そうして日中でもさらに薄暗い森の中をどのくらい進んだのか…しばらくすると不思議なことに直径20mほどの円型に木が途切れて草むらが広がっていて、その中央にはやはり円型で直径10mほどの石造りの半円型の建築物がある。
「…なんだ、これは……」
と、錆兎が呟いた瞬間、建物の中から先程から聞こえているウォォォオーーーンと音が聞こえてきた。
それに驚いて不死川にしがみつく善逸。
その泣き声交じりの絶叫が森の中に響き渡る。
そんな中で錆兎の腕の中にいて安心しているのか、義勇は特別動揺することもなく、建物の上方を見て、
「あそこに風が通る穴があって、風が吹くとドーム内をそれが吹き抜けて音がなってるんだ…。
ちょうど大きな笛みたいな感じだな」
と、指を指す。
言われてみれば、確かに風を取り込むようにドームの上には円柱を半分に割ったようなパーツがついていた。
「…なるほどな…さすが俺達の姫君、俺達の義勇だ。よく気づいたな。
とりあえず中に何があるか調べてくるが…もうひとり…そうだな、実弥ついてきてくれ。
他はくれぐれもお姫さんの護衛をしっかり頼む」
錆兎がちょいちょいと不死川に手招きをすると、不死川は力技で泣き喚きながらしがみつく善逸の手を外してかけよってきて、宇髄は
「わかった、ここは任せて気をつけていけよ」
と、ドームと他の人間を挟むように後方に回って警戒態勢に入った。
こうして錆兎は不死川と共に正面に開いた大人が普通に立って入れるくらいの大きさの入り口から中に入った。
ウォォォオーーーン、ウォォォオーーーンと中は風の音がとてもうるさい。
頂上とその入り口以外は石壁に覆われているので、中は暗かった
なので、二人して懐中電灯を灯して…一瞬ぎょっとしてナイフを構える。
ちょうど錆兎の懐中電灯が照らした正面の壁にはなにやら緑色の大きな人型の何かが描かれていた。
人…と言えなくもないが、それにしては開いた真っ赤な口からは尖った牙が生え、異様に長い4本の手でところどころ食いちぎったような人間を握っている。
思わずそれに気を取られている間に、不死川はグルっと壁に描かれている絵を確認したらしい。
錆兎の上着の袖をクイクイっと引っ張って
「これ…何かの物語じゃねえかァ?
こっちが始まりじゃね?」
と、入り口から向かってすぐ右に描かれた絵を見上げた。
それはピンポン玉くらいの大きさの真っ赤な円形の石の絵だった。
その石にはうっすらと黒い影が浮き上がっている。
それを錆兎が見たのを確認して、不死川は明かりでその右側を照らす。
そこには隣に描かれていた石のようなものからさきほどの化け物が赤い何かに包まれて飛び出してきたような絵。
それを錆兎が見たのを確認して、不死川は明かりでその右側を照らす。
そこには錆兎が最初に見た人が喰われている絵…。
そのさらに右側にあるのは人間を追い回している緑の化け物の前に立ちふさがるように飛ぶ蝶の絵。
その右側は緑の化け物に無数の蝶が群がっていて、その隣は入り口を挟んで最初の絵に戻る感じだ。
錆兎は一応全部の絵をスマホで順番に写真に収めておく。
そうしておいて、広くはないドーム内を確認するが、他には何もない。
「…なんなんだろうな、これ……」
「さあ?でもやっぱりこの島に長居はしたくない感じが強くなったよなァ」
まあそれについては同感である。
そうと決まれば何もないドームで時間を潰している場合ではない。
さっさと水なり食べ物なりを探さねば…
そう判断すると、二人は急いで外に出て、皆に中の様子を伝えてさらに探索を続けた。
途中、義勇が怪我をした小鳥を拾って手当をしてやったり、風音に驚いた善逸が駆け出して激突した木から大量の果物が落ちてきたりと色々あったが、なんとか少しばかりの食料は確保。
錆兎がきちんと調べて進んだ方向を今度は反転。
迷うことなく森を抜けて、砂浜に戻ったのはどうやら最後のようだった。
そしてそこでは思いがけない事が起きている。
残ったり他の方向に行って戻ったりした面々が頭を抱えて泣きわめいたり怒鳴ったりの阿鼻叫喚。
理由は…ひと目でわかった。
「…これ…どうなってるんだ……」
波間に浮かぶ、元救命ボートだったものの破片。
一部赤くそまっているのは、おそらく最後までボートに残っていた船員だろう。
「…ボートが爆発でもしたのか…?」
と、クルーズ船の事故から今まで実に冷静に成すべきことをこなしていた錆兎や宇髄もさすがに青くなった。
その問いに、砂浜にへたり込んで泣いていた1人が言葉もなくウンウンと頷く。
するとジッと波間を凝視していた錆兎は
「宇髄、義勇を頼む」
と、言うなり、ザバザバと破片が浮かぶ波間へと足を踏み入れる。
「錆兎、危ないよ」
と、それを追いかけかける義勇の気配に
「俺は大丈夫だ。でも濡れるからお前はそこにいろ。宇髄っ!」
と、声をあげ、促された宇随は視線は錆兎の方へと向けながら、
「大丈夫だ。爆破物があったとしてももう全部海水に浸かってるからな」
と、義勇の腕を取って、自寮の副寮長、煉獄の方へと押しやって、自身は何かあったら手助けできるようにと、錆兎と彼らのちょうど中間あたりに立つ。
そうしてしばらく錆兎は色々と回収していたが、数分で砂浜に戻ってきて
「どうやら俺達は流されたわけではなく、意図的にこの島に連れてこられたようだな」
と、ドサっと回収した物を砂浜に放り出す。
その中にはスクリューやらモーターと思われるものも混じっていた。
「制御できる状況だった……ってことだろうな…
シートで外が見えない状況で船員だけに任せていたのはうかつだったな…
シートも目くらましと…あとは雨音を大きく響かせてモーター音を目立たなくさせるため…だったか…」
自分の迂闊さに苛立ちながらそう言う錆兎の横では宇髄も同様に苛立ちを感じているようで、眉を思い切りしかめている。
「…俺達…どうなるんだよっ!」
と、叫ぶ者も出始める中、錆兎は周りの動揺でやや冷静さを取り戻し始めた。
「とりあえず…事故が起こったと知らされたのは20時50分。
各自部屋に寄って救命ボートに乗ったのは21時半くらいだ。
で、この島にたどり着いたのは4時過ぎ。
てことは、クルーズ船から離れて6時間半ほど。
移動速度はモーターで動いてたとしてもあまりスピードを上げると気づかれるから、せいぜい速さは5ノット以下くらい。
クルーズ船が止まった位置から60キロくらいしか離れていないはずだ。
今日の午後の時点で俺が帰らなければ渡辺家から捜索隊が出る。
このあたりにどれだけの島があるかはわからんが、まずは片っ端から調べるだろうし、運がよければ2,3日、悪くても1週間くらいで救助が辿り着くんじゃないかと思う」
と、そんな予測をたててみると、宇髄も
「俺ん家ならもっと早いと思うぜ?
なにしろ情報を生業にしてる家だからな」
と、言い出して、周りがその言葉に少し落ち着きを取り戻す。
「とりあえず…寝場所の確保と探索で収集した物の確認が先だな」
との宇髄のさらなる言葉に、
「あ、なんか泊まれそうな建物みつけたんだけど…」
と、知り合い同士らしく固まっていた2人グループの青年達が手をあげた。
「この島、無人島とかではないっぽいぜ?
少し行ったところに家があった。
人は住んでないみたいだけど、井戸もあるし、もしかしたら別荘なのかもな」
とそのグループの別の青年が言うと、歓声があがる。
やはりみんな何もない砂浜での野宿は避けたい。
「じゃあそっちに移動して確認作業を行おうぜ」
と、宇髄がそう言うと皆同意して移動を始めた。
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