釣りは絶好調だ。
「アリアちゃん、み～つけっ！」
と、隣で釣り糸が青い水面に向かって投げいれられた。
「え？あ？ギルさん？！！」
「よ、久しぶりだな～！」
と、隣で釣り人の装備で糸を垂れているのは、ギルド初日にアイテム取りを手伝ってくれた銀髪の竜騎士だ。
「青くないから気づきませんでしたｗ」
と、言うと、
「おう、これなっ」
と、おそらく装備変換マクロを仕込んであるんだろう。
一瞬で竜騎士の専用装備の青い鎧になる。
…が、
「あ、やべ。着替えたら釣り中断しちまった」
と、また釣り人装備に戻って釣り糸を海へと投げ入れ直した。
あれから1カ月。
アリアのあとには新人が入ってくる事はなく、当然2番目の新参者のこの竜騎士は何かとヘルプで呼び付けられて来てくれていたので、
「え～。どうせならＫｏｔｏｒｉちゃん出したまま釣りしましょう？」
と軽口を聞くくらいには馴染んでいた。
「え？俺様よりＫｏｔｏｒｉ？
まあこいつは世界で一番カッコいい子竜だから一緒にいたくなるのもわかるけどなっ！」
などと言いながら子竜を出して、また釣りを中断されてため息をつきながら糸を投げ入れる。
彼のことは気の良いお兄ちゃん、くらいの感覚で、だいぶ慣れたギルドのメンバーの中でも特に気の置けない部類の人間になっている。
そこでちょっと気になって聞いてみた。
「ギルさん、あのね…」
「おう？」
ぐぐっと引きが来たらしい。
ギルベルトが竿を引き寄せるとぱしゃりと釣れる音がして、調理の高級素材の魚が釣れたログが流れた。
彼はケイトと違って別にアリアを追ってきたわけではなく、どうやら本当に釣りスキルをあげていて、おそらく競売で買うと高いこの素材を釣りにきたようだ。
さて、何をどう話せばいいのだろうか…
とりあえず…？
「私って…リアル女性に見えますか？」
いきなりケイトに告白された話とかをして良いのかはさすがに悩む。
だからそこから入ってみたわけなのだが、
「おう、見えるな」
と、ギルベルトは即答。
そこからパーティの誘いを飛ばして来た。
？？
不思議に思いながらも、パーティに入ると、ギルベルトは
「一応な、込み入ったことなら、普通のチャットより他から見えないパーティ会話の方がいいだろ」
と、なんでもないことのように笑う。
そう、なんでもないことのように…
だが、確かに誰にでも聞こえるようなところでリアルに抵触する事だったり、個人に関する話をするのは好ましくない。
それをやりかけている初心者にさりげなくフォローを入れてくれるのが、飄々としているようでいて実は細やかなギルベルトらしい。
そうして他からは会話が見えないようにして、ギルベルトは再び青い水面に糸を投げいれながら、向こうから話を始めてくれた。
『アリアちゃん、なんか困ってるよな？
たぶん…ケイトのことあたりか？
もし、もしもだ、アリアちゃん自身が俺様に助けて欲しいっつ～ことなら、助けてやるぜ？
そう思わねえなら、余計なことはしねえ』
うあ～～～！！！と、アーサーは心の中で叫ぶ。
ほんと、お助けキャラか、お前はっ！！
なんてタイムリー！！
『ガチ！！困ってますっ！！！』
ここで頼れる兄貴にすがらない手はない。
必死に縋ると、ギルベルトはぷはっと笑いながら
『あ～。やっぱりか』
と言った。
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