「あのね…誤解しないで聞いて欲しいんだけど…」
と、保育園から駅までの道々を相変わらず少し甘えるように不死川の上着の裾を掴みながら見上げる美弥。
それを不死川は視線を合わせるように見下ろした。
そして視線があうと、美弥はおずおずと言う。
鱗滝君て特にクラスの女子の人気者みたいで、クラスの女の子達はきいてくれなかったけど…
私ってほら、人見知りだから、知らない男の子は厳しいかなぁって…」
と、どこか悲し気な困ったような顔をして視線を伏せれば、
「ああァ、そうだよなァ。
別に宇髄で不満とかじゃなくて、どうせなら女子寄越して欲しかったよなァ」
と、不死川は信じて理解を示す。
「共通の友人がいる女の子なら、それで話題が出来るかなぁって思って…」
と言ったあとに、
「話のネタにされる実弥君はちょっと大変かもだけどね…」
と、顔をあげて冗談めかして笑って見せると、
「あ~、それで美弥がクラスに馴染んで楽しく過ごせるなら構わねえよ」
と、笑って頭を撫でてきた。
ああ、長男だなぁとその不死川の態度を見て美弥はそんな感想を持つ。
美弥自身は教団が不死川に近づくためのきっかけにするために弟役の子どもを親の養子にしたのだが、実は一人っ子だ。
なので脳内で理性で考えることは不得意ではないのだが、実は本当に人づきあいは得意ではない。
なので宇髄のように最初に疑いから入って基本的に拒絶する姿勢の相手なら、全く太刀打ちできなかっただろう。
そういう意味では不死川は新米工作員にとって初心者用のような標的だ。
とりあえず今の会話で、彼らがもっとも避けたいのであろう…そして宇髄あたりがそう思っているのであろう、鱗滝錆兎のガチ恋女であるという疑いは、少なくとも不死川の脳内からは晴れたようである。
まあ実際本当にそうなのだが…。
なにしろ美弥の目的の一つは、その、教祖が拾ったガチ恋女である武藤まりのために鱗滝錆兎を教団の方に取り込むことなのだ。
ミイラ取りがミイラになっては意味がない。
まあそれとは別に…先日教祖に言われて初めて知った、産屋敷学園自体を引っ掻き回すという目的があるのだが、共学科の生徒会長である錆兎やその周りの役員達が揉めれば、その目的も同時に達成されて一石二鳥だ。
とにかく、どちらにしても目的が錆兎に近づくことではないということを明らかにして信じてもらえれば、ずいぶんと難易度は下がるだろう。
興味がないというより、あまり近づきたくないくらいに言っておけば、さらに良い。
こうして美弥は目的が錆兎ではないという事を強調したうえで続けた。
「鱗滝君より…実弥君と居た方が冨岡さんも平和だったんじゃないかな…」
と、そこでたてた作戦に向かって一歩前進してみる。
「あぁ?」
と、意外そうな顔をする不死川。
一瞬意味がわからないといった感じだったが、
「ありがとなァ。でも、錆兎は良い男だし何でもできて人気者だしなァ。
どう考えても俺より錆兎と居た方が似合いだし大事にもしてもらえんだろォ」
と、社交辞令だと理解したのか苦笑して美弥の頭をくしゃりと撫でた。
「社交辞令じゃないよ」
と、そこで美弥は即否定する。
そして説明。
「鱗滝君は確かにカッコよくて人気者だけど…モテるから彼女になったら嫌がらせとかもすごいじゃない?
冨岡さん、大人しそうな子だし嫌がらせされながら鱗滝君と付き合うより、実弥君が改心して優しくできるなら実弥君に大切にされてる方が幸せかなぁってね。
実弥君ならファンの嫌がらせとかもなさそうだし…弟妹の面倒見慣れてるから、なんのかんのでマメで優しいから…」
その美弥の言葉にほんの一瞬固まる不死川。
その後すぐに
「まあ…嫌がらせされねえに越したこたぁねえけどよォ…やっぱ惚れた相手と付き合った方がいいだろォ」
と、また苦笑するが、美弥はその一瞬の硬直を見逃さない。
しかしそれに気づいていないふりで、
「実弥君がね、その”惚れた相手”にならなかったのって、素直になれないままの状況の時に鱗滝君が現れちゃったからだと思うよ?
冨岡さんて…純粋な感じだから、成績が良いから将来性があるとか顔が良いから他の子に自慢できるとか、そういう選び方しない気がするもん。
ちゃんと心根の良さって言うのかな…自分自身のことよりまず弟妹を気遣う実弥君の優しさを知ってて、実弥君がちゃんと交際申し込んでたらOKしてた気がする」
と、にこりとそう続けた。
誰かの批判は避けて、むしろ褒める方向で…
なるべくターゲットには近づき過ぎずに遠くから…
今度こそ失敗しないように慎重に行動しなければ……
美弥は現在唯一動かせそうな不死川を罠にかけるべく、動揺しているのを隠す彼にそっと寄り添った。
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