とある白姫の誕生秘話──勇者様プラス王子様より兄貴2

助けてくれると言うなら隠しごとはなしだ。
ケイトとのやりとりの全てを包み隠さず話す。

『…というわけなんですけど……』
と、並んで釣り糸を垂れながら、話終わると、
『いくつか確認なんだけどな?』
と、返ってきて思わず身構える。

それにギルベルトは苦笑した。

『あ~、別にケイトみてえなこと言いてえわけじゃないから、安心しろ。
俺様はゲームはゲームとして楽しんでるしな?
よし、先に聞かれたこと説明するわ。
リアル女に見えるかどうかっつったら、見える。
確かに自分で女だ男だ言ってねえけどな、アリアちゃん、自分の趣味の話しすぎ。
あ、別にそれが悪いってわけじゃなくて、女だって思われたくないならな?
ぬいぐるみ好き~くらいはネカマで狙ってるやつは言うかもしれないけど、男であのレベルで手芸やバスソルト、ハーブティとかに詳しい奴、あんまいねえわ。
で、ギルドメンは理性ある大人が多いからバレバレでもネタにはしなかったわけなんだけどな。
まあむしろ、俺様もだけどな、ノアノアとかシオとか古参の年寄り達は、ちょっと危なっかしい孫娘でも見るような目で、何かあったらフォロー入れてやらないとな、くらいな感じで見てたわけだ』

うわ~うわ~うわ~と、今更ながら申し訳なさが募る。
そんな風に見ていてくれた相手の奥さん(?)を惑わせて仲を引き裂いてしまったのか……

『ケイトさん…女性でお姉さまだと思ってたので何も考えずに甘えてしまっていましたが、ノアノアさんには本当に申し訳ないことを……』

と、青くなる…が、それはそれとして、釣りの方は引きがきたらしっかり釣りあげる。
そしてまた糸を垂らした。

『あ~、それな。それに関しては気にしないで良い。
別に恋愛関係とかしっかり何か誓ってたとか、双方そういう気持ちがあったとかじゃねえから。
単にケイトがそう言ってただけ。
結局、奴はわりと感情的で暴走しやすいタイプで、大人のノアノアがブレーキ役っつ~か、フォローしてたから、ケイトがそう言ってただけで、ノアノアも単にゲームを楽しみたいだけのクチだから。
むしろケイトの言葉にちょっと困ってたくらいだ。
そもそもケイトが野郎だって気づかなかったのアリアちゃんくらいだし?』

マ・ジ・かあぁあーーー!!!!

『もしかしてネトゲ初めてだろ。
なんか色々慣れてねえっつ~か、初心者マークぶら下げて練り歩いてる感じするわ』

確かにそうだが、わかりにくすぎだ。

『だって…だって、ケイトさん、他のゲームでも結婚して旦那様いたって言ってたから…』

まさか違うゲームやるたび結婚して夫を作る人間がリアル男だなんて思わないじゃないか…と言いたかったのだが、その訴えもあっさり却下される。

『あ~、それな。
俺様もそうだけど、自分の分身や自分の理想のキャラで遊びたいっつ~男も居れば、ゲームやるたびムサい男のケツなんてみたくねえ、だから女キャラって男もいるからな?
そういう奴が可愛い自キャラにドレス着せてえって思っても不思議はないだろ?』

そう言われればそうだ。
自分だってそのクチじゃないか…と、アーサーはリアルで頭を抱えた。

『ということでな、他の面々のことはまったく気にしなくていい。
最悪ケイトと揉めても、そもそもがケイトと揉めてない奴の方が少ねえしな。
むしろアリアちゃんはあいつが振り回しても素直に優しく対応しちまってたから、目をつけられたんだと思うぜ?
まあ、最近、やけにあいつが来れないような場所を選んで逃げ回ってたから、なんかあったなとは思ったんだが。
そうかと思うとケイトはケイトでアリアちゃん呼ぶ時呼び捨てになってるしな』

なるほど、全てお見通しだったらしい。

他からみれば明らかにと思う事がわからなかった自分はうかつだったと思うが、周りが分かってくれていたことには心底ホッとした。

『とりあえずな、俺様が当分一緒にいてやるから。
ケイトが何か言って来ても、俺様に誘われて約束してるって言っていいぜ?
ノアノアは実はリアル知り合いだから、そっちも本当に気にしないで良いし、今後のことはまたちょっと考えてやるから』

と言ってくれるのは白い礼服の王子様でも輝く鎧の勇者様でもなく、漁師装備の竜騎士の兄ちゃんなのだが、それがなにより頼もしく見えた。

そしてギルは
『とりあえずまず呼び方からだな。
奴に特別感を与えないために俺様も他と違う形のモンに変えるか。
そうだな…“お姫さん”、とか?
まあ、竜騎士とはいえ、“騎士”だしな。
虫よけとしてはそれっぽくていいんじゃね?』
と言った後、

『ま、実際は相棒みたいなもんか?
ヒーラーはいたら便利だし、色々一緒にやろうぜ』
と、付け足す。

対面的なものはレディのように…
だが、実際はケイトのような事にならないように、遊び友達として一線を引く。

そんな事を暗に提示してくれるあたりがあまりに細やかで、アーサーは感心した。




Before <<<      >>> Next (12月22日0時公開)


とある白姫の誕生秘話始めから


0 件のコメント :

コメントを投稿