寮生はプリンセスがお好き10章48_判決

悲報…心配をしながら慌てて帰還したら、プリンセスが黒幕の手下と談笑中だった。

いや、別に相手に洗脳されているとかではなさそうだったので良いのだが、とりあえず相手は女だから優しい言い方をしてやれと言われるともにょる。

女だから?
いや、女だとしても巨悪の手下なんだが?
…とは、なるべくプリンセスを不安にさせたくなくてそのあたりの揉め事を隠して来たので今更言えない。

かといって大切なプリンセスに対して害意を持っていた相手に優しい言い方なんて出来ない、したくない。

そんなギルベルトの内心の葛藤は、非常に人の心の機微に敏いフェリシアーノが当然のように気づいて
「う~ん…。あのね、確かに女の子には優しくするべきだとは思うけど、その人ね、薬で寮長達を操ってプリンセスと引き離して好きにしようとしてた人なんだ。
今日の昼にルークがこなかったのもそのせい。
で、さっき金竜のシャルが銀狼に逃げざるを得なくなったのもそのせいなんだよ」
とフォローをいれてくれる。

ああ、フェリちゃん、感謝だ、感謝。恩に着る。
…と視線で礼を言うギルベルトにぱちんとウィンクで応えるフェリシアーノ。

一方でアーサーはそのフェリシアーノの言葉に目を丸くして、一気に顔色が悪くなるアンに視線を向けた。
そしてにっこりと笑みを浮かべて言う。

「やみくもに学園の人間関係をひっかきまわしても仕方がないし、何か理由があるのでは?
話して頂けますか?レディ。
あなたの立場だけ必要以上に悪くなるような状況にならないよう、きちんと説明したほうが良いと思います」

その言葉にアンはハッと顔をあげた。

どうやら銀狼寮のプリンセス…もといプリンスは飽くまで自分を擁護してくれるつもりらしい。
怯えている場合じゃない。
今こそ悲劇のヒロインムーブを発揮する時じゃないかっ!
そう気づいてアンは再び握り締めたままのハンカチを目に当てた。

そうして
「…私…生活を考えたら断れる立場じゃなかったんですっ…」
と涙ながらに語る。

ごくごく普通の家庭に育って一所懸命勉強してそこそこの大学に入って、なんとか入れた一流企業。
そこの取引先に連れて行かれて、この学園で寮長を中心に人心を掌握するよう命じられたこと。
一新入社員の立場で大手企業とその取引先相手に喧嘩を売るような真似ができるわけもなく、引き受けるしかなかったこと。
寮長の気を引くようにはしたが、そこで敢えてプリンセスを虐げるようなことをしろと言った覚えはない事。
ロディに関してはアンの後ろにいる企業に気づいて自分から接触し、最終的にはアンを通さず担当者と直接やり取りをしているので、金竜寮の騒ぎについては全く関知していないどころか知りもしなかったことなど。

内心はノリノリだったとしても、それは言わなければバレない事で、物理的な事実だけを述べるならこれは嘘ではない。

「…ここまで話してしまったら……私は企業側に何をされるかわからないけど……」
と最後に泣いてハンカチに顔を埋めれば完璧である。

銀狼寮のプリンセスからは同情のような視線を向けられているが、その横のカイザーの視線は相変わらず厳しい。

──…証拠は?
と問い詰めてくる。

──証拠と言われても…
と口ごもるアン。

関知していたという立証は容易でも関知していないという立証は難しい。
…が、ここでも銀狼寮のプリンセスの助け舟が出た。

「金竜寮の事を知ったのはこちらに来てギルが居なかったからフェリか誰かに聞いたんですか?」
と問われれば、あ~!!と思い出す。

証明してくれるかどうかはわからないが、自分がギルベルトが金竜に向かっているのを知ったのはユーシスからだった。

そこで実はどうすればいいかわからないなりに最上級生の寮長達に相談しようと連絡してユーシスが来てくれた時に教えてもらったのだと言うと、ギルベルトが無言でアンに自身の携帯を渡してしまっているユーシスの代わりに彼の側近の銀虎寮寮生に電話をかける。
そうしてユーシスに代わってもらって確認。

「…嘘じゃないようだな」
と納得した。

「まあだからと言ってやったことに罪は消えないわけだが…」
と、しかしそれでもそう続くギルベルトの言葉にアンは青ざめたが、今度はなんと自分に対して良い感情を持っていないであろうフェリシアーノから待ったがかかった。

「ね、でもさ、たとえ彼女を罰したところで、黒幕をそのままにしてたら第二第三の彼女が出るだけだと思うよ?
それならむしろきっちり協力させて証言もしてもらって、黒幕を叩いた方が良くない?」
「…プリンセスを害そうとした輩だぞ…」
「銀狼は実害出てないよね?」
「…それはそうだが…」

非常に不満げなギルベルトの様子にフェリシアーノは今度は
「アーサーだって利用されただけのベッラがひどい目に遭うだけで終わるなんて結末は嫌だよね?」
とアーサーに矛先を向けた。

フェリちゃん、それはずりいぞ…と文句を言うギルベルトではあったが、元々介入する気だったアーサーが
「ギル…強きをくじき弱きを助けるのが銀狼だと思う。
ましてや相手はか弱いレディだ」
と言ったなら、もう決定事項だ。

「はいはい。わかったっ!
じゃ、モブ三銃士、どうせ映像撮ってんだろ?
それをOB達に事情がわかるようにきちんと編集しろ。
あとは大人が勝手にやるだろ。
中心になって関わった銀狼の意向としては、脅された実行犯は黒幕を叩き伏せるための協力をさせるのと引き換えに罪を問わずに逆に表立ってない勢力からの攻撃を受けないように保護と生きていくのに困らない生活をさせるということで。
ま、司法取引の対象ってことだな。
それでいいか?」

ガシガシと頭を掻きながらそういうギルベルトにモブース達モブ三銃士は敬礼。
今現在の記録も継続するためモブースだけが残って、あとの二人はさっそく作業に取り掛かるために退出する。

振り回されて心配して疲れ果てて…ついでに途中命の危険まで感じた騒動の結論としてはなんだか納得できないギルベルトだが、プリンセスの意向となれば仕方がない。

割り切れない思いを抱えて下した結論に向けて指示をしたわけなのだが、そこで愛しのプリンセスが
「ありがとうっ!ギルっ!!」
と抱き着いてくれたことと、作業のために部屋を出ようとするモブ三銃士の二人に
「ギルがマントを翻して金竜寮戦で指揮を執っているシーンは俺も見たいから、あとでダイジェストで見られるようにして欲しい」
とかけた言葉で、もうマイナスな気持ちが全て吹き飛んだのだった。












2 件のコメント :

  1. よくありがちな誤変換報告です。「強きをくじき弱気を助ける」→弱きですよね...^^;なぜ、そう変換する?とPCに訊きたい(;・∀・)

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😀

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