清く正しいネット恋愛のすすめ_201_根回し

転入生の来たその日の昼休み…毎度おなじみ科学部部室には、宇髄に呼び出された胡蝶しのぶとモブ三銃士、そして伊藤亜紀と伊黒が集まっていた。

錆兎と義勇、空太、そして甘露寺は、真菰に適当な理由で呼び出してもらって、昼食は女子科生徒会室なはずである。


「あ~、本日あつまってもらったのはぁ…」
と宇髄が切り出すと、それ以上言葉を続ける前に
「無駄に善意はあるけど危機管理できない方々から危機の原因になりそうなものを引き離す相談ですよね?」
と、どこか呆れたようなため息を吐き出しながらしのぶが肩をすくめた。

「あ~、まあ、そういうことだな」
と、それに宇髄は苦笑。

「ってわけでな?素知らぬふりで…ということが出来ねえだろう冨岡と甘露寺は今、真菰ちゃんに上手に言いくるめてもらってるとこで、ウサは付き添いな。
どういう話し合い結果になったかは、あとで俺とウサで情報交換するから」
と、付け足した。


「甘露寺に近づく者は全て俺が追い返す。
それはもう、今に始まったことではないからな」
と、まず伊黒が手をあげる。

甘露寺と…せいぜい心友の錆兎以外には一切忖度しないことに、なんら痛みを感じることのない強い心の持ち主だ。
こういう状況だと非常に心強い。

皆の期待を一身に受ける伊黒。

「では私はメイド頭として、義勇ちゃんに近づく前にまず私を通すことというのを徹底しますね。
伊黒君ほどの強さはなくとも、お役目はお役目。
引き下がってもらえないようなら、まず宇髄君の許可を…ということでよろしいです?
それとも胡蝶さんの?」

強さはない…と言いつつ、亜紀は使命感にメラメラ燃えた目をしていて、ある意味こっちの方が怖いんじゃね?と宇髄は思いつつ、

「あ~、そこはどっちでも…。
でもまあ…卒業まではウサん家にいるから、俺か?」
と、頷いた。

そして続ける。

「伊黒は甘露寺のついでに一緒にいる冨岡もよろしくな。
亜紀ちゃん、冨岡見つつも、お前さんの彼氏が暴走しねえように、そっちの手綱も頼まぁ。
モブ三銃士と村田はそれとなくクラスへの根回しと情報収集。
しのぶはその統括…ってとこか」

そうつらつらと言う宇髄に、質問、と、村田が手をあげた。

「ごめん、状況わかってないの俺だけ?
結局転入生の子をうちの女子に近づけないようにするって話なの?これ」

「あ~…そっから説明必要だったか」
と、宇髄がぽりぽりと頭を掻く。

「早川さんのことだけじゃなく…ですけどね」
と、その後はしのぶがあとの説明役を引き継いだ。

「まず理由は二つありまして、一つは私達、良くも悪くも有名人になってしまったんですね。
レジェロは若者に大変人気なゲームですし、その公式プレイヤーともなれば、芸能人とまではいかなくても人気配信者くらいの知名度はあるんです。
そうなるとですね、近づいてきたい人も多ければ、あわよくば恋人にとか、仲間に、と、言う人も出てきます。
私の場合で言うと、胡蝶しのぶと親しくなりたいとかではなく、レジェロの学者である有名人のシノブと親しくなりたいという感じですね。
それでも私の場合は煩わしいとはいえ断れば良いだけのことなのでそれほど問題にはならないんですが、例えば錆兎さんの場合、公式プレイヤーでもあるカッコよくて有名な神ナイトのサビトの彼女になりたい…という愚か者も多く出現するでしょうしね。
そうなれば、彼女である義勇さんが邪魔、と、まあ、某MMさんのようなことにもなりかねないので…。
今の既存の役割と言うか立ち位置がはっきりしている人達以外の人間があまり多く近づいてくると、揉め事の元になる可能性が高いでしょう?
だから有名人になってから近づいて来ようとする方々は、当分は遠ざけておきたいということです」

「なるほどね…。
確かにそういうんじゃなくても、錆兎のまわりすごかったしなぁ…」

「ええ。それでもう一つはその武藤さんですね。
学園祭の襲撃犯もそうでしたけど、彼女は他人を動かすことが多いので、身元や交友関係が不確かな人は、彼女とつながっていないという確証が持てませんし、用心のため近づきたくないかなと」

ああ、そちらもあったか…と、村田はため息をついた。
どちらにしても錆兎の周りは不穏なことが尽きなくて、本人はとてもいいやつなだけに気の毒だと思う。

しかし…だ、確かに理屈としてはわかる。
わかるのだが、そこまで新しい出会いをシャットするのはいかがなものかと思わないでもない。
そう村田が口にすると、宇髄は少し困ったような笑みを浮かべた。

「あ~…とりあえずな、今回の転入生の場合は限りなく黒なんじゃねえかと俺やしのぶは思うわけなんだよ」
「…なんで?そこまで話とかしてなくない?」
「うん、そうなんだけどなぁ…」
と、さらに困り顔な宇髄。
いつでも自信満々、飄々とした彼にしては珍しい。

「不死川は良い奴だ。
俺はそれをわかってるし、古い付き合いの野郎どももよくわかってる。
冨岡を大切にしてるウサが冨岡を虐めてたって過去を知ってても、奴がその辺は改心したってわかったら身内として受け入れちまうくらいにはいいやつなんだよ。
ただな、あのツラだからな。
言葉もきついしな。
女受けは良くねえ。はっきり言って初対面であいつに懐く女はほぼいねえ。
ある程度付き合えば面倒見良く情に厚いいい奴ってわかんだけどな。
普通に保育園で会ったくらいであれだけ懐くとかありえねえ。
…ってことで、目的はギルド入りか、ギルドの誰かと親しくなるためか、とにかく何か裏があると思って間違いねえと思う」

うん、そう言われれば…見た目も怖ければ物腰も粗野だから、少女漫画じゃあるまいし、いきなり女の子が寄ってくるタイプじゃないな…と、申し訳ないのだが村田も思った。

「とりあえずしのぶが他と距離を取っている表向きの理由は説明したからな、それでもしつこくギルド入りをせがんでくるなら、完全黒。
そうじゃねえなら、ギルドメン以外の不死川の仲間と普通に遊べばいい。
で、こっちに避けられてるとか無視されてるとか虐められてるとかそういう系のことを言われそうなら、モブ三銃士、頑張って火消しプラス反撃措置な?」

「了解ですっ!モブらしき忍びつつ任務を遂行しますっ!」
と、敬礼するモブ三銃士。

「まあ…何もないといいね。
男子科から共学科に移籍してまだ3か月ちょっとだけど…もうトラブルはお腹いっぱいだよ」
と、大きく息を吐き出しつつ言う村田。

本当に共学科は学園の魔窟のようだ…と、その恐ろしさに身震いするのであった。


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