義勇さんが頭を打ちました_02

錆兎が義勇を寝かせたソファの傍らでおそるおそる様子を見ていると、いきなりドアが開いた。

「あ~、錆兎かァ。
任務帰りかァ?お疲れさん。
………で?
なんでそいつァのんきに寝てやがんだァ?」


開いたドアから入ってきたのは風柱の不死川実弥だ。
彼も任務帰りなのだろう。
その身にわずかな血の匂いをまとっている。

ここは共有の控室で、任務まで時間を潰したり、逆に任務後に事務方との連絡待ちをしたりと、色々な用途で使うので、休んでいる人間がいてもおかしくはないが、まあ居眠りくらいならとにかく、横たわって眠っている人間は珍しい。

「継子の分際で柱を待たせて眠りこけてるなんていい度胸じゃねえか。
錆兎、お前、ちょっとこいつに甘すぎだろうよォ。
ほら、冨岡、起きろォ、起きやがれ!」

と、事情を知らない不死川はズカズカと義勇の前まで来ると、止める間もなくその鼻をつまみあげる。

うあああ…と焦る錆兎の前で、んんぅ!!と綺麗な眉を寄せて義勇が目を開けた。
まだ意識がはっきりしていないのか、ややぼ~っとした様子で綺麗な青い目で自分の鼻をつまみあげている不死川を見上げる。

そして…硬直。

次の瞬間、
「ひあっ!」
と悲鳴を上げて飛び起きる義勇。

その腕をグイっと引っ張って
「ほら、さっさと起きろォっ!!グズグズしてんじゃねえぞォっ!!」
と、いつもの調子で言う不死川。

一見乱暴なようだが、別にこれが不死川のスタンダードで、いつでも誰に対してもこの調子だ。
だから別に初対面の人間でもなければ驚くこともない。
むしろこうでなければ不死川じゃない…と、彼を知る誰もが思うところだろう。

だが、彼を知っているはずの義勇はその不死川の言葉にすくみ上った。
そして明らかに怯えた目で彼を見ると、半泣きで錆兎の後ろに隠れたのである。

…まずっ…と錆兎が思ったのは、
泣き出しかけている義勇、
そしてそんな風に怯えられて地味にショックを受けているらしく立ちすくんでいる不死川、
そのどちらに対してだろうか…

自分でもよくわからなかった。
が、とりあえずこのままでは不死川まで泣くんじゃないだろうか…

と、何故かそんな風に思い、錆兎はその間に入ってまず不死川に、
「義勇はたまに昔の夢を見たりして当時を思い出して怯えるんだっ。
すまないな、実弥。
ちょっと寝ぼけているようだし、うちで休ませる」
と、不死川に怯えているわけでもなければ、彼のせいではないのだと言うと、
「ほら、義勇、帰るぞ」
と様子のおかしい義勇の腕を引いて控室を出た。

幸いにして義勇はまだ完全に目が覚めていないのか、どこかぼ~っとした様子でついてくる。
それにホッとした錆兎だが、この次の瞬間、ホッとしている場合ではないことを思い知るのである。
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