った時の恋人の表情は忘れられない。
ポカンと口を開いて固まったあと、ふわりと蕾が花開くような笑みを浮かべ、コロン、コロンと朝露のように透明な涙をこぼしながら、うん!と頷いた。
ツリーは買って来て、でも飾りは自分達でたくさん買い足して飾っただけでなく、可愛くラッピングしたお菓子も一緒に吊るす。
そうしてクリスマスまで、気が向いた時にツリーのお菓子を取って食べて過ごした。
当日の料理ももちろん手作り。
作るのは錆兎。
義勇は料理の飾り付けを手伝った。
プレゼントに関してはこれは手作りのクリスマスだからプレゼントも手作りにしようと言う錆兎の提案で互いに手作りだ。
最初の日…このマンションの家賃を出せない申し訳なさに泣いた義勇に対する錆兎の気づかいである事を知っているのは本人のみである。
実際、ある意味日常レベルでは額を気にしなくても良いくらいの財布を提供されているにも関わらず、義勇が錆兎に何かねだってくる事はなかった。
錆兎にしてみれば本当にじれったいくらいに。
別になんでも無条件にぽんぽん買い与えたがる趣味はないが、義勇に関してはとにかく何かを与えてやりたかった。
それが金がかかる事でもかからない事でも良かったのだが、何も欲しくはないわけではないのに、悲しいほど諦めが良くて、驚くほど求めてこない義勇に、求めれば手に出来る事を教えてやりたい、錆兎はそう思ったのだ。
だからプレゼントはヌイグルミ。
何故成人を過ぎた男に?と思わせるソレを選んだのかは訳がある。
クリスマス一色になった街中。
義勇は珍しくとある店の前で足を止めた。
小さな雑貨屋のショーウィンドウ。
見つめる先には茶色の毛並みのティディベア。
――欲しいのか?
と問えば、いつものように小さく首を横に振る。
それでも錆兎が買ってしまう事を危惧したのだろうか…義勇にしては珍しく口を開いた。
「昔を思い出しただけだ…。
やっぱりクリスマスの日。
俺は孤児院の神父様のお使いで街に買い物に出てて…父親と小さな息子が店からリボンを首につけた大きなクマのぬいぐるみを手に出て来たんだ。
で、父親がなんでそれを選んだんだ?って聞いたら、子どもがパパに似てるからって…。
普段仕事が忙しくてなかなか会えないから、いない時は代わりにって言うの聞いて、父親が子ども抱きしめてて…
羨ましかったな。
クマがとかプレゼントがとか言うのもあるけど、いなくて寂しいって思える相手がいるのが…。
俺は親の顔とか覚えてなかったし…」
淡々と語りながら歩き始める義勇。
それを聞きながら、錆兎は決めたのだ。
今年のクリスマスプレゼントは宍色の毛並みに藤色の目のクマのぬいぐるみにしよう…と。
それからは色々調べて材料を吟味して、義勇に知られないように自分の寝室でこっそり制作に取り掛かった。
元々手先は器用な方だ。
なのでクリスマスには素晴らしい物ができあがった。
仕上げのリボンは義勇の瞳を模した深い青のリボン。
いつも側にいて、いないと寂しい…義勇にとって自分がそんな存在になれれば良い…そんな思いを込めて作った逸品だ。
当たり前に側に…それは錆兎にとってまさに当たり前の事だったので、錆兎はそれが当たり前ではないと思われる事を何故か想定していなかった。
この同居生活が始まったきっかけすら、実はその頃はもう半分忘れかけていたのだ。
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