清く正しいネット恋愛のすすめ_198_紅い邂逅

──え?なにか言ったかい?
と、視線を向けてくる若いのに真っ白な髪の男に、

──いいえ、なんでもありません、教祖様。
と、まりは笑顔で首を横に振った。



血のように紅い着物。
この教団の施設に滞在する人間は皆、それを身につけている。

万世極楽教、それが現在のまりの暮らしている場所であり、心の拠り所でもあった。

ここに来た時のまりはとにかくひどい状態だった。
姑息な女に騙された最愛のサビト君はまりを悪人のように扱ったし、彼を取り戻すためにたてた作戦はことごとく打ち破られ、学園長どころかまりの親まで、大人を味方につけた卑怯な女はまりを錆兎君の手の届かない外国へと追いやろうとしていた。

そんな女に錆兎君の仲を引き裂かれるなんて絶対に納得できない。
絶対に…自分は錆兎君と結ばれるのだ……たとえ相手を殺してでも!!絶対に!!!

あの女に懐柔された両親はもう敵だ。
あてにはできない。
自分と錆兎君の仲を引き裂くものなど、もう親でも子でもない!!

外国にやられる…そう宣告されてから、泣いて泣いてまりの目は真っ赤に充血していた。
閉じ込められた部屋は屋敷の最上階4階で、当然外から鍵をかけられている。

しかしそんなことくらい、錆兎君と歩む未来を考えれば障害になどなるはずがない。
まりは部屋のカーテンを外して鏡を割り、その鏡の破片を使ってカーテンを引き裂いた。

そしていくつかの細い布切れを編んでロープを作る。
もちろん地面まで届くような長さにはならないが、すぐ下の部屋まで届けば十分だ。

今まりのいる部屋は閉じ込めるために用意した部屋だから、わざわざ外鍵をつけてあるのだが、普通、部屋の鍵は外からも鍵がかけられるにしても、内側からも開けられるようになっている。

だから真下にある3階のバルコニーまで辿り着けば問題はない。
窓は鍵がかかっているにしてもガラスなのだから割って鍵を開ければいい。

幸いにして、天がまりの決意を後押しするように外は豪雨で多少の音はかき消してくれる。

まりはロープをしっかりと結んで下に向かって垂らし、それを伝って下の部屋まで降りた。
背には鉄のブックスタンド。
それを包んできたクッションカバーを多少音を消せるようにと窓に当てて鍵のそばのガラスを割る。
あとはそこから手を差し込んで鍵をあければ窓が開いた。

尖ったガラスで腕を切ったが愛と自由を勝ち取るための名誉の負傷。
滴る血の赤さに気持ちが高揚する。

──地獄の業火に身を焼かれようと私は許さない…呪い尽くしてやる

クスクスと笑いながら高鳴る気分のまま、白い壁に流れる血でそう書くと、まりはそっと扉を開け、廊下を伺い、人がいないのを確認すると、ドアをすり抜け廊下を駆け抜け、靴だけ履いて外へ出た。


雨に打たれて血を垂れ流したまま、夜の住宅街を駆け抜ける。
そこからどうするかなど、全く考えてはいなかった。

ただ衝動のまま行動していたのだが、神はそんなまりを見捨てなかったようで、まりが行くあてもなく歩いている横にス~っと一台の車が止まる。

「やあ、お嬢さん。
ずいぶんと個性的な散歩風景だね。
でも少しばかり寒くはないかい?」
と、開いた車窓から声をかけてきた綺麗な白髪の青年。

それが今まりが所属している万世極楽教の教祖、童磨だった。

万世極楽教というのは恵まれない──それが物質的なことだとしても精神的なことだとしても──人たちの救済を目的とした宗教団体で、実際、血だらけで雨に濡れたまま歩いているまりを見て、これは救わねばならない相手だと思ったらしい。

教祖は汚れるのも構わず車のドアを開けて自分の隣にまりを招き入れ、そして話を聞いてくれる。

まりがあの女にどれだけ貶められて騙された周りから虐げられてきたかを語ると涙してくれ、
「可哀そうに…。一緒に君の名誉と幸せを取り戻そう」
と言って、まりの手を取ってくれた手は温かかった。

そうして彼はまりが敵を排除し、まりの想いを遂げるのに協力してくれると約束をしてくれる。
彼にはその意志と力があった。

まりはその時初めてまともに話が通じる相手に会って、ようやくホッとしたのである。


Before<<<   >>> Next    (2月27日以降公開予定)





0 件のコメント :

コメントを投稿