寮生はプリンセスがお好き9章_10_金竜陣地にて

このプリンセス戦争の最大の難関は、3年の2寮の寮長が去った時点でクリアしたと言ってもいい。

1対1ならどの寮長が来ても負ける気はしないし…と、ギルベルトはとりあえず胸をなでおろした。

とりあえず銀竜の寮長ルークがバッシュの補佐を受けながら、こっそり金竜の動向を探っているはずである。

なのでギルベルトはまず初めに金竜の陣地にプリンセスのブレスを取りに行くことにした。

本来は先に寮長をどついてから…と、まさに去年の金虎のカインのような戦いをしたいところなのだが、金竜の寮長に関してはもうプリンセスのブレスを取られても良い前提で逃げ回っているのだろうから捕まえるのに時間がかかりそうだし、自分達が行かなければ怒り狂った虎達に殴り込みをかけられるだけだろうから、そのくらいならこちらに穏便に渡してもらう方が良いだろう。

ということで、まずは金竜陣地攻め。
それが終わったらルークに居場所を特定させている金竜の寮長ロディ狩りだ。


3年生寮の先輩方には一番許せない形で裏切られたことに対しての報復をさせてやりたい気はするのだが、ロディが持ち歩いているブレスはおそらくすでに奪取した金銀虎のプリンセスの物と本人の物も併せて3つ。
一方でギルベルトが手にできるのは、味方の2寮の分を各2つの計4つを引くと手に出来るブレスの残りは8個で、4つで過半数なので、この3つを取られてしまうと優勝ができなくなる可能性がある。

なので、まあ、ロディに関しては少しばかりきつく殴っておくということで勘弁してもらおう。


ということで、とりあえずは金竜陣地にGO!だ。
と、当初の予定通りギルベルトは金竜の陣地へ向かった。

自分以外の5人の寮長のうち、虎の2寮はそれぞれ自分の陣地で、金竜のロディは虎2寮のプリンセスのブレスを持って銀狼の陣地へ。
そして銀竜のルークはそのロディを追走。
金狼の香は銀狼の陣地に詰めている。
というわけで、他の寮長はいないはずだ。

案の定、金竜には連絡用くらいのわずかな手勢しか残っていなかった。

攻めてきたギルベルトに少しざわつきはしたものの、残ったわずかな兵では迎撃は無理だとはなから諦めて、それでもプリンセスを護衛するように囲みながらの体面と相成る。

銀竜のプリンセスはギルベルトを見るなり、吐き捨てるように息を吐き出した。

「あ~、ロディの奴今年もかよっ!
寮長がプリンセス守る気が欠片もない寮って他にねえよっ!
自分で守れっつ~んならせめて兵くらいおいてけよなっ!!」
と、次の瞬間いっきに愚痴られてギルベルトは苦笑する。

まあ、ここで怯えて泣かれるより怒鳴られるほうが気は楽だ。

「まあなぁ。
とりあえずな、ロディは虎2寮の寮長をだまくらかして虎組の陣地攻めてプリンセスのブレス強奪してるから、相手が先輩達だとブレス渡すだけじゃすまねえと思うし、大人しく俺に渡しとかないか?
俺は別に遺恨も何もねえから」
と、ぽこぽこ怒ってる金竜のプリンセスに言えば、

「ロディに会ったら、こんなもんより寮長ならまずプリンセス守れ、このクソ野郎って言っといてくれっ!」
と言う言葉と共にブレスレットを投げつけられる。

「了解。
一応ブレスの有無の詐称はNGだから、門前の兵にすでに金竜のプリンセスのブレスは奪取されてるって言わせれば先輩方もそれ以上ここに押し入ってはこねえとは思うけど、俺もカイン達に会ったら殴るならロディの方だからとは言っとくな?」
「ああ、もう遠慮なく殴り倒せって言っておいて」
「りょ~うかいっ!」
と、金竜のプリンセスとは全く揉めることなくそんな会話を交わして謁見の間を後にする。

まあ…戦略大会などと言われると、男としては勝ちを狙いに行きたくはなる。
でもこれはそれでも“プリンセス戦争”なのだ。

寮長を含めた寮生全てはプリンセスを守り敬うために存在するという前提は変わるわけではない。
プリンセスを犠牲にしてまで勝利を追ってはダメだろう…と、そんなことを考えつつ、ついさきほどまで金竜のプリンセスがはめていた腕輪を手に門を出たギルベルトは、そのすぐ前にいる面々を目に止めた瞬間、ぎょっとして足をとめた。

え?え?何故だっ??
珍しく脳内パニックになって、しかしすぐ武器に手をやる。

それに苦笑して、カインがまず
「とりあえず今回は軍曹とやり合う気はねえから、かかってくんなよ?」
と、両手をあげた。

次いで、
「へ??」
と、本気で全く状況が飲み込めないギルベルトに近づいてきたユーシスが
「これ、あげる」
と、カラン…と虎寮の寮長二人分のブレスレットを差し出してくる。

「…え?どういう意味だ?」
と、それでもそれを受け取るギルベルト。

さらに驚いたことに、殺気は少し離れた金虎のカインより、普段は冷静なユーシスから駄々洩れている。

「うん…軍曹さ、これで自軍の二つと金竜のプリンセスのと、俺達二人の分で5個のブレスレットをキープってことで、香とルーカスのとこ4つ抜かして残り8個の中で過半数だから優勝できるよね?」
と、相変わらず声音は柔らかいのにどこか恐ろしいユーシスの言葉。
顔には確かに笑みを浮かべているのに、目が全然笑っていない。

さきほどギルベルトがロディの裏切りを告げた時は、驚いてはいたが怒っていたのはむしろ金虎のカインの方だった。

それが逆転しているということは……

「…あ…察し。
俺はもうロディを追わず陣地で籠ってるってことで?」

おそらくプライドのとても高い銀虎のプリンセスは裏切者に対してなんらかの抵抗を試みたのだろう。
寮長として最後の年、確かに優勝を狙ってはいたが、彼らにとってもこれは戦略大会ではあるがそれよりなにより”プリンセス戦争”であることが大前提だったようだ。
それで御旗を踏みにじられれば、寮長としてその報復より優先することはないというのは納得だ。

というか、むしろ勝利に固執する寮長達の寮長最後の年の大イベントなのに、その前提を飽くまで忘れない姿勢に尊敬の念を抱く。

「…それとも…協力するか?
一応、ロディのことは別動隊に追わせてるけど…」
と、思わず言うと、
「軍曹っ!!」
と、ユーシスにガシっと両肩を掴まれた。

「お、おう?」
「これまで色々標的にしてすまなかったよっ。
最後の年だったからね、どうしてもベストプリンセスを狙いたかったんだけど、プリンセスを危険に晒して怪我をさせてまでなんて、本末転倒、底辺以下だ。
もうあと半年もないけど、銀虎は普通にイベントでの勝利は目指すことはしても、銀狼を特別に標的にしたりはしないと誓うよ。
同じ銀寮だしね。
なんなら双方に利があると思えば優先的に協力してもいい」

まあ、このイベントで入賞できなければベストプリンセスはもう狙えなくなったも同然だからというのもあるのだろうが、色々自分達で問題を抱えている金狼や銀竜をフォローしながらあと半年弱を頑張っていかねばならないギルベルトとしてはその申し出はとてもありがたい。

「あ~、それはすげえ助かるわ。
じゃ、とりあえず今の位置確認するな?」
と、ギルベルトはバッシュに無線をいれた。

──首尾はうまくいったであるか?

『あ~、色々あってな、詳しいことはあとで。
とりあえず金銀虎の寮長がブレスを自主的に提供してくれたから、これで金竜のプリンセスのと合わせてうちは優勝確定。
で、替わりに金竜寮長情報流したいんだわ。
金銀の虎寮はブレス2つとも失くしたってことで戦線離脱。
もう俺らをはめても意味はねえし、純粋にプリンセスにされたことに対する報復で金竜のロディを潰したいだけだから。
あれが野放しにされなくなれば、うちにとっても十分なメリットになる。
ってことで…どのあたりにいる?』

──ちょうど銀狼の陣地の北西1㎞

『わかった。俺らは反対側から戻る。
お前は虎寮の寮長がロディと交戦に入るまで今のまま気づかれないように見張っててくれ』

──了解である!

「ってことで、俺らはもう叩く相手もいねえし、万が一に備えて迎撃の体力温存てことで、反対側のルートから戻るわ。
念のため…そっちが交戦に入っても別動隊はその場で待機。
虎2寮の寮長が揃っててロディ一人に遅れも取らねえだろうけど、戦わずにブレス2個もらった恩くらいは返す気はあるから、万が一の時にはヘルプを叫んでくれたら別働隊に連絡させてヘルプに出る。
一応、ロディに勝ってもブレス奪うまでは別動隊のことは秘密な?
あっちも負けたように見せて策を練ってる可能性が0じゃねえから」

と、情報を流すと、ギルベルトは礼を言って金竜のロディの元へ急ぐ虎2寮の寮長組と分かれて、ギルベルトはゆっくりと自寮へ足を向けた。


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