義勇さんが頭を打ちました_04

これは…想定外だった。
さすがに想像だにしていなかった。

打ち所が悪かったのか…
なんと義勇は錆兎のことどころか、自分のことですら覚えていないらしい。

これが他の人間なら、錆兎に何か腹を立ててその意趣返しか?と思わないでもないのだが、錆兎は義勇のことを少年時代から知っている。
ずっと二人で一緒に居たのだから、おそらく今ではこの世で一番くらい義勇の人となりを知っていると自負している。

だから断言できる。
これはガチだ。
義勇は本気で色々を忘れて動揺している。



「ああ、もう泣くな」
と、そう判断してしまえば全ては条件反射だ。

義勇をぐいっと引き寄せて、その背をポンポンと一定のリズムで軽く叩いてなだめてやる。

そして
「あ~…状況は理解した。とりあえず、落ち着け」
と、そのまま落ち着くのを待つことにした。

このままでは話も出来ない。

まあでもすぐ動揺するが、誰か頼れる相手がいると思えばわりあいと早く落ち着いて素直に相手の話を聞く人間ではあるので大丈夫だろう。

今までだって義勇が鬼殺隊の諸々を完璧に問題なく理解していたかと思えば、なかなか怪しいところがある。

幸いにして今の義勇の身分は錆兎の継子で、任務だって錆兎の裁量で決められるのだから、全く問題はない。

男なら…男に生まれたならば慌てるな。
落ち着け、落ち着けよ?俺。
と、自身に言い聞かせながら、錆兎は義勇の扱いについて必死に考えた。

そして、
「とりあえず…お前が覚えていなくても、お前のことは俺がちゃんと覚えているから問題ない。安心しろ」
と、一番重要なことを伝えておく。

「俺は錆兎。
この世にはびこる鬼を退治する鬼殺隊という組織の最高位の一つ、水柱と言う役職についている。
で、お前は義勇な。
俺とは同じ師範について学んだ兄弟弟子で、今は一応俺の弟子という形になっているから、お前の面倒は俺が見るし、お前についての責任は全て俺が持つ。
だからお前に必要なことは全て俺がわかっているし教えられるから、物理的には何も心配することはないぞ」

その錆兎の言葉に、義勇の青い目がまんまるく見開かれた。
そして…さらにドババっと涙が溢れ出る。
泣きすぎて赤くなった目と頬…それに鼻の頭。

青年にしては今でも泣き虫な方だとは思うが、どこか無条件に頼ってくるような、保護を求める子どものような表情は、まるで出会ったばかりの頃のようだな、と、錆兎はなんだか懐かしく当時を思い起こした。


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