温泉旅行殺人事件_天使の奴隷の名にかけて2

徒歩30分の場所に2時間以内に身代金を置いてくる、非常に簡単な条件です。
これで身代金を受けとる気は充分ある、と、普通は思います。
しかし実際はルートは足を踏み外して気を失って失敗したわけです。

当日ほぼ寝てない状態だったので、それが原因かと俺も最初は思ったわけですが…そういう状況で、足を踏み外したのをきっかけに気を失う…そんな事が早々あるでしょうか?
よほど打ち所が悪かったならともかく、通常は転倒したショックでむしろ目が覚めるものではないでしょうか?

別件でちょっと当日の食事について気を向けた時にふと気になってルートに確認したところ、ルートは身代金の受け渡しについて説明を受ける前、寝室で仮眠を取って目が覚めた時、和室に用意されていたカプセル状のサプリメントと空腹を防ぐ系のグミを口しているそうです。

ルートはそれをなんの疑問も持たず、旅館の側が夕食の時間に受け渡しをする自分に、胃に負担がかからないように、しかし空腹を感じない様にとの気遣いで用意してくれたものと思って口にしたらしいんですが、その後旅館に問い合わせたところ、そういう物を用意した事実はないそうです。

ということでおそらくこれは犯人が用意した、睡眠薬入りのカプセルだったのではと思われます。

カプセルに入っているため、一定時間後に効力が出る睡眠薬。
このためルートは足を踏み外して気を失ったのではなく、気を失いかけて足を踏み外したのだと思います。

以上の事から考えられるのは、犯人は元々”一人しか人質を解放するつもりはなかった”という事です。


通常…営利目的で人を二人誘拐した場合、人質を返さないなら両方返さない、返すなら両方返すのが普通です。

一人返すも二人返すもリスクは対してかわりませんし、リスクをおかしたくないなら両方返さない、殺人という罪状を負いたくないなら両方返します。

ところが犯人はあえて”一人は返して””一人は返さない”という選択をしていて、ご丁寧にそれを他に気付かれない様にと色々画策をしているわけです。

そして…犯人が誘拐事件を偽装する必要があった理由…まあ普通に考えればそれ以上の事件に関わる事、ここで言えば小澤光二氏の殺人事件しかないでしょう。

そこでおそらく誘拐事件の犯人は小澤氏の殺人に深く関わる人物と言う事になります。


以上の事から、返されなかったヴァルガスは”返したら犯人が困る何かを知っていた”、そして返されたカークランドは”返さないと犯人が困る何かを知っていた”と言う推論が成り立ちます。


ヴァルガスが何を見たかは本人を返さない限りはわからないので問題はないのですが、カークランドが何をみたかは証明してもらわないと困る事なので、逆にそれがカークランドを返した理由だとわかると犯人にとっては自分を特定される非常に不利な条件になります。

それが犯人が二人の人質の対応についての真意を隠そうとした理由です。

そこに気付いてからは簡単です。
カークランドが何を証言するか、それによって恩恵を受けるのは誰かをたどって行けば、犯人に辿り着きます。


実際…旅館の側に協力をして頂いて全員を非常ベルで母屋に集めて頂いたすきに、その推論を元に割り出した犯人の離れからヴァルガスを救出できたわけですが…」


「あ~、あの夜のやつね?そういう事だったの?」
OL3人組がまた口をはさむ。

「やっだ~。もしかして私達の部屋にも入ったのぉ?」
と非難の声をあげるOLには

「いえ、犯人の部屋だけですよ。時間ないですし」
と、ギルベルトは苦笑して答えた。


「でも…犯人があえて罪をなすりつけるために隙をみて離れに運んだとかいう可能性もあるわよね?」
そこで澄花が言うのに、ギルベルトはうなづいた。

「ええ、もちろんカークランドが無人の離れで発見されたという前例もありますから、そういう可能性も否定はできませんし、連れ出してしまった時点でそこに確かにヴァルガスがいたという事の立証は難しくなるというのもありますしね。

結局…ヴァルガスが犯人に取って不利になる何を知っているのか、本人もわからない状態だったので、犯人が捕まらない事にはまた狙われて危険だろうという事で、旅館の側に協力をお願いしてかくまって頂く事にしました」




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温泉旅行殺人事件始めから


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