寮生はプリンセスがお好き9章_12_木は森の中に…

ギルベルトが今回ずっとしていた銀狼寮の寮生が揃いで身につけている黒地に銀の狼の絵柄のついた手袋を外し、真っ白な花嫁の衣装とはデザインは全く同じだが色違いの淡いグリーンの衣装を着たメイドのヴェールをめくる。

薄く頼りなく見えるそれは、世界屈指の警護会社、ツヴィンクリ社が開発した防護性に優れたもので、花嫁とメイド達をしっかりと守ってくれていた。

物理的な事柄からも、そして情報的な事からも……

そう、ギルベルトがめくったヴェールの下に隠されていたものは、銀狼寮の宝物、つまり銀狼寮のプリンセスだった。


「気づかれたら危険だからフォロー入れられなかった。
ごめんな?疲れただろう?」
と、額に口づけるのにかがんだ視線を保ったまま、さらにその額にコツンと軽く自分の額を押し当てる。

普段は鋭い眼光を放つ紅い眼が柔らかく細められ、愛おしいという気持ちを全く隠す気のない表情で銀狼寮のカイザーはちょうどある切り株に自らのマントを脱いで敷くと、姫君を座らせた。

そしてその前に膝をつくと白く細い足を取って、
「…高くはないがヒールだから、足、大丈夫か?」
と、靴を脱がせて丁寧に足を確認する。

そして、
「本当はこんな距離歩かせるべきじゃないのはわかってたんだが、馬車を出させるわけにもいかねえし、おぶったり横抱きにしたりして運べば姫さんだってさすがにバレるからな」
と言うギルベルトに
「いや…一緒に行きたいって我儘言ったのは俺だから、ギルが謝るところじゃない」
と、アーサーがふるふると首を横に振って言った。

「いや…プリンセスの要望は全てきちんと叶えた上で、プリンセスに負担をかけないようにイベントを進めるのは寮長の責務だから…」
と、延々と続きそうな二人の会話に終止符を打ったのは、事情を全く伝えられていなかった金狼寮の寮生だった。

「あの…結局今回のイベントって…俺らは銀狼と組んでるって知ったのも今日なんだけど、香はいつ、どこまで知ってんの?」

まあ、他寮で同級生なので普通にタメ口でそう聞いてくる金狼の寮生の1人に、ギルベルトは、あ~…と少し考え込む。

「計画はたぶん…だいぶ前だな。
陣地の改造の発注かける前だったから。
言い出しっぺは銀竜な。
まあ、周知の通り、当日よりも当日前の情報戦がモノを言うから、このイベントは。
銀竜は元々3年生組に同盟の誘いをかけられてたんだけど、あそこの同盟はうち銀狼を潰すためだけのもんで、俺が倒れたら普通に食い合うやつだからな。
真っ先に喰われる銀竜にメリットはねえ。
ってことで、どっかと同盟ってことになった時に、一番守ってもらえそうだからっつ~んでうちに来る途中、なんかで香と会って、金狼もソロじゃきついし、うちと近すぎるからっつ~んで3年生組の誘いもこねえってことで、じゃあ、いっそのことうちに3寮同盟を持ちかけるかってことで、金狼と銀竜が揃ってうちに打診に来たのが始まり。
最初はプリンセス3人ともうちの陣地に置くって計画だったんだが、俺は攻城にでかけて陣地留守にするし、いくら香でも別寮の寮生の中にうちのお姫さんを置くのは不安が残るから、香が残って俺が出る代わりに兵隊は交換しようってことになった。
そうすれば万が一香の気が変わってもルッツを含めたうちの寮生全員を相手にするのは厳しいだろうしな。
ちなみに…銀竜のルークは今別動隊で金竜を見張ってるけど、そっちにはうちのバッシュをフォローと言う名の見張りにつけてる」
と、ギルベルトがそこまで説明したところで、──質問…と、金狼の寮生の1人が手をあげた。

確か、リン・ヤン。
香と同じ中国系でわりあいと仲が良いクラスメートである。

「それは香から言い出したこと?
それともギルから?」
と聞かれてギルは

「俺から。
プリンセスを預けることになるのは俺の方なんだから、香の方が持ち掛ける理由はねえだろ?」
と即答。

「でも…無理だった。
どうしてもお姫さんを自分以外に預けるのが嫌になってな。
たぶん、今ここにお姫さんがいることは香も知らねえ。
銀狼の陣地は兵隊部屋の奥に銀竜と金狼のプリンセス部屋。
そこに香も詰めてる。
で、その奥に隠し部屋があって、本来はそこにお姫さんを保護しておくことになってたんだが、俺が離れるのが無理すぎて、連れてきちまった」
と、そのあとにそう続けて、アーサーの小さな金色の頭にちゅっとリップ音をたてて口づけを落とす。

「一応な、本来は花嫁部隊は銀狼寮の陣地から注目を逸らすためのフェイクだったんだけど、まあ周りもそれがフェイクかどうかに気がいってるから、花嫁がプリンセスじゃなかったって時点で、ああ、フェイクだなって判断して、メイドまでは確認しねえだろ。
信用させるためには嘘はつかず、ただ、言わないことはあるという形が一番だ。
だから今回も花嫁の顔は見せた。
で、3年寮組はそれで花嫁がお姫さんじゃねえから俺が今回は連れ歩いてないと判断した。
俺はメイドがお姫さんだって言ってねえだけで、嘘はついてねえ」

言われて金狼寮の寮生達はぽかんと呆けたあとに、一斉にため息をついた。

そして
「物理で強い上にこれだもんなぁ…。
そりゃあ誰も敵わねえよ」
と、互いに苦笑しあっている。

「でもよく気づかれていなかったとは言え、他寮の人間の中にプリンセスを放り込んだよな。
やっぱり自寮の兵隊で固めようとか思わなかったのか?」
と、リンにさらに問われて、ギルベルトは3人だけ混じっている銀狼寮の3人に視線を向けた。

「あ~…銀狼寮から3人だけ連れて来てるあいつらはな、自称モブらしいんだがただのモブじゃねえ。
推しであるプリンセスの事は絶対に守るマンでな、俺がモブ三銃士っつ~名をつけたすげえ信頼してるうちのプリンセスの親衛隊なんだわ。
でもって、花嫁とお姫さん以外の4人のメイドもうちの寮生だしな。
俺のすぐ後ろにいるわけだから、俺が異常を察知して振り向くまでの間くらいはなんとでもしてくれる」

「なるほど」
と、そのギルベルトの説明にリンは少し考えて頷いた。

そして最終的に
「それで?
いつまでここで休憩を?」
と聞いてくるので、ギルベルトはこのやりとりの間にまとめた考えを元々の計画のように口にした。

「ロディを追ってるパッシュからロディが虎寮に捉まったって倒されたって連絡が来るまで?
ロディも銀狼寮の陣地に向かってるんだろうからお姫さんが巻き込まれないように念のためな?
香とルッツがロディを返り討ちにしても良し、そうじゃなきゃ勝負自体はすでに脱落してる虎2寮が倒して奴が持ってるブレスは近くにいるバッシュあたりに渡してくれるだろうから、うちのもんになるし、ちゃんと金狼も3位にはなれるから安心してくれ」

「…ああ、わかった…」


Before <<<    >>> Next (4月19日公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿