「そもそもが…最初の人生の時に鬼になった元月彦…無惨に遭遇したことがあるんだが、俺が斬り損ねた無惨を射抜いたのは義勇の方だったしな」
錆兎は強いんだっ!と義勇が誇らしげに自慢するのはよく聞いていたが、逆は初めて見る気がする。
まあ…語る内容と言うか、シチュエーションが少しばかりアレなところがないとは言わないが…。
「当たり前だが鬼は昼間には出ない。ということで夜更けのことだったか…。
同性とは言え、まあ健康な成人男子なら恋人同士でやることはやるだろう?
で、終わってそのまま義勇と共に寝ていたら何かの気配がしたんだ。
当時の屋敷と言うのはしっかりした扉があるわけじゃないからな。
夏だったし庭との境は御簾一枚で、庭に何かくれば気配に敏い人間はなんとなくわかる。
で、問題は庭の内側には普通に何かが来るはずがないことなんだ。
当時の我が家は壁をとてつもなく高くしていて、壁から内側のかなりの範囲に砂利がひいてある。
もちろん壁近くには木なども植えていないから、よしんばすごく頑張って人の目を避けた上で壁をよじ登っても侵入者が内側に降りようとすれば砂利がなるようになっていた。
砂利のない内側に来られる者と言えば、空を飛べる鳥くらいなものだが、その時は夜だったし大きさからしてもありえない。
となると、侵入者の正体はおのずからわかる。
俺は頭上に置いてあった刀を手に取って相手を待ち構え、御簾を超えてきた時点で斬りつけたんだが、着物の袖と髪を切り落としただけですんでのところで避けられた。
で、相手が逃げにかかったからこれは逃すかと思った時、気配もなく起きた義勇の放った弓が相手の目を射抜いたんだ。
あの状況で慌てもせず実に冷静に正確に敵を射抜く義勇はすごく美しくて、わが恋人ながら惚れ惚れしたものだ。
まあ結局は目を射抜かれながらも相手は逃げて、後日…直衣…あ、当時の貴族の服な?から、相手が鬼となった無惨だとわかったわけなんだが…」
そう錆兎の目は錆兎の武勇伝を語る時の義勇並みにキラキラしている。
2人は互いに互いをすごく好きなんだなぁ…と、もうその間に割って入ろうとしていた自分が馬鹿だったと実弥が思うくらいには…。
そうして英雄の孫達であった二人は自身の武功でも有名になっていって、だんだんと持ち込まれる縁談避けの意味でも二人で錆兎の叔父が頭領をやっていた船団に入れてもらって海に出ようと思っていたらしい。
しかしそこで皇太子妃を輩出しているお館様の実家の産屋敷家に政治の宣伝的な協力を求められて、縁談話など面倒なことはそちらで対処してもらうという約束で都に残ることにしたとのことだ。
錆兎がどの時代も強く煌びやかなのは想像していたが、義勇がそうやって華やかな舞台に立っている図と言うのは想像できない。
いや、百歩譲って、本来は綺麗なはずの容姿が誰にも気づかれない程度に台無しになるくらいに不愛想で変わった性格だった前世と違い、今生では愛らしいと微笑ましい目で見られているのは認めるが、決してカッコいい系ではないと思う。
不快感を示されるか?と思いつつもそのあたりを正直に口にしてみると、錆兎は笑う。
そして
「平安だからな。男でも武骨で逞しいよりも美しく優美な事が良しとされる時代だ。
刀を振りまわして暴れる俺よりも美しい顔で的確に弓を放つ義勇の優美な姿の方が人気がでる。
強くて綺麗なのが最強なんだ」
と柔らかな声音でそう言った。
まあこれはあとで宇髄に聞いてみると義勇よりは錆兎推しで錆兎の友人なんだという宇髄は
「あ~…義勇も人気はあったが、主役はやっぱ勇者だろっ。
あいつは別格。
義勇が人気者っつっても、飽くまでお伽噺の勇者の相方でその傍にいる麗人って立ち位置だな」
と言っていたので、まあ義勇から見た錆兎が数割増しなのと同様に、錆兎から見た義勇の素晴らしさも数割増しなのだと思われる。
そんな風にひたすらにキラキラしく平和に幸せに…最初の人生は過ぎて行ったようだった。
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