とある白姫の誕生秘話──兄貴と爺の密談1

「ジジイ、飯行くぞ、飯」

ワールド商事の若き課長補佐、ギルベルト・バイルシュミット25歳。
数々のプロジェクトをリーダーとして仕切り、成功へと導いてきた彼は、能力主義で若者も能力があれば積極的に役につける事で有名なこの会社の中でも、異例なレベルでの若い出世頭だ。

しかしながら若い社員が多い部署で今年昇進するまでは主任として現場で中心になってやってきたため、他の社員達との距離も近く、みんなの兄貴として人望も厚い。

そんなギルベルトの部署に、前任のお飾りだった上司の課長が左遷されてやってきた新しい課長、本田菊32歳。

能力はあるものの真面目で主張する事が苦手で要領の悪い彼は、前任者のイメージもあって赴任当初は随分と周りから浮いていた。

それを上手に補佐して、本来の本田の能力を周りにわからせて受け入れさせていったのはギルベルトだ。

本田は管理よりは技術が優れた技術職でいたかった人間なので、現場近くにいればその優れた技術力に皆一目置くようになる。

逆に彼が苦手な対人関係は可能な限りギルベルトが引き受ける事で、部署は今まで以上にクルクルと順調に回り始めた。

今日も何故か昼休みに入っても新人が間に合わなかったシステムを納期に間に合わせるために自ら組んでいる本田の手からマウスを取りあげて、それを共有サーバーに保管すると、ギルベルトは

「お前のやるべきことは、瑣末な作業じゃねえ。
特に今は昼だ。
仕事は禁止。飯を食え」
と、本田に告げると、顔をあげてフロア内を見回し、

「おい、お前んとこの新人の面倒はジジイがやるっつっても、自分で見ておけ。
作成中のシステムはフォルダProBに入ってるから、やっとけよ」
と、本来やるべき新人の所属しているプロジェクトチームのベテランに返す。

そこでちょうど昼に出るところだったチームのリーダーが
「え~、キクちゃんがやったら俺らの半分の時間で済むのに」
と言うのに
「課長って言え、課長って!」
と言うが、
「自分はジジイとか呼んでるくせに」
と、突っ込みを入れられ、
「俺様は敬老の精神で労わってフォローしてっからいいんだよっ!」
と、手は手早く本田のデスクの書類をとりあえず片付けながらも返して、最終的にデスクが綺麗になったところで、本田の腕を取って立ち上がらせると、食堂へ強制連行する。



「ジジイ、本当になんでもかんでも押し付けられてんじゃねえぞ!」

ワールド商事の社員食堂。
きちんきちんと栄養バランスのある食事の見本のように、まんべんなく栄養が取れるような食事をピックアップするギルベルトの前で、本田は塩じゃけ、つけもの、その他やけに塩分がありそうなものと白米を嬉しそうに頬張っている。

そこに有無を言わさず自分がピックアップしたサラダを追加するギルベルト。

「…ギルベルト君、これ……」
と、きょとんと皿に視線を落とす本田に

「良いから食え。お前に体調崩されると全部被ることになる俺様からのおごりだ」
と、ギルベルトはようやく自分の食事に手をつけ始めた。

それに小さく吹きだす本田。
そして
「では遠慮なく。御馳走様です」
と、手を合わせる。

サラダを一口ぱくり。
そしてにこにこと7歳も年下の部署としては先輩の部下に視線を向けた。





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とある白姫の誕生秘話始めから


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