今まで全く意識したことはなかったのだが、自分はかなり不器用らしい。
そんな自覚を持ってしまって義勇はとても悲しくなった。
3人とも元々成績優秀なので地頭が良い上に器用なのだろう。
市販品も顔負けの実に見事な贈り物の数々を作り出して、彼女達に進呈し続けていた。
アクセサリからポーチ、ブックカバーや、なんならドレスに至るまで何でも作る。
義勇が今着ている可愛らしい部屋着も、亜紀が淹れてくれる美味しいお茶の入ったティーカップを置いているコースターも、義勇の周りのかなりの物が錆兎の手作りだ。
それはいい。
大好きな錆兎が手ずから作ってくれたものに囲まれてすごく幸せだ。
錆兎は本当に世界一素晴らしい彼氏で、何でもできるし何でもやってくれる。
大学にエスカレーターであがるには少しばかり足りなかった成績も錆兎が勉強をみてくれるようになってからはどんどん上がって、今では無試験で行ける100位を軽く上回るようになったし、小等部に入学したばかりの頃から続いていた不死川の暴力や暴言もぴたっと止んだ。
どことなく馴染めなかったクラスでも仲の良い友達が出来て、学校外で遊ぶどころか、今錆兎の家に一緒に下宿している仲間すらいる。
さらに、もう顔が良くて良くて良くて、見ていると幸せになるほどにカッコいい錆兎の顔を見続けていられるのも幸せだし、義勇の幸せの全ては錆兎と錆兎の献身で作り上げられているといっても過言ではないのだが、ふと思う時がある。
自分の存在が錆兎にとって幸せなのだと錆兎自身に何度も告げられて、それは疑ってはいないのだが、錆兎がこれだけ義勇を幸せにしてくれているのだから、義勇だって錆兎をもっともっともっと幸せにしたい。
何かしてあげられないだろうか…
そんなことを考えつつ日々を過ごしていて、それを亜紀に相談した。
亜紀は同い年だが多くの弟妹のいる長女で、義勇よりも100倍色々知っていて、100倍しっかりしていて、義勇は彼女をとても頼りに思っている。
だから彼女なら答えを出してくれるのでは…と思って相談したら案の定だった。
「そうねぇ…可愛い可愛い義勇ちゃんが居ればそれだけで錆兎君は幸せだと思うけど…でも義勇ちゃんは物理的に錆兎君に何かしてあげたいのよね?」
と、まさに言いたいことを完璧に理解してくれて、義勇は嬉しくなってぶんぶんと頷いてみせる。
錆兎もすごいが亜紀もすごい。
物理的なことは錆兎が完璧にやってくれるが、亜紀は義勇のメンタル的なことを本当に理解してくれる。
まるで蔦子姉さんみたいだ…と思う。
そうして提案されたのが、
「そうね…月並みだけどクリスマスに手作りの何かを贈ってみたらどうかしら?」
ということだった。
なるほど!
蔦子姉さんが昔貸してくれた少女漫画でも、女の子が手編みのセーターとかを編んでいた気がする。
とても良い案だ…と思うものの、義勇は手芸などしたことはない。
なので手編みのセーターを作りたいと相談すると、亜紀は少し考えて
「う~ん…編み物自体は私が教えてあげられるけど…いきなりセーターだと難しいかもしれないから、まずはマフラーからにしたほうがいいんじゃないかしら」
と、提案してきた。
「蔦子姉さんに借りた少女漫画だとセーターだったんだけど…」
「う~ん…初めてだし今からだとクリスマスに間に合わないかもしれないしね」
「…でも…セーター…」
「錆兎君とはこれからずっと何回も一緒にクリスマスを過ごすんだし、セーターは来年のお楽しみに取っておいたらどうかしら?
今年はマフラーで」
「…錆兎とずっと一緒……」
そう言われれば現金なもので、ずっと一緒という言葉に義勇もその気になってしまう。
来年もその次の年もずっとずっと一緒なのだから、最初はマフラーでセーターはまた来年。
「うんっ!セーターは来年以降だねっ!今年は素敵なマフラーにする!」
と機嫌よく言う義勇に
「そうね。素敵なのを編みましょうね」
とその気にさせる手際はさすがに長子である。
その後、学校で亜紀と義勇の話を聞いた蜜璃が自分も伊黒にこっそり編みたいと言い出して、それなら彼氏会に対抗して彼女会を開こうかという事になって、大いに盛り上がる。
そこまでは順調だった。
全ては順調だったのだ。
だが、実際に制作に入ったあたりでだんだん雲行きが怪しくなってくる。
義勇ちゃん❣極太毛糸で指編みならいけるっ🎵手袋して編めば途中休憩いれても大丈夫(≧▽≦)ノシ
返信削除それでもなお失敗するのが我らがヒロインなのですよ😁
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