雅之、いや、光一は肩を落として苦笑する。
そこでギルベルトが合図して和田が他の宿泊者を退出させる。
部屋には氷川夫妻とギルベルト、ルート、和田だけが残った。
「一応…物理的に今回起こった事をわかる範囲で追ってみましたが…」
ギルベルトが言うと、
「ありえない天才だな、君は。やっぱり凡才は天才には勝てないのかな、一生」
と、光一は言って小さく息を吐き出した。
「弟は…やっぱり天才肌だった。成績も良くスポーツも出来て…容姿こそ同じだったものの優れた部分は全部弟に持って行かれていた。苦労もせず何でも手にいれる弟を羨ましいと思ったし、正直近寄りたくないと思っていた。
そんな中、弟に出来た彼女が澄花だ。
弟はモテる男だったからいつも複数の彼女がいてね、いつもクリスマスとかイベントが重なってしまうような時は、どうせ暇なんだからいいだろって感じで僕に身代わりをさせていて…澄花に初めて会ったのはそんな身代わりで行かされたクリスマスだった。
頭がいい彼女にはすぐバレたんだが、彼女はなんというか面白がりで…どうせなら面白いからソックリな兄弟を並べて遊びに行きたいってことで、僕のパートナーとして紹介してくれたのが志保だったんだ。
サバサバした澄花と対照的に大人しい…内気な子で…弟みたいな出来すぎる男は怖いし、普通の人がいいって言ってくれて…僕達が真剣につき合いだすのに時間はかからなかった。
翌年のクリスマスにはお揃いの指輪も交換した。
お互い照れ屋で恥ずかしくてつけられなくて、それをお揃いのチェーンに通してペンダントとして身につけていたけどね。
そして次の年末から正月休み、久しぶりに弟と澄花と4人で旅行に行こうって事になってここから少し離れた旅館にきたんだ。
志保は何故か気がすすまなさそうだったけど、僕は彼女がいると言う事で弟と対等になった気がして…今思えば見栄だったんだな。
そして1月2日の夜…花火があがるっていうんで見に行こうって誘ったんだけど彼女は後で行くからって一緒に来なくて、僕は場所取りしておいてくれって言う弟の言葉で場所を取っていて、途中澄花も同じ事言われたらしくて外に出て来てて、でも花火があがる時間になっても二人とも来ないから様子見に戻ったら、二人が布団の中にいたんだ。
もう裏切られたショックで僕は彼女を罵るだけ罵って部屋を飛び出した。
入れ違いに澄花が入って来て…彼女も同じだったらしい。
罵るだけ罵って泣きながら出て来た澄花と二人、僕達の部屋にこもって泣きながら花火を見てた。
しばらくして志保が来てドアをノックしたけど僕らはそれを無視した。
”お願いだから話を聞いて。全部話すから…”
泣きながら言う志保の最後の言葉も聞かないふりをした。
自分より光二の方が優れてる。僕はそんな当たり前の事を聞かされるのが嫌だったんだ。
それから数時間後、志保は近くの崖から投身自殺をした。
崖にきちんと揃えておかれた靴の中には二人が交換した指輪のペンダントと涙でにじんだ字でただ”ごめんなさい”とだけ書かれた遺書。
詳細はかかれてはいなかった」
そこまで言ってうなだれる光一の肩にポンと手をかけると、
「換わるわ」
と、澄花はうつむく光一と対照的に挑戦的にも思える様なキリっとした目で顔をあげた。
温泉旅行殺人事件始めから
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