俺様これからお姫さんと約束あるから」
まるでいつもと変わることなく、悪びれた様子もなく言うギル。
だが、その態度と言葉にケイトの周りの空気が冷えて行く。
と言う言葉は、ネット上なので声が聞こえるわけではないのだが、ひどく険があるように思える。
まあ、状況を考えれば、実際にそうなのだろう。
リアルで青くなるアーサー。
「あ、あの…今日はギルさんと一緒にクエストアイテムを取りに……」
と言うと、当たり前に
「私も行くよ!」
と、言うケイト。
…ああ、そう言うよな……と、リアルでため息。
さて、どう断ろうと思っていると、アリアが口を開く前にギルが言ってくれた。
「ああ、少人数の方が楽だし、2人で行くわ」
もちろんケイトはそれに納得するはずもなく
「じゃあ、私が手伝うよ。
ギルは来なくていい」
と言うが、それもギルはあっさり
「それじゃ意味ねえじゃん。
クエストアイテム欲しいの俺様の方だし?
今日は俺様の方がヒーラーのお姫さんにヘルプしてもらうんだよ」
と、論破する。
──ああ、ギルさん、ほんっきで頼もしすぎて泣ける…
と、リアルで感涙するアーサー。
こうしてそれ以上の言葉が出ないケイトを残して、2人は一応クエストアイテムが取れる洞窟前にワープして、モンスターに視覚されなくなる透明薬を使って奥へと入って行った。
『とりあえず、今後の予定の説明な~』
モンスターが沸かない場所をキャンプ地と定めて、ギルが念のためと、いつも連れている子竜を出す。
パタパタギルの肩口を飛ぶ、竜騎士の鎧と同色のプルシアンブルーの子竜。
それは単に愛らしいだけではなく、命令を与えておくと、ある程度の範囲内に敵やプレイヤーなど何かが来た場合は教えてくれるらしい。
まあ…ないとは思うが、モンスターが沸かないと言っても、万が一誰かがモンスターから逃げて、そのモンスターが元の場所に戻るのに絶対にここを通らないとは言えないので、本当にそんなレベルでないではあろう念のためだ。
『今から1週間後、ノアノアがギルドを新しく立ちあげる。
俺もだけど、お姫さんはそれが出来たらそっちに移るぞ』
『は??』
何故そこにノアノアさんが?
いやいや、それ以上に…ギルド移るなんて言ったらめちゃくちゃ揉めないか?
ケイトに何を言われるか……
ネット上のことだ。
別にリアルに影響するわけではない。
でも怖い。怖いのだ。
クルクルと色々が脳内を回っていると、ギルが言う。
『本当は俺様が作るとこなんだけど、俺様最近、所属国チェンジしちまったばかりで、国民ランクが低くて自分ではギルド作れなくてな。
で、ノアノアは前にも言った通り俺様のリアル知人だから、今回のことで協力を頼んだんだ。
ということで、ギルド移動までの1週間はなるべく俺様と行動してくれ。
移動については最近一緒の俺様にぜひと誘われたからと言ってくれていい。
他の奴らはだいたいケイトの粘着にお姫さんが困っているというのは察してるから、他の奴らへの根回しは俺様がする。
ケイトに対しては本当はお姫さんの口からはっきり言った方が良いと思う。
だけどどうしても怖ければ俺様が言うけど?
つか、さっきもまた怪しげな事言われてたりしたか?』
ああ、もうあなたは神か?
何でもお見通しなのか?!
あまりにアーサーの疑問や状況について全て網羅しすぎてて、眩暈がする。
とりあえず状況もやる事もわかったが…吐き出したい。
楽になりたい。
そう思って、さきほどのやりとりと、なんとかこういうのは無理だと伝えた事を報告する。
するとギルは
『そうか、そこまでは言ったのか。
よく頑張ったな。
まあ…それでその反応だと何言っても聞かねえな。
おし、じゃ、前言撤回。
ケイトにも俺様が言うか』
と、頭を撫でてくれる。
『つか、その発言、通報ものだな。
普通にそんな事言われたら怖えってわからねえかな』
何故だろう。
頭を撫でながら抱きしめてくれる腕はディスプレイ上のデータに過ぎないのだが、ケイトの粘着に寒気がしたように、ギルのそれは本当に大きな包容力と温かさを感じた。
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とある白姫の誕生秘話始めから
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