義勇さんが頭を打ちました_03

「あの…」
と、後ろからかかる声に、
「とにかく水柱邸に帰るぞ。
色々詳しい話はついてからだ」
と、錆兎が振り返らずにそう言うと、
「…う、…うん…」
と、どこか頼りなげな返事が返ってくる。

その様子にとりあえず義勇は怒っているわけではなさそうだ、と、錆兎はホッとすると同時に、もしかして逆に自分と離れている間に不死川に怒られるようなことをしてあの反応なのか…と、それはそれで不死川に自らの継子の不始末を謝罪しなければ…と、ため息をついた。

義勇は狭霧山で出会った頃からおっとりとした子どもで、2人して最終選別を突破して隊士になってもそれは変わることはない。

錆兎は幸いにか不幸にか、隊士になって半年ほどでたまたま遭遇した鬼が下弦で、たまたま運よくそれを倒した時に、本当にたまたまずっと古傷を抱えて頑張っていた当時の水柱が引退ということで、いきなり水柱になったので、それからは義勇は継子という形で傍に置いていた。

が、それまでの半年間、もちろん同門だからと言って必ずしも同じ任務につけるわけではなく、義勇も錆兎と離れて色々な任務についていたのだが、任務についている期間より医療所である花屋敷にいる期間の方が多かったのではないだろうか。

元々良く言えば気が優しく、悪く言えば臆病な少年で、戦闘に関しても消極的で鈍くさい義勇を見かねて、同年齢で同じ頃に隊士になった不死川は一緒の任務になった時には色々面倒をみてくれたようだ。

面倒見の良い男なので、錆兎も何度か任務で一緒になった彼に対しては好感を持っていたし、錆兎が柱になってからやや時間が経って不死川が同じく柱になった時には祝いに一緒に飯を食いに行く程度には、親しい付き合いをしている。

だからまあ、そうひどいことになっているわけではないだろうと思いつつ、魚屋、八百屋と寄ったあと、和菓子屋によって不死川の好物であるおはぎを風柱邸に届けてもらうよう手配した。

和菓子屋で注文をしていると、後ろからじ~っと熱い視線を感じて、錆兎は
「…お前も欲しいのか?」
と、ため息をつく。

それにおずおずと頷く義勇のために、団子を買うと、それは別に包んでもらって義勇に持たせた。


その時点では錆兎は事態に全く気付いていなかった。
義勇が妙に無口なのは、何か不死川を怒らせてしまって動揺しているためだろうと思っていた。

が、水柱邸に戻っていつものように門をくぐり、玄関で靴を脱いで中に入ると、義勇は何故か一瞬そこで立ちすくんだ後、錆兎に続いて靴を脱いで中に入ったが、そこで

──…お邪魔します……
と言うではないか。

「は?それはなんだ、義勇」

錆兎は一瞬戸惑ってそう言うと、それから、不死川を怒らせて動揺して大人しくはなっていたが、それはそれ。錆兎の事はまだ怒っていたのか?ときりりと太く男らしい宍色の眉を寄せた。

しかしそうではないらしい。
その言葉に義勇の方こそ戸惑った様子を見せる。

「あ、あの…さっきは怖い人からかばってくれて…ありがとう。
あなたは良い人だな…」
と、言った後に、

「でも…ここはどこ?」
とキョロキョロとあたりを見回した。

え…とじわりと額に汗をかく錆兎。
まさか…まさか…な?

動揺する錆兎の前でさらに動揺する義勇。

「えっと…お前…俺が誰だかわかる…か?」
と、おそるおそる聞いてみると、義勇は首を横に振った後、ハッと気づいたように泣きだした。

「…わからない…どうしよう…俺は…誰?」


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