「ウ~サ、何浮かない顔してんだよ」
とある日の夜、食事は作るのはほぼ亜紀と空太がやってくれるので、宇髄と二人、食後の食器洗いは引き受けている錆兎が難しい顔をしているのを見た宇髄は、すわ、また武藤でも出たのかと戦々恐々とした気分でそう声をかけてみたのだが、返ってきた答えは
「…いや…今回のクリスマスイベントなんだけどな…」
と、予想よりも随分と平和的なものだった。
「クリスマスイベント?レジェロのか?」
「ああ」
きょとんとする宇髄にやはり深刻な顔で頷く錆兎。
レジェロのイベントは男側は2組作るし全員が全員、プレイヤースキルが鯖一高いと言われているギルドコンコンキツネのメンバーなので、まあ万が一があって1位が取れなかったとしても2組とも6位までに入れないということはないだろう。
だから女性陣への贈り物である靴は確保できるはずだ。
…となると……
「女子達の方で何かあったか?
今回もやってみなきゃわかんねえが、敵がいる中のアイテム拾いってことはキモになるのはナイト様だろうし、そうなりゃ、うちのギルドの姫騎士様以上の女キャラのナイトなんて鯖どころかレジェロないでもそうはいねえから大丈夫じゃね?
それでも万が一がありゃあ、そうだなぁ…レジェロでのソリでの空の旅は無理でも、俺がうちでヘリでも出させて東京の夜景を楽しむ旅でも企画してやんよ」
と、宇髄としてはまあ当たり前の事を言ったのだが、──本当にこれだから金持ちは……とやや呆れた視線が返される。
宇髄にしてみたら、錆兎にはお前んちも大概金持ちだろうが、と、返したいところだが。
とにかく錆兎の悩みはそのあたりではないようだ。
そうなるとレジェロのクリスマスイベントでどんな悩みが生じるんだ…と、宇髄は首をひねる。
それにため息をつく錆兎。
そして説明をする。
「普通にやれば勝てると思う」
「ああ、そうだろうぜ?」
「だが、義勇が賭けをしたいと言い出した」
「あ?」
「自分達と俺達、チームのタイムで負けた方が1つ勝った方の言う事を聞くというものだ」
「はああ???」
よくわけがわからない。
いや、賭け自体はわかる。
だが、彼女組が何故そんなことを言いだしたのか…。
「どうせお前らは自分の彼女達に絶対服従なんだし、意味なくね?
まあ…そうじゃないのは空太んとこくらいだが、亜紀ちゃん元々そういうの望まないっつ~か、自分の方が色々やってやるのが楽しいメイド長様だしな」
「俺もそう思う。
もし負けてやるとなると、男子の部で6位以内をキープしながらになるし加減が難しいわけなんだが、天元が言うように普段は願いはたいていきいているから、おそらく勝ちを譲られたいわけではないだろう。
そうなると、何故義勇がそんなことを言いだしたのか謎過ぎて気になる」
「あ~、なるほどなぁ」
正々堂々が大好きなこの幼馴染が、それでも何か事情があって相手が望むなら忖度して勝ちを譲ってやることもいとわないくらいには、恋人様が絶対と言うのは、宇髄からしたら少しばかり興味深くも微笑ましい。
だが、まあ相手は相手でそういうタイプではないし、賭けなどしなくても錆兎が義勇が望むことをスルーすることなどないというのは、本人達を含めて誰もが知っていることなので、これは錆兎が難しくとらえすぎているだけなんだろうと宇髄は思った。
そう、どうせなら普段は能力的には負けっぱなしの彼氏組にチャレンジしてみようか、くらいのノリなんだろう。
どうせ勝っても負けても彼氏達は彼女達が喜ぶような何かをすることになるのだ。
せいぜい勝った場合と負けた場合の違いは、負けた場合は彼女達が指定することをして、勝った場合は彼女達が望むであろうことを自分達で考えてするくらいか。
もうバカバカしいほどのバカップルなイベントのバカバカしいほどバカップルな提案である。
「たぶんだが…単にノリじゃね?
まあ…気になるなら俺から聞いてやっても良いけどな?」
「頼めるか?
何か深刻な事情があったらと思うと気になって仕方がない」
と、たいがい過保護な彼氏様に依頼されて、宇髄があとで義勇に確認することになった。
…いや…深刻な事情じゃねえことは確かだろ。
…そんな事情抱えて悩んでるんだったら、今日の夕飯、鍋いっぱいの鮭大根食いつくした挙句、ウサの分までもらって食ったりはしねえよ。
と、言ってやりたい気もするが、返ってくるであろう擁護の言葉がとてつもなく長くなりそうなので、宇髄もそこは空気を読んで突っ込まないでおく。
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