ソレが問題だ
「単刀直入に言う。息子を返して頂きたい」 指定された時刻、指定された店の個室に足を運べば、そこにいたのは初老の男。
一度しかことに及んでいないので、週数はすぐわかる。 Xday から 1 ヶ月強。 ゆえにだいたい今 2 ヶ月強と考えればいいだろう。
── まあ … 医療関係あるあるかもしれんが …… と、スコットが話し始めた内容は、決して ” あるある ” ではないとギルベルトは思う。 こんなことが “あるある” と言うほどあったら、世の中空恐ろしすぎだろう。
『ちょうどよかった。今電話をかけようと思っていたところだったんだ』 スコットに電話。 コール音ふたつでつながった瞬間、スマホの向こうの相手はそう言った。
「 … ぎ … ぎる … やだ … やだやだやだっ …… 」
「アルトどうしたんだっ?!!」 ギルベルトが帰宅すると、リビングのソファに寝かされていて、その正面でアントーニョが座っている。
「にんしん … けんさ …… やく???」 もうなにをどこかから突っ込んでいいのかわからない。 だってありえない。 自分は男だ。
「オ~ラッ!別荘で会うて以来やね。これ土産~」 ドアを開けるといきなりヌッと差し出される紙袋。 中には赤々とした大量のトマト。 なぜ手土産がトマト??と思いつつも受け取ろうと礼を言って手をのばすと、 「ああ、重いから親分が持ってったるわ。 なん...
「そんなに根を詰めないほうが良いんじゃね?」 コンコンとドアをノックして、ギルベルトが食事の乗ったトレイを置いていってくれるのに礼を言いつつも布から目を離さないアーサーに、ギルベルトが気遣わしげに綺麗な形の眉を寄せる。 そして 「ごめん。 どうしてもイメー...
それからの 1 ヶ月間は実に平和だった。 ギルベルトは正確には休暇ではなく自宅勤務という形態にしただけなので、平日の日中は書斎にこもってデスクに向かっている。 その間にアーサーは炊事以外の家事に勤しみ、その他の時間は刺繍三昧だ。