温泉旅行殺人事件_天使の奴隷の名にかけて1

30分後、現在宿泊客のいない使ってない離れ。


「あ~!フェリシアーノさんっ!どういう事ですかっ?!」

きちんと香も炊かれているその離れの和室には大きなホワイトボードが用意され、毎度おなじみの4人組、氷川夫妻、OL3人組、老夫婦、秋ちゃん、そして和田がギルベルトの依頼によって集められている。

行方不明だったはずのフェリシアーノまでいる事に驚く和田に、ギルベルトは

「救出したのはいいんですが、犯人のメドがつくまでは危険だったので隠しておきました、すみません」
と、少し苦笑して、それからクルリと全員を振り返った。


「今お集り頂いたのは他でもない、今回の小澤光二氏殺害及び、俺達の連れ2人の誘拐事件について説明させて頂く為です。

一応…殺人事件の方はほぼ外部からの侵入は不可能に近い旅館の内庭で起こった事件で、おそらく警察の方では宿泊者の全員を容疑者として現在この旅館内に拘束という形を取っていると思うので…」

と、そこでギルベルトはチラリと和田に目をやった。
それに気付いて和田はうなづく。

「容疑者である宿泊者全員と、警察の和田さん、旅館の責任者の秋さんにご足労願いました」
そこでギルベルトは長くなるからと、とりあえず全員に座を勧める。

そして全員が着席すると、また話し始めた。


「とりあえず…状況を先に説明します。
12日午後3時過ぎ、小澤さんを含む宿泊者が旅館に到着。
午後8時すぎ、花火見物に外庭に出ていたカークランド、ヴァルガス両名が何者かに拉致。

午後840分、一人で旅行中だった小澤光二氏が遺体となって宿泊中の離れの浴室で発見されています。


まず小澤氏の殺害について。

犯行推定時間は午後520分から午後640分の間と警察の方では推測されていました。
根拠は、午後520分に小澤光二氏の部屋の内線から小澤氏本人の声でマッサージの予約が入っていた事。
そして、遺体が発見された時には遺体の状況から死後2時間以上はたっていると推定されたためです。

以上の観点から犯行推定時刻が割り出されていました。
さらに犯行現場の状態から犯行には時間が30分以上はかかったものと思われます。
その間の各人のアリバイは次の通り」


と、そこでギルベルトはホワイトボードにアリバイの書いてある紙を磁石ではりつける。


「まあざっと見て頂ければわかると思います。
同行者の証言は基本的に証拠能力はないとみなしますので、17:30から18:50までずっとラウンジにいるのを従業員が証言している氷川澄花さん、17:30に露天にむかって露天に到達して戻って来たため急いで移動しても母屋に戻るまでには18:20分まではかかった氷川雅之さん以外は誰でも犯行を行えた事になります」

そのギルベルトの言葉にOLの一人が
「え~!でも初対面の人間よ?!なんであたし達が殺さないといけないのよっ!!」
と不満げな声をあげる。

ギルベルトはそれにうなづいて続けた。

「確かに…ここで注目したいのは、小澤氏と面識があるという事で唯一動機がありそうな氷川夫妻にはアリバイがあり、初対面のため動機がないその他宿泊者にはアリバイがないということです。
そこでこちらはいったん保留します。

同日20時過ぎ、一条優波、佐々木葵両名が誘拐され、翌日5000万の身代金要求がありました。

最初の現金受け渡しは午前10時半。条件は身代金受け取り時に一人、そして受け渡しをした者が”自力で”指定した刻限までに旅館に戻った時点で一人人質を解放するという事でした。

受け渡しは俺がやったんですが、受け渡し終了後、戻ろうとする際かなりの妨害を受けました。

結局それでもぎりぎり刻限内に辿り着いたのですが、犯人は”成功する事が想定外”だったので、人質を一人しか解放する準備ができていなかった、と言い、カークランドのみを解放してもう一人については後ほどと連絡を終えました。

そして同日夕方、二度目の身代金請求がありました。金額は前回同様5000万。
今度は犯人は弟のルートヴィヒを受け渡しの相手として指定してきました。

身代金を受けとり次第人質を解放するとの事で、19:00スタートで刻限は21:00
結論から言うと、これは失敗に終わります。

明りを消されている状態の道で足を踏み外した近藤悠人がそのまま気を失って刻限を過ぎ、身代金はもちろん手つかずのまま回収されました。
そこで、犯人から身代金を支払う意志がないとみなすとの電話があり、これを最後に連絡が途切れます。

和田さんにはすでにお話したんですが、ここで俺は一つの疑問を感じました。

犯人は本当に身代金が欲しかったんだろうか?

最終的に犯人は二人の人質の身代金として総額1億を要求しているわけですが、犯人が1億欲しいだけなら始めから1億要求すればいいわけですよね?
人質を二人同時に解放するのが難しければ一人ずつ解放すればいいわけですし、どちらにしても俺が”自力で”刻限までに旅館にという条件は、どう考えても意味がありません

本当にそのタイミングでと思っていたにしても、”自力で”と指定する意味があるでしょうか?
しかも犯人はあえて”自力で”辿り着くのは難しい状況を作っています

そして条件をクリアした時の犯人の電話で犯人は”達成できると思っていなかったので”人質を一人しか解放できないと言いました。

以上の事から犯人は始めから一人しか返すつもりがなかったものと思われます。




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温泉旅行殺人事件始めから


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