温泉旅行殺人事件_天使の奴隷の名にかけて7

「正直…志保が死んだ時、最初は私は何にも感じなかったの。

私達は孤児院で一緒に育って姉妹みたいなもので、でも私は自分の方がしっかりしてると思ってたし、いつも彼女の面倒をみてると思ってたから、出し抜かれたのが悔しかったのね。

許せなかった。
でもそれ以上に許せなかったのが光二。

志保は自分から言いよれるような子じゃなかったし、わざわざちょっかいかけたのはあいつの方だってのは火を見るより明らかだったから。

そして志保が死んだ事で怒りは一気に彼に向かったのね。

遺体を確認するなりそのままの勢いで駐車場に止めた車の所にいた光二の所に駆け込んだんだけど、その時なんだかコソコソ荷物整理してた光二があわてて何か隠したのを見て、それを取り上げたの。

写真だったわ。乱暴された時の志保のね。
それからはもう、言わないとそれを光二が持っていた事を警察に言ってやるって問いつめて吐かせたの。

結局…光二は光一に成り済まして志保を呼び出して乱暴した挙げ句、写真とってそれをネタに脅してその後も関係持ってたのよ。

それ聞いた私はもう呆然よ。
後先考えずに彼を罵って警察へ訴えてやるって踵返して後ろ向いた瞬間殴られて気を失って…
どうやらたぶん車に乗せられてそのまま突き落とされたっぽいのよね。

気がついたら病院で…もう全然何も覚えてない状態で…車も自分のでも知り合いのでもないっぽかったらしくて…でも第一発見者だったその車の持ち主がたまたま良い人でね、身元はわかったものの記憶ない状態で東京戻っても暮らせないだろうって私を引き取ってくれたのよ。
それが今の主人。

その後私は4人で旅行来て、志保が自殺して、自分はたぶん自殺未遂かなにかしたんだろうって事は聞かされてて、でも思い出せないまま主人の所で暮らしてて…まあそのまま結婚したの。

幸い看護士としての仕事は覚えてて、こっちでも看護士をして暮らしてね。

そのまま生きて行けたら幸せだったんでしょうけどね、結婚して14年目、夫が癌で余命1年て宣告されてね、その時彼が写真を出して来たの。

炎上する車からぎりぎり私を助け出した時に私が握りしめてたんだけど、あまりにショッキングなものだったからその時の私には見せない方がと思ったまま、返すタイミングを逸してしまったけど、もう20年近くたつものだし、私が記憶を取り戻す助けになればって。

それはあの時私が事実を知るきっかけになった志保の写真だった。

それで…全部思い出したわ。
夫にも全部話した。

ほんとはね、夫が亡くなってからにしようと思ったのよ。

19年よ?ずっと何にもないどころか自分の車をぶちこわした私を幸せにしてくれた相手なんだから、ちゃんと看取ってあげないとって、さすがの私でも思ったわ。

でもね、あの人はもう私の性格なんてお見通しでね、

”そんな人でなしのために君の人生を捨てる事はない。どうせなら僕の残りの人生を使いなさい”
って、完全犯罪を目指そうって協力を申し出てくれたの。

迷ったわ。
私どう考えても最後の最後まで彼の人生を踏みつけにする気がしてね。

でも彼が言った。

”僕の死後君がどうなるかを心配しながら死ぬのは嫌だ。
それでなくても何にもなくても君はめちゃくちゃな人なんだから。
少しくらいは心配ごとを減らしてくれ”

もうその言葉で決意したわ。

彼はたぶんそういう人で…私がそういう人間だってわかってそれが良いって結婚してるわけだしね。

その後…光一の実家は知ってたから光一に連絡取って全て打ち明けて…3人で計画練って、後はギルベルト君の言った通りよ。


しっかし…最初君達見た時、4人で来た旅行で端を発した復讐劇で、同じような4人組カップルいるなんて面白いなぁって思ったんだけど、こんな風に関わってくるとは思わなかったわ。

誤解しないでね、最初は君達巻き込む気なんてぜんっぜんなくて、バレなかったら今でも良いおじさん、おばさんとして冷やかしながらも楽しくおつきあいしてたと思うわよっ」

あっけらかんという澄花。

「言い訳じゃないんだけど、光一なんてルート君の事本当に心配して申し訳ない事したって言い続けてたし。
あんまり関わっちゃ怪しまれるからまずいって言うのに、心配だからって部屋まで連れて来ちゃうしね」
と、澄花はさらにからかうように言った。

「光二を殺した事自体は後悔はしてないわ。
まあ…旦那巻き込んじゃった事と可愛いカップル達の信頼裏切っちゃった事くらいかな、後悔があるとすれば」
さらにさらに付け加える澄花に、光一は顔を上げた。

「僕は…でもルート君と話せてなんだか楽しかったよ。
最初は僕と似てるのかなぁなんて思って他人じゃない気がして放っておけなかったんだけど、君は僕とは全然違う。
ギルベルト君みたいにすごい天才といて全然卑屈にならずに自分を保てるんだからね。ルート君も本当にすごい大物なんだと思う」

「あ~それ誤解です」
光一の言葉にギルベルトが言った。

不思議そうな視線を向ける光一に、ギルベルトはクスっと笑みをもらす。

「俺は…お姫さんの期待に答えたくて必死にあがいているだけの男で……俺達のことをよく知っている従姉妹に言わせると俺は“天使の奴隷”らしいです」




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温泉旅行殺人事件始めから



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