寮生は姫君がお好き87_舞台にあがってしまったモブ達の話

…これ…無事戻ったら本に出来るかな?
…出来る出来ないじゃない。するかしないかだっ!
…確かに…これは絶対に記録として残さなきゃなっ!

藤襲学園銀狼寮のモブ寮生茂部太郎と、中等部からの親友で同じ寮のモブ寮生の射人と仁は、救命ボートの中でコソコソとそんな話をしている。

少し離れたところには、彼らが大好きなアニメ【エルサイア・オデッセイ】の主役のカインにそっくりな自寮の寮長錆兎と、そのヒロインにそっくりな副寮長義勇が寄り添っている。

船が事故で救命ボートに乗り移るなんてことになっても、そこに推しが入れば天国だ。
というか、そんな事故にあって寄り添う推しの姿なんてめったに見られるものじゃない。

3人は現在の自分達の状況よりもそんなレアな推しCPを見られる幸せを満喫していた。



推しCPがバカンスでクルーズ船に乗るらしい…。
茂部太郎達がそれを知ったのは、とある休み時間のことだった。

どうやら金狼寮の副寮長姫君が銀狼寮の寮長のお伺いをたてずに勝手に銀狼寮の姫君をお誘いしたらしい。

姫君の身の安全を管理する寮長に許可を得ずに姫君をお誘いするなどという行為は、寮対抗で諸々が進んでいくこの学園の人間からすると、その寮に対する明確な敵対行為と取られても仕方がない。
なので、それを知った金狼寮の寮長がいきなり銀狼寮の寮長に土下座謝罪したらしい。

そのやりとりが噂になったことで茂部太郎達はクルーズの事を知って、当たり前に同じクルーズの旅を予約。
もちろん彼らは白モブ家系の茂部太郎を筆頭に無害な白モブ達なので、推しCPの邪魔をするどころか、声もかけない。
ただクルーズを楽しむ推しCPを遠目に見て楽しむためだけに自分達も参加したのだ。

食事はバイキング形式で、乗客はいくつかの部屋に分かれていたが、幸いにして茂部太郎達は推しCPと同じ広間で、寮長の錆兎が長い指先で優雅に扱うカトラリーで姫君の小さな口に料理を運ぶ様を堪能する。

まるで天使か妖精のお食事風景と言った感じで、楽園はここにあったんだ…と、茂部太郎達はうっとりとそれに見とれた。

3寮分の寮長と姫君が6人で囲んでいる丸テーブルなので、推しCP以外は目に入れないことにして…


そうして推しを堪能しながら食事を摂っていると、いきなり衝撃があって消える灯り。
やがて非常用の大きい懐中電灯を灯して事故があって避難が必要になった旨を告げる係員。

その途端に姫君を銀虎組に預けてテーブルを離れる我らが寮長様。

え?この非常時に?と茂部太郎達は驚いたわけだが、よくよく見ると料理の中で日持ちのしそうな菓子や点心をピックアップしている我らのヒーロー。
その他、テーブルに置いてあったミネラルウォーターの入っていた瓶に飲み物を詰めている。

なるほど。これから救命ボートに避難することになるので、その間に姫君が喉が乾いたり空腹になったりしないためか…と感心しつつ、自分達も彼に倣って同様に飲食物を確保した。

もちろんいざとなれば姫君をお守りする寮長に献上するためである。
そう、自分達はモブなので、姫君に直接お渡しするような愚は犯さない。
訓練されたモブ。
それが同人同好会の銀狼寮3モブなのだ。



…というわけで、救命ボート上。
今日も推しがカッコいい&可愛らしい。

当たり前に自分のコートの中に姫君をすっぽりとくるむように抱きしめる寮長。
時折何か話しかけながら、そのつむじや額に口づけを落とすのを見ていると、こんな時でも幸せだ。

もう推しと同じ空間に居させて頂いているだけでも幸せなのに、なんと姫君が他を慰めるためにと配っていたキャンディを茂部太郎達にも下さった。

ありがたすぎて卒倒するかと思った。
これは家宝にしなければ…と、3人そろってそれを丁寧にハンカチでくるんでカバンの中へ。

これだけでも遭難した甲斐はあったというものだ。

この先危険なことになるかも…などとは思っても居ない。
というか、危険があるとしてもそこに推しCPがいるのだ。

カイン似の寮長は何があってもアリア似の姫君を守り切るのは必至だし、自分達はモブなので物語の中に名が残るような役割を振られたりはしない。
どんな困難があっても、寮長が姫君を守って困難に打ち勝ってハッピーエンドなのだ。

そんな根拠のない自信が彼らにはあったのである。



Before <<< >>> Next 4月25日0時公開予定





2 件のコメント :

  1. モブくんたちもご一緒なのですね。緊迫した場面ですが、思わず笑ってしまいました!

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    1. モブいれるの大好きなんです💕💕
      彼らは推しをそばで見守りたい自分の分身みたいなものですね😁

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