頭痛がするという義勇をいったんマンションの駐車場で降ろして、錆兎は義勇の忘れものを取りに戻るべく、車をUターンさせた。
しかしバックミラーに映った義勇が駐車場でしゃがみこんでいるのが見えて、焦る。
車の流れがあるので即止めるという事も出来ず、マンションの区画の周りの道路をグルリと1周。
慌てて駐車場に戻るもそこには義勇はいない。
と首をかしげるが、結局どうしたって心配なのだ。
なにしろ無理をする人間だと言う事はこの1年弱一緒に暮らしてきてわかりすぎるくらいわかっている。
しかし孤児だと言う義勇が言ったお守りというのは、おそらく捨てられた際に一緒に添えられていたとかそういう類のものなのだろうから、錆兎が想像するよりずっと大切なものなのだろうし、手元にないと落ち付かないだろう。
さて、どうする…。
いっそのこと義勇が申告する前に親しくしている事務所の先輩の宇髄あたりを呼びつけて付き添わせているか…?
いや、それも人見知りなところのある義勇としては落ち付かないところだろう。
…あ…そか、逆にすれば良いのか。
しばらく駐車場に停めた車の中で考え込んでいた錆兎は思いついて顔をあげた。
そうだ、忘れ物の方を宇髄なり煉獄なりの悪友達の暇そうな奴に取りに行かせればいい。
幸いにして彼らはみなそれなりに顔が知れている。
錆兎本人が彼らに取りに行かせると連絡を入れたら店も対応してくれるだろう。
そう思って宇髄に電話を入れた。
『俺だ。なんだ?錆兎がこんな時間に電話たぁ珍しいじゃねえか?』
と、当たり前に出た宇髄の後ろでは女性の声。
どうやらデート中らしいので、電話をかけた理由だけ話して煉獄に頼む旨を伝えると、基本的には人が良い宇髄は
『あ、いいよ~。俺が行ってやる。
デート中なんだけど、そこで飯にするから。
店の場所教えろよ』
と言ってくれたので、頼んでおいた。
「助かる。今度なにか埋め合わせするから」
と、店を教えて電話を切って、今度は店の方に宇髄に取りに行かせるので預けて欲しい旨を伝え、全ての手配が終わると錆兎は急いで車を降りた。
こうして急いで自分達の部屋へ。
万が一気分が悪くて寝ているなら、病人に玄関先まで足を運ばせてはいけないと、ソッと鍵を開け、静かに中に入る。
室内は真っ暗だが、もしかして寝ているのだとしたらあまり強い灯りも良くないだろうと、廊下の電気をつけて、リビングを覗き込んだ。
そしてソファに誰もいない事を確認してリビングの灯りをつける。
ここに住み始めた時から、外から帰った時はいつも義勇が隣にいたからどこか変な感じだ。
リビングにいないと言う事は寝室で眠っているのだろう。
そう思って念のため様子を見ようと錆兎はソッと義勇の寝室に足を踏み入れた。
……え?
暗い部屋。
閉め切られたカーテンのせいで月明かりすら入らないのでよくは見えないが、少なくともベッドに人の姿はない。
パチッ!と慌てて灯りをつけて、錆兎は呆然とした。
元々義勇は私物が少なく、部屋もガランとした感じではあるのだが、どこかおかしい。
まるで生活感がない。
足早にクローゼットに駆け寄って開けてみると、案の定、空だ。
義勇が住んでいた痕跡が消えている。
何故?何が起こっている?
錆兎は急いで今度は自分の寝室へと飛び込んだ。
灯りをつけるとそこは朝と何も変わりはなく、無くなった物もない。
そうして混乱したままもう一度自分の寝室を出てリビングに戻った錆兎はそこに一枚の書き置きをみつけた。
本当にシンプルな1枚の白い紙にただ一言…
――今までどうもありがとう。 義勇
とだけ。
…出て…行ったのか……
あまりに突然の出来事に、錆兎はフラフラと力なくソファに座りこんだ。
そして思い出す。
この生活は元々錆兎が役作りのためと頼みこんで始まったものだ。
2人が恋人同士として一緒に演じる撮影が終わったら、一緒に暮らす理由もなくなる…ということなのだろう。
何故だか錆兎はそんな事も全く頭になかった。
2人の生活は当たり前にいつまでも続くのだと思い込んでいた。
でも考えてみれば…義勇は恋人を演じながらもどこか自分に対して一線を引いていたように思う。
どんなに頼って甘えてくれと言っても、自分の事は出来る限り自分でというスタンスを崩す事はなかったし、今までプライベートで錆兎の周りにいた数少ない過去の恋人達のように、錆兎に何かをねだってくることもなかった。
そんな義勇が唯一錆兎にねだってくれたのが今日の夕食で…普段ねだることのない義勇のそれが嬉しくて、浮かれて欠片も怪しんでみなかった自分はなんて迂闊な男だったんだろうと思う。
義勇はおそらく仕事のためにとこの生活を受け入れてくれて、それを完遂して出て行ったのだ。
それを無理に引き留める権利は、自分にあるはずがない…。
全てを理解して…でも心は現実を受け入れられないまま、錆兎はもう一度義勇の寝室へと足を運んだ。
綺麗に整えられた部屋。
…ここで…今朝も義勇が寝てたんだよな……
と、そっと触れてみるが、それは出て行くことを想定していたのだろう。
綺麗にベッドメイキングをされた状態で、使われた形跡すらもう感じられない。
錆兎は綺麗なベッドを見てこんなに悲しい気持ちになったのは初めてだった。
まるで悪夢を漂っているような気分だった。
だって、今朝自分は確かにいつものように自分がクリスマスに贈ったクマのヌイグルミを抱きしめてここで寝ている義勇を起こしたのだ。
それが今、こんな何もない状態になっているなんて…
…っ??…何も…???
そこで錆兎の視線はベッドの枕許へと釘づけになった。
普段義勇は部屋を留守にする時は必ずそこにクマを座らせていた。
そう…錆兎が作った、錆兎を模したクマだ。
親がいない寂しさを埋めるために親の代わりにとヌイグルミをねだった子どもの話を聞いて、自分がいない時には自分の代わりに…と贈ったクマ。
なかなか良いお値段だった正確な時を刻む目覚まし時計も、ノートPCも、文具も、その他錆兎が義勇用にと買いそろえたこの部屋にある物、なにもかも全て置いて行ったのに、錆兎のクマだけ何故――?
…っ!!
錆兎は一つの可能性に辿りつくと、即踵を返して部屋を飛び出した。
義勇を構成する性格は大きく分けて二つ。
嫌だと言えない、諦めの良すぎる点。
そして…もう一つは欲しいと言えないこと…。
前者だと思っていた。
仕事だと言われれば不本意だとしても共同生活を送るのを了承せざるを得なかったのだと…。
でも後者だったら?
一緒にいたい…これは仕事だから与えられた物だから望んではいけない、仕事が終わったら返さなければいけないものだけど、一緒にいたい…そう思っていたとしたら?
そうじゃなければ何故一緒にいられない時の代わりにと贈られた錆兎のクマだけ持って行ったんだ?
捕まえてやらなくては…と、思う。
押しつけでも良い。
前者だったら自分が迷惑がられて突き放されるだけだ。
義勇が悲しい気持ちのまま街をさすらうより、自分が拒絶されて傷つく方がマシじゃないか。
錆兎はマンションの部屋を飛び出して、エレベータを待ち切れずに階段を駆け降りた。
義勇を降ろしてだいぶたつ気がするが、義勇だって錆兎が戻るまで2時間くらいかかると思っているだろうから、そう急いで行動はしていない気がする。
雨はいつのまにか雪に変わっていた。
しかし錆兎は傘もささずにマンションのエントランスを出て左右を見る。
それらしき人影は見当たらない。
そこで
「誰かっ!ここをヌイグルミ抱えたハイティーンくらいの男通らなかったか?」
と、道行く人を片っ端から捕まえて聞いてみるが、自分が有名人だと言う事をすっかり忘れていた。
こんな時間だと言うのに出来る人だかり。
「頼むからっ!!あいつが見つかったらサインでもなんでもしてやるから、今は通してくれっ!!!!」
――どうしたの?
――え?え?マジ?本物のサビト?!!
――何の騒ぎ?
――本物だーー!!何、何、撮影?!
――違うんじゃない?誰か探してるって…
――ヌイグルミ?クマの?それピンクの?
ざわつく中で聞こえる女子校生達の会話。
「それだーーー!!!!そこの女子校生っ!!そいつどこにいたっ?!!!」
普段はそのキャラクタに似合わずファンに対して紳士的な錆兎だが、今はそんな余裕もない。
強引に群がる面々をかきわけて、その声の主の少女の腕をガシっとつかんだ。
「頼むっ!どこにいたっ?!教えてくれっ!!!」
迫る錆兎に周りの少女達は黄色い悲鳴。
言われた当人が真っ赤になりながらも
「あ、遊歩道で…クマのヌイグルミ抱えた肩くらいまでの髪のすごく綺麗な子が…」
と言うのを
「さんきゅっ!!」
と遮って、錆兎は少女の頭を撫で、ほんの一瞬迷って、
「これ礼と詫びなっ!いきなり掴みかかって悪かったっ!!」
と、愛用の小さな狐のブローチを胸元から外して少女に握らせて、人ごみを突破し駈けだした。
――ぎゆう…ぎゆう、ぎゆう、ぎゆうっ!!!
大通りから裏道に入り、マンションの裏手の遊歩道へ。
この時間だとさすがに人通りも少なく、まっすぐ続く道の遥か遠く、川沿いに設置された小さなベンチに人影を見つけた瞬間に、猛ダッシュする。
それはまるで絵本のような光景だった。
晴れた日には散歩をする親子連れが休むのにぴったりな、背もたれが動物の形をした可愛らしいベンチ。
そこに少し吊り目がちな藤色の目をした宍色のクマのヌイグルミをしっかりと抱きしめた綺麗な青年が眠っていた。
濡れてぺしゃんとなった漆黒の髪にも同色の長い睫毛にも透明な雪のかけらが降り注ぎ、街灯の光を反射してキラキラ光っている。
色を失った青白い頬にはかすかに残る白い筋…涙の跡…
マッチ売りの少女?フランダースの犬?あるいは…幸福な王子?
そんな切なさを伴う愛らしさを感じさせる風景に錆兎は一瞬言葉を失い…しかしすぐハッとした。
「ぎゆうっ!!ぎゆうっ!!!しっかりしろっ!!!!」
肩を揺すると一緒に力なく揺れる身体。
頬を軽く叩いても反応はない。
なのに腕はしっかりとクマを抱きしめたまま…
「っくそっ!!!」
錆兎は自分のコートを脱ぐと義勇をそれで包んで抱きあげ、急いで大通りに出てタクシーを拾う。
そして
「一番近い救急病院までっ!!急いでくれっ!!!」
市内を走るには端から端まで行ったとしても過分なだけの紙幣を運転手に突きつけ、そう叫んだ。
運ばれた病院は当たり前だが通常の診療は終了していて、ところどころに案内のランプがついただけの暗くシン…とした廊下を進んでいると、なんだか現実世界からどこか恐ろしい所に向かっているような気がする。
今までいついかなる時も冷静であったはずの頭の中は真っ白でうまく働かない。
言われるまま機械的に書類を書き、ただ聞かれた事について機械的に答え、担架に乗せられて行く義勇を見送って、入院手続きを済ませる。
おそらくそれは本能的に自衛しているのだろう。
全てがガラス一枚隔てた向こうの出来事みたいで、現実感がわかない。
そのガラスを割って現実を目の当たりにすれば自分は発狂するんじゃないか…と、それも他人事のように思う。
それでも現実は自衛の窓を強引に開けて入りこんでくる気満々なようだ。
――…肺炎……?
診察が終わって呼ばれた部屋で、医師から説明を受ける。
医師の口から出て来たその聞きなれた病名に少しホッとする。
聞き慣れているだけにひどい病気の気がしなかった。
「じゃあ…大丈夫なんですね…」
と安堵の息を吐きだした錆兎に医師は難しい顔で引導をつきつけた。
「いえ…大丈夫じゃありません」
「…は?」
「確かに肺炎というのはよくある病気で、死亡する患者の92%は65歳以上の高齢者ではありますが、では若ければ大丈夫かと言うと必ずしもそういうわけでもないんです」
「…義勇は大丈夫じゃない…と?」
いやいや、ないだろう。
そんなわけはない。
自分が軽々しく物を言い過ぎたせいで少し脅されているんだ…と、泣きそうな気持で思う。
が、その小さな希望を否定する医師の言葉…
義勇は栄養状態が良くないせいで年相応の体力がなく、病気に対する抵抗力も著しく低下しているとのことだ。
…ああ……と、錆兎は納得出来るだけに絶望した。
一緒に暮らし始めてからは少しでも栄養バランスの良い物をと食事にも気をつけていたが、身体が出来る頃にずっとロクな物を食べられなかった義勇は元の食が細いのもあるのだろうが身体も細いままだった。
錆兎からすると驚くほど簡単に熱を出したし、よく風邪もひいた。
成長期に必要な栄養を取れなかった身体は、今になって1年くらい栄養に気をつけたところで早々に健康になれるはずもないのだ。
即死ぬとは言わない。
だが楽観視も出来ない。
そう宣告されて、錆兎は自分の方が死にたくなった。
何故あの時に様子のおかしい義勇を1人で部屋に返したのだろうか……
病院の特別室。
今錆兎に出来るのは最高の病室と治療を用意してもらえる費用を出す事くらいで…それ以上なにも出来ないのだ。
たとえ目の前で義勇の病状が悪化して、そのまま息を引き取ってしまうことになっても……
…死にたい……
目の前で身体にたくさんの管をつけた義勇を見て、錆兎は頭を抱えてうずくまって泣いた。
どうしていいかわからない。
神様というものが目の前に分かる形で現れてくれれば交渉する事も出来るのに…
こざかしいだけの知能しか持ちあわさない自分は今、ただ泣く事しかできないのだ。
数十分後…着信音が鳴った。
宇髄からのメールだ。
『無事お財布ゲットしたぜ~。
届けに行ったんだけどお前いないし、もしかして坊ちゃんの容態悪くて病院だったり?
天元様が行ってやるから、病院教えろ』
デートのはずなのに切り上げてくれたのか…などと、普段は回る気も全く回らない。
ただ他に何も修飾もつけず、お礼すら言わず、病院の名前だけ打って送信を押す。
それでも駈けつけてくれた宇髄は文句の一つも言わず、ただ、大丈夫だ、大丈夫だからな?とだけ声をかけてくる。
いつも自分が義勇にかけていた言葉。
そう思うと涙がまた溢れだしてきた。
翌朝…錆兎は撮影がある…が、もうそれもどうでも良いと思った。
行きたくない、行かないと言う錆兎に宇髄は
「お前の大切な坊ちゃんの映画でもあるんだろうが。
ここでお前がやめちまったら坊ちゃんの映画もぽしゃっちまうんだぞ?」
と諭し、何かあったら絶対に知らせると約束した上で撮影へと送り出す。
錆兎は自他共に認めるほど理性的な人間で、さらに物ごころついた頃から芸能界で役者をしているため、仕事となれば自分の感情をとりあえず置いておくくらいはお手の物なはずだったが、今は無理だった。
酷い顔色だ…と、まず撮影現場の皆に心配された。
さすがに休んだ方がいいのでは?と勧められたが、そんな暇はない。
一刻も早く撮影を終わらせて義勇が入院している病院に戻らなければならないのだ。
そんな思いから強硬した撮影。
感情の割り切りなど出来るはずもなく、蒼褪めた顔のまま悲壮感が漂った演技…
普通ならNG連発なところだが、非常に幸いにして、今日撮るラストシーンは、恋人を目の前で殺されて絶望した主人公が仇である敵を殺したあと、恋人のあとを追うというものだったので、事情を知らない面々からは、なるほど、錆兎のこの酷い状況は役作りの一環だったのか…と、納得されたくらいである。
こうして全てのシーンを問題なく撮り終えたところで鳴るメールの着信音。
差し出し人が自分が不在の間に病床の義勇の付き添いを頼んでいる宇髄なあたりで、手が震える。
震えの止まらない指先でメールをタップすると、普段はくだらない修飾や冗談で埋め尽くされる宇髄のメールとは思えないほど短い文面…
『撮影終わったか?終わったなら急いで病院に来いっ!!!』
その切迫したような短い文に、演技を終えて止まっていた涙がまた溢れ出た。
今は運転はまずい…
絶対に事故を起こす。
自分が冷静でないと言う事だけ、かろうじて残った理性で判断して、笑顔で挨拶を交わし合うスタッフに一言もかけないまま錆兎は無言で現場を離れて外に出るとタクシーを拾った。
「釣りはいらないから…とにかく急いでくれ」
と、一万円札を渡して行き先を告げる。
すいていれば車で20分ほどの距離。
だがちょうど帰宅ラッシュでなかなか車が動かなくて苛立つ。
――夜に車が連なってると、この車の前に空へと続く透明の道でも出来て渋滞の上を走って行ったらライトがキラキラしてすごく壮観だろうなぁって思うよなぁ
以前ドライブに行って夜に高速道路で渋滞に巻き込まれた時、そんな普通は憂鬱に思えるような状況でも、こんなにたくさんのライトがキラキラしていて綺麗で楽しいと助手席で目を輝かせていた義勇を思い出して泣きそうになる。
なんでも珍しくてなんでも楽しくて、些細なことでも嬉しい…そんな義勇を幸せにしたかった…なのに……
こみ上げるモノを押し戻すように、錆兎は両手で顔を覆った。
もし義勇が元気になったなら…もう一度車で旅行に行こう。
夜の高速を走って、キラキラした車のライトに目を輝かせる義勇を堪能するのだ。
夜景の綺麗なホテルに連れて行ってやろう。
それから…
泣きださないために必死に色々を考えるが、それで余計に涙がこみ上げてくる。
理由も告げずに急いで病院に戻れと言う事は、おそらく容体が急変したということなのだろう。
離れなければ良かった…
何も出来ないのはわかっているが、もしかしたら呼吸をしている義勇を目にする最後の時間だったかもしれないのに…
悔恨ばかりがクルクルと脳裏を回った。
病院に着くと運転手に礼を言ってタクシーを降り、病室へと急ぐ。
エレベータを待つ時間も惜しく、2,3階くらいなら階段をかけあがりたいところだったが、あいにく7階の特別室なのでどう考えてもエレベータの方が早いと、イライラと足踏みをしながら待った。
義勇…義勇…義勇……
頼むから…待っててくれ……
祈るように念じながらようやく降りて来たエレベータに飛び乗って7階へ。
エレベータを降りると部屋数は多くはないのでほんの数秒で着く病室。
ドアを開けた途端鳴り響く警告音。
まるで現実感がない。
正面の寝台に横たわる最愛の恋人が力なく伸ばす手を取ろうと駆け寄って…
それはまるでスローモーションのようだった…
伸ばされた指先に触れようとしたまさにその直前…その手は力を失ってパタンとベッドのシーツの上に落ちて行った。
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