恋
それから十年以上の月日がたった。 アントーニョは理由をみつけてはイングランドに渡って時を過ごしている。 国の化身であるアントーニョが自国スペインよりともすればイングランドの地にいる事の方が多いくらいになると、さすがに上司も良い顔をせず、最近ではなかなか渡英を許可されないが、...
蒼白な顔…血の気などどこにもないように見えるのに、青白い唇から吐き出されたのは大量の赤い血だった。 驚くほど急激にさらに青くなっていく顔色…抱き寄せたらわずかに身じろぎをして、何か言葉を紡ごうとしたのか唇がかすかに動いたが、その唇からは言葉の代わりにまた大量の血が吐き出された...
「…貧血……?ほんまに?」 会議室で倒れたアーサーを医務室に運びこみ、そう医者に判断された瞬間、アントーニョは力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。 「平気か?アントーニョ」 気遣わしげに声をかけてくるロマーノに 「平気やないわ…腰抜けて立てへん」 と答えると、かたりとベ...
「あのさ、あいつ最近なんかおかしくね?」 悪友3人の飲み会…のはずが、フランシスが都合が悪くなってアントーニョの家で二人きりの飲み会。 先にそう指摘してきたのはギルベルトだった。 「あいつって?」 いつもはツマミを作るフランシスがいないため、切ったトマトとあげたジャガイモ...
結局…大方の予想通りイングランドはフランスに敗北し、唯一の大陸の領土であったカレーを失った。 もともとはイングランド側になんの利もない戦いで、兵を失い領土を失い、そういう状況をもたらしたスペイン帝国に対するイングランドの好感度は地に落ち、それでもイングランドの王宮を訪ね続けるア...
「妊娠…してへんて、どないことや?」 そのままイングランドにとどまる王太子に随行してイングランドに留まっていたアントーニョは、アーサーと共に女王付きの医師に呼び出されて女王の夫であるフェリペの部屋にいた。 そこには当然フェリペもいて、3人揃ったところでメアリー女王が子を身ごも...
結局イングランド王は自国の跡取り問題を優先した。 跡取りを産まないスペイン王女と離婚し、若い侍女をその後釜に据えたのだ。 その影響はもはやスペイン帝国との関係のみでは終わらなかった。 離婚を許していないカトリックからの許可がおりないため、イングランド王はなんとカトリックを離...
「見とき?そのうち俺はどんな手を使っても世界の覇者になったる!そしたら真っ先に自分からあの子奪い取ったるわ!」 フランシスにそう啖呵を切ってから300年の月日が流れていた。 あの時はカ~っとしていて力をつけてフランシスからアーサーを救出する事しか頭になくて飛び出してきてし...
スペインの王女がイングランドの国に嫁いでくる… その知らせを聞いてイングランドの国の化身、アーサーの心はひどく揺れた。 脳裏に浮かぶのは精悍な印象の浅黒い肌の男。 スペインの化身…アントーニョ。 幼い日、アーサーが初めて恋をした相手だった…。 300年ほど前…...
(天使様や…) そこは花咲き匂う天の御国…ではなく、ピレネー山脈を越えた隣国のはずれだった。 ボロボロの身体を引きずってたどりついた森の木陰でスペインは信じられないモノを見た。 大きな木の根元で森の動物に守られるように眠っている白い塊。 背中には綺麗な白い羽が髪に...