──…というわけでな、
と錆兎は読めない笑顔を浮かべた。
これは笑顔だが一般人が笑顔を浮かべるのとは若干意味合いが違う。
心から楽しくてとかではなく、おそらく元々はわりあいとキツイ印象を受ける彼が周りに威圧感を与えないように浮かべているものだ。
錆兎は威圧感を与えることで言葉の意味をきちんと理解できなくなる人間がいることを知っている。
そしてたいていの人間が気づかないままのそのことがわかってくるほどには、自分も錆兎との付き合いが長く深くなってきたということだろうと実弥は思った。
「お前が行動に出て、それが義勇の中でなんらかの心の傷として残ったとしたらお前の人生も全力で終わらせてたな」
と、言われてぞっとする。
他者に対して悪意を示したり敵対行動をとったりすることは極力避けた方が良いと誰よりも自覚している男の言葉なので重く深いし、普段そういう行動を避ける男に敵認定をされたら…それが周りへの影響力がこれほど大きい男であれば自分も本当にいろいろな意味で終わっていたというのは想像に難くない。
そうなった未来を思い浮かべて身震いする実弥の前で錆兎はつづけた。
「あ、一応お前も宇髄の話とかを聞いて知ってるかもしれないが、さらった相手は無惨な。
だからいくら今生で味方のようなふりをしていても、あいつが存在する限り義勇が嫌なことを思い出す可能性があるから、全力で消すつもりだ。
逆にお前は俺に対して敵対心を燃やそうが迷惑をかけようが、義勇を傷つけない限りはせいぜい対処をしないで良いように距離を取るに留めるから、その辺は安心しろ」
にやりと言う錆兎が怖い。
怖いのだが、正直不敵な笑みを浮かべる様子が少しかっこいいと思ってしまったのは秘密だ。
まあ…さすが宇髄ほどの男の”推し”だなとは思う。
それと同時に自分も一緒にやりたいなと思い始めてしまうのが、人たらしのお屋形様や宇髄をして”人たらし”と言われる男なだけはある。
また、その究極の人たらしをここまでたらしこむ冨岡は正直すげえ!…と思う。
──…あのな、
──…ん?
──……してぇ…
──…?したい??何を、だ?
素直じゃないのは筋金入りで、まあこっぱずかしいと思いつつも、実弥は何か衝動が抑えきれなくて言った。
──…俺も…滅、無惨の……
──…あ~~!!
錆兎はぽん!と手をたたいて、そして言う。
きっぱりと言い切った。
──すまんっ!
へ??とその答えに実弥は一瞬目を丸くして、それから断られた?とショックを受けたわけなのだが、続いた言葉は…
──もうお前は思い切り巻き込まれている!拒否権なしでっ
で、実弥はさらにびっくりしたあと、ホッとしたのと、錆兎のその言い方があまりにあっけらかんとした感じで面白かったのもあって、吹き出してしまう。
それにちょっと不思議そうにきょとんと首をかしげたあと、錆兎は
──押し付けられた役割を思うと、笑い事ではない気もするが?
と、言いつつ、あまりわけがわかっていない実弥に説明をしてくれた。
以前、玄弥のことで改心して挨拶に行った時、錆兎に頼まれたのは、これからは無惨を討伐する話を書いてくれということだった。
それもなるべくけちょんけちょんにやっつけるようなのが良い。
そう言われて、実弥はてっきり鬼殺隊の内部への啓蒙のようなものかと思ったのだが、違ったらしい。
「無惨は気位が高い男だからな。
自分がけなされれば黙ってはいない。
おそらくお前に恨みを持って何らかの行動を起こしてくる可能性が高い。
つまり…お前を無惨をおびき寄せる餌にさせてもらったというわけだ」
本来なら大概な扱いなのだろうが、実弥にしてみればこれまでかけた迷惑を考えればまったく問題のない範囲のものでもあるし、なにより女の甘露寺ですら最期まで戦って亡くなっている中で、真っ先に気を失ってそのまま目を覚ましたらもう戦いが終わっていたなんて不本意すぎるものだった前世の最終決戦のリベンジをしたい。
かといってそのためにお屋形様の爆死で始まるのはもう避けたいし、無惨が自分をめがけて来てくれるなら願ったりかなったりだ。
唯一気になることと言えば玄弥の身だが、前世と違って今生では風柱屋敷にはいるものの隊士ではないので、戦いで死なせることはないだろう。
そんなことをふと脳裏に思い浮かべていると、なぜか察したらしい錆兎は
「ああ、玄弥のことなら、お前に万が一があっても一生不自由なく暮らせるだけのものはお屋形様の方で用意してくださっているそうだから、安心しろ」
などと、万全のフォロー体制も整っていることを教えてくれたので、もう気がかりもなく打倒無惨にむかって邁進する気持ちの準備は万端になった。
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