寮生はプリンセスがお好き9章_13_終戦

バッシュからロディが虎の寮長組に捉まったと連絡があったのは、それから十数分後のことだった。


──ブレスは渡すから手を出すなと言われて静観しているのだが、これはずっと放置で良いのであるか?

と、聞いてくるのは、おそらくユーシスあたりが銀虎の姫が負わされた怪我を10倍返しくらいにはしているからだろう。

──まあ、死なない程度ならいいんじゃね?これ、そういうイベントだし?

と、ギルベルトがそれに返すと、別に暴力に心配したわけではなく、単純にギルベルトの意志を確認したかっただけらしいバッシュは

──そうであるか。では我らは先にブレスだけ受け取って先に帰るのである。
と、あっさり無線を切った。

ということで、このイベントの終了条件は開始後3日間経つか、あるいは脱落した寮以外のすべての寮が終了を受け入れるかなので、これで決着は全てついたと言っていいだろう。

あとは普通に陣地に戻って、同じくロディ潰しの現場から帰還する銀竜のルークと銀狼寮の陣地を守っている香、そしてギルベルトが終了宣言をすれば良いだけなので、もう陣地に戻ってもいいだろう。

あと、未定の事と言えば順位の事くらいか…


「とりあえず…ロディが持ってたブレス3つは無事回収したらしいから、俺ら3寮は自寮のブレスは2つずつ、その他6つのブレスを回収したわけだ。
どう分けるかなぁ…
うちは1位の分もらうことが条件だったんで、3つもらうとして5つ。
あと3つを2対1で、4つと3つで、2位3位だな」
などと言いながら、ギルベルトはひょいっとプリンセスを横抱きに抱える。

それを見て当たり前に駆け寄って来てアーサーが敷いていたギルベルトのマントの埃をはたいたうえでギルベルトに羽織らせるモブース。

モブ三銃士は確かにすごく強いとかではないのだが、忠実なのと、そのあたりの必要なことをさりげなくこなしてくれるので、本当に得難い人材だ。

そういう意味では身内ですら敵が混じっていて気の抜けない香と違って、自分は寮生にも恵まれているとギルベルトは思っている。



こうしてプリンセスを姫抱きにして凱旋すると、まず出迎えたルッツが目を丸くした。

「どうやってアーサーを連れ出したんだ、兄さん」
と言うのでギルベルトは
「最初から?
まあ詳しく知りたきゃあとでな?
とりあえずルークが戻ってるなら先に話し合うこと話し合って終了宣言しちまったほうが色々安心だろ」
と、そのまま陣地内へ。

そしてルッツと同様に驚く寮生達の間を抜けながら、奥のプリンセスの間に足を踏み入れた。

「へ??」
と、まずアーサーを抱いて戻ってきたギルベルトに、香はバッと後ろの隠し部屋を振り返り、そしてまた前方を向いて
「あ~…すっかり騙された的な?」
と苦笑。

アルフレッドもルークも同様に驚いているが、フェリシアーノだけは驚いたフリのようで、目が笑っている。


「まあ、知りたきゃ詳細はあとでな。
それより終了宣言出しちまいたいんだが、その前に順位な?
今同盟寮以外のブレスが6つ。
悪いが最初の契約だからうちはそのうち3つ取って優勝もらうな?
で、あとの3つをどうするよ。
どちらかが2つで2位、で、もう片方は1つで3位だが…」

「あ~、じゃあジャンケンで?
恨みっこなしってことでOK?」
と、それに即そう提案する香と了承するルーク。
そして結局香が勝って金狼が2位、銀竜が3位となった。


それで即、脱落していない3寮で揃って終了宣言。
その後、寮生は陣地の片付け。

寮長達はお疲れであろうプリンセスを休ませるという名目の元、護衛として一足先に各寮に帰る。

…そう、表向きは……




「お姫さん、疲れただろう?
浴槽に湯を張って疲れの取れるハーブ系のバスソルト入れたから、ゆっくり入ってこいよ」

ギルベルトは寮の部屋についてまず、アーサーの好きな紅茶を淹れてやり、それを飲んでいる間に風呂の用意をして着替えを用意する。

そのうえでそう言ってやると、
「疲れたのはギルもじゃないか?
ギルだって風呂に入った方が…」
などと、慣れぬ靴で頑張って歩いて疲れているであろうに、けなげにそんなことを言ってくれる優しく可愛いお姫さんに感動しつつも、ギルベルトには実はそこで譲れぬ理由があるのだ。

だから、
「ん~一緒に入りたいってお誘いか?」
とクスクス笑いながら隣に座ると、案の定、ギルベルトの可愛いプリンセスは
「そ、そうじゃなくてっ!!」
と、真っ赤になって首を横に振る。

ああ、可愛い、愛おしい。

「冗談、冗談。
上がったら足をマッサージしてやるから、ゆっくりあったまってこい」
と、そう勧めるギルベルトに、アーサーは
「入ってくるっ…」
と、赤くなった顔を隠すようにパタパタと足音を立てて浴室へと飛び込んだ。

そうして浴室のドアが閉まったのを見届けると、
──さて、と、最後の報告会か…
と、笑みを消して立ち上がり、自室へと急ぐ。


来訪を予想して窓を開け放していたのだが、部屋に入ると案の定、思っていた通りの来訪者がちんまりと椅子に座っていた。

「とりあえずお姫さんが風呂に入ってる間にちゃっちゃとすませちゃいたいから、結論から言うぞ?」

と、ギルベルトがそう言うと、来訪者、金狼寮の香は
「あ~…やっぱりなんか気づいたことあった的な?
ギルに任せて超正解。
俺天才って感じじゃね?」
と、言葉の軽さとは裏腹に随分と複雑な表情でそう言ってくしゃくしゃと頭を掻く。

そう、今回の同盟者はそれぞれ特別な事情があるので、実はイベントは二の次だった。
香的にはそれより、ギルベルトに任せた金狼寮の寮生の動向を知りたいだろうし、聞きに来るだろうなとは思っていたので、この状況なのである。

他のことならまた後日というのもありだが、暗殺は明日どころか今晩にだって行われないという保証はない。
だから何か情報を得られるなら一刻も早くと言うところなのだろう。

銀狼寮の陣地から出る時に握らされたメモには──あとで話聞きに行く…とだけ書かれていたので、ギルベルトもそのつもりで待っていた。

「リン・ヤンが寮生チェンジを俺とお前のどちらが提示したのか気にしてた。
何故、じゃなく、どちらがってあたりが俺はひっかかる。
一応俺が攻めに行くこと考えると金狼だらけの中に残したくなかったから、俺から条件として提示したって言っておいたぞ。
ついでに陣地に戻るタイミングもすげえ気にしてて、さりげに早く戻りたそうだった」

「…それ…グレーに近い黒的な…」
はあぁぁ~と大きくため息をついて言う香に一応
「それ言うなら黒に近いグレーじゃね?」
と突っ込みを入れると、香は
「いや、マジ真っ黒。
何もなきゃ兵隊チェンジしたの俺でもギルでもめちゃ気にしねえ奴。
元は細かい奴じゃない的な……」
と、頭を抱える。

「香?」
普段飄々としている香の様子がいつもと違うことにギルベルトは眉を寄せるが、そんなギルベルトの表情の変化も気づかない様子で、香は黙りこくって俯いたままだ。

そうしてどのくらいそうしていたのだろうか。
やがて顔をあげた香はひどく憔悴したような顔で
「協力しないでもいいんだけど…ギルだけは裏切んの勘弁な?」
と言う。

「あ、ああ?
元々俺様はその手のしがらみねえし?
お前の方がお姫さんに害を与えようとしない限りはこっちから何か仕掛けねえよ。
自分で言うのもなんだが実家も力があるから、やるなら陰でとかじゃなく、堂々と叩き潰すと思うわ」
と、わけがわからないなりに言うと、香は
「あ~、それがイイ的な?」
と、泣きそうな顔で笑う。

正直どう反応して良いかわからずギルベルトの方も複雑な表情をしていると、香が苦笑した。

「ソーリー。
リンは幼馴染。
今回のことでちぃ~っとヘルプ持ち掛けようとか思ってたら大どんでん返しで途方にくれかけた的な感じ?
ま、でもあっちは俺が気づいたって気づいてないならラッキーだし、逆に利用させてもらう的な。
大丈夫っ!俺超天才的だし?」

なるほど。
信頼して頼ろうと思っていた相手が実は敵方だったとなれば、ギルベルトも驚きの強メンタルな香でもさすがに落ち込むのだろう。

それでも浮かない表情だったのは一瞬で、
「じゃ、サンクス!
今回はゴリプリ守るだけでオッケーだったわりにイベント2位だし敵の情報も入ったしウハウハ的な?
俺のラック、最強な感じ?」
と、即立ち直ったのか、またいつもの飄々とした香に戻って、窓から帰って行った。

…すげえな、あれ…
と、そのタフさに心底感心しながらも、ギルベルトは最愛のプリンセスのマッサージのために、急いでアロマオイルの準備をして、お姫さんが風呂から上がってくるのを待つ。

ああ、うちは平和だな…と、自分が銀狼寮の寮長であったことを心の底から感謝しながら…


9章完







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