ギルベルトが全寮長の中で一番手ごわいと思っているのが金の虎カインだ。
まずデカい。
ウェイトがあるということは、それだけ攻撃も痛い。
単純な力比べとなれば、ギルベルトよりも強いだろう。
力の金虎、技の銀虎。
一応金銀対抗という事も多く、ライバルなはずの2人は、同学年というのを超えて仲が良い。
寮以外の事ではわりあいと一緒に居ることも多く、それこそプリンセス戦争にような金銀関係ないイベントでは、これまでの2年間もいつも同盟を組んでいた。
付き合いが長く深いため、互いの長所も短所も知り尽くしている感があり、実に嫌な連携を組んでくる。
片方だけなら全く問題はないが、2人揃うと気を抜くと危ない。
…まあ、これを打開する策は練ってるけどな……
と、何重にも張り巡らせた策を思いながら、ギルベルトは、よおっ！と3年組の寮長に向かって右手を上げつつ笑みを向けた。
「やあ、軍曹。
お前、まあぁ～ったく隠れる気ないよなっ。
俺とカイン、2人がかりでも余裕な感じ？」
と、まずはユーシスがにこやかに応えてくる。
このあたり、カインに任せると次の瞬間、戦闘になりそうだからと言ったところなのだろうが、ユーシスのその判断は正直ありがたい。
もっともそのユーシスの方も
「今回は金狼と組んだんだ？」
と、そのあたりの情報を得たいと言った感じだが…。
「まあ、見ての通りだな。
ついでに言っておく。
銀竜とも組んでる」
とギルベルトが自分から手の内を明かすと、3年組の寮長は驚いた顔になった。
「え～っと…手の内明かしていいの？
軍曹、何かすっごく余裕？」
先に我に返って質問を返してくるユーシスに、
「こっちだけそっちの情報知ってるのもフェアじゃねえと思ってな。
他は知らんが俺様は正々堂々戦略と腕力で片をつけたい人種だから」
とにやりと笑って見せる。
「ふ～ん…まあ、そんな感じだけどね、軍曹は。
で？そういうことなら、どこまで知ってるとか聞いていい？」
信じたのか信じていないのか…おそらく前者な気がするが、ユーシスが小首をかしげてさらに聞いてくるのに、ギルベルトは内心、しめた！と思った。
そう、嘘じゃなく本当のことだが、それを伝えることによって…正確にはそれを相手が知ることによって自分が有利になる。
なのでギルベルトは端的に言った。
「金竜が裏切る気満々なとこまで？
俺様にとっては自寮のプリンセスが一番だ。
だが、他寮でも寮長より先にプリンセスに手を出そうと言うのはあまり好まねえ」
そのギルベルトの言葉は真実である。
ギルベルト的にはこの手のイベントはまず強い寮長を倒してそれ以上の抵抗は無駄だと知らしめた上でプリンセスには降伏勧告をしたいところだ。
彼のそんな性格は彼が有名人だけに他寮、他学年にまで周知されているので、3年生組もあっさり信じたようだ。
「ちょ…それは……」
と青ざめつつ絶句するユーシスと、怒りに顔を赤くするカイン。
「銀竜と組んでる…ってのを明かしたのはこれを明かすためでもある。
銀竜の方からうちに情報収集と絶対に裏切らない頭数の代わりにフェリちゃんを一緒に守って欲しいってことで売り込んできた。
で、契約通り銀竜が集めた情報の一つが3年生組と金竜が3寮同盟を結んでるってことと、3年組が俺と対峙してる間に3寮分のプリンセスを守る契約だった金竜が守りを捨てて、寮長と主な兵隊が不在な虎2寮のプリンセスのブレスを奪ったあとに、俺がいない銀狼の陣地と元々弱い銀竜を襲撃。
最悪虎2寮と銀狼、銀竜の4つのプリンセスのブレスと銀竜の寮長のブレス、それに自分のブレスを合わせれば6つで過半数になるから、それ持って逃げ回って優勝狙うつもりらしいってことだ。
ま、うちは攻めて来ても香が守ってるから問題ないけどな」
ギルベルトが肩をすくめると、ユーシスはかろうじて笑みを張り付けて
「その…花嫁は、フェイク？」
と聞いてくる。
それも想定の範囲内だ。
信用は大事だということで、ギルベルトは今回は嘘をつかないでやって行こうと思っているので、花嫁を手招きで呼び寄せて、その頭から顔を隠しているヴェールを取る。
その下にはアーサーとは別の顔があって、これにはカインが頭を掻きながら
「あ～…そうだよなぁ…。
おチビちゃんの横でいっつも威嚇してるゴツイお前の弟がいねえもんな」
と、ため息をついた。
ユーシスもそれには
「俺達に教えてくれたってことは…とりあえずこれは対金竜用のフェイクってことだよな」
と言ったあと、
「それで…俺らは自分の姫はやっぱり守りに帰りたいわけなんだけど…ここまで明かしてくれたってことはさ、軍曹、ここは見逃してくれようなんて思ってる？」
と、苦笑する。
まあ、それはギルベルトとしても望むところだ。
「たぶん…金竜のロディはもう行動に出てると思うけど、ワンチャン間に合うかもと思って陣地に戻るなら後ろからどつくような卑怯くせえ真似はしねえよ。
ロディはカイン達が来年いねえから問題ねえって判断らしいが、今の虎寮の中等部生はそれを覚えているし、来年度の虎の寮長は今の中３だ。
あんま卑怯くさい真似したら、自分の首絞めることになる。
ま、陣地でかち合ってそっちがちゃんとこっちを向いてるなら、そこは正々堂々戦うけどな」
嘘はつかない。
そう、言っていないことはあるが、嘘はついていない。
「とりあえず俺らは先輩舐めてくれた後輩をブレス度外視で締めておかねえとだから、今回はたぶん優勝は二の次だ。
で、まあ、今回は軍曹には借りを作っちまったから、少なくとも銀のおチビちゃんには手を出さねえ。
ってわけで、俺らは戻るわっ！
ロディは見つけたら軍曹がボコってくれてもいいが、なんなら俺らにボコらせてくれ」
と、そう言って、虎寮の2人の寮長は寮生と共に反転し、それぞれの陣地へと戻って行った。
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