義勇さんが頭を打ちました_01

「これはまずい…どうするか…」

錆兎は任務後に寄った控え室でため息をついた。

目の前にはソファ…に寝かせた義勇。
その額には大きなたんこぶ。
そして…その原因を作ったのはまぎれもなく自分だ。

当然ながらわざとではない。



今日は鬼殺隊の事務局がある洋館で報告を終え、さあ帰ろうとしたところで後ろからいきなり
「さ~び~と~!!久しぶりっ!!」
と、突進された。

その懐かしい声に振り向くと、花柄の羽織と狐の髪飾りが可愛らしい姉弟子の真菰が立っている。

確かに久しぶりだ。
なにしろ二歳年上の彼女が鬼殺隊に入ってからなんのかんのですれ違い続け、なんと丸7年ほど顔をあわせる機会がなかった。

「本当に…驚くほど久しぶりだな。元気か?」

錆兎は9歳で鱗滝の元に引き取られて、11歳までは鱗滝の元で真菰とはほぼ二人きりの弟子として育った。

その後、2歳年上の真菰が13歳で最終選別を突破して鬼殺隊に入隊してからは、忙しさに手紙のやりとりはあっても実際に会うことはほぼなかったのだが、入れ違いに義勇が引き取られてきたため、錆兎の方もなんとなく気にせずに過ごして今に至る。

まあそれでも久々に会えば懐かしい。

「真菰…全然変わらないな」
と、当時はさして変わらなかった身長も7年経って一気に伸びた錆兎から見るとはるか下に見下ろす真菰はずいぶんと小さく見えた。

ぽんぽんと子どもにするように頭を軽く叩くと、
「錆兎が伸びすぎなんだよ~!どんだけにょきにょき伸びてるのよ」
と、真菰はぷくりと頬を膨らませてみせる。

それに
「そうだな…最後に測ったときには188あった」
と、錆兎はふはっと笑った。

真菰から遅れること2年後、錆兎も最終選別を経て鬼殺隊に入隊して狭霧山を離れたが、家族を皆鬼に殺された身としては錆兎にしても真菰にしても狭霧山の鱗滝の小屋は実家で、そこで一緒に過ごした相手は兄弟だ。

懐かしさも手伝って思い出話に花を咲かせていると、錆兎!と、珍しくあまり機嫌がよくなさそうなもうひとりの幼馴染の声が聞こえてくる。

「ああ、義勇、待たせたか、すまん!」

共に任務を終了後、それぞれに用事があったので、それを済ませてから一緒に帰るために控室で待ち合わせの約束をしていた義勇は、どうやら早めに全てが終わったらしい。
いつまでたっても部屋に来ない錆兎にしびれを切らして探しに来たようだ。

ちょうどいい、狭霧山にいた時期がズレていて面識はないが兄弟弟子ではあるのだし、二人を紹介しておこう…そう思って錆兎が

「お前にも紹介しておく、」
と、真菰の背に手をかけて少し前に出すと、義勇は

「要らない。俺は帰る。お前はゆっくり話して居ればいい」
と、クルリと反転して早足で去っていった。

…え?と思う。
確かにすぐ部屋に向かわなかったのは悪かったが、真菰と話していたのなんてほんの数分だ。
何故そこまで不機嫌になられたんだ?と、ぽか~んとする錆兎の背を

「ほら、錆兎、追わないと!あの子怒ってるよっ!」
と、今度は真菰が押す。

「悪い、真菰!また今度っ!」

真菰には悪いがまた今度詫びようと、錆兎は義勇を追いかけた。
そして…おそらく荷物を置いていたのだろう。
義勇は待ち合わせをしていた控え室に駆け込んだ。

なので錆兎もそれを追うように部屋のドアを勢いよく開けた瞬間、ゴツッ!と鈍い音と共に衝撃があって、開けたドアの先に義勇が倒れていた…と、そういうわけである。


「義勇…大丈夫かっ?」
と、声をかけるも返事がないので、仕方無しにソファに寝かせる。

不可抗力とは言え、なんだか怒っていたところに大きなたんこぶまで作ってしまった。
これはもう不機嫌さがさらに急上昇したことだろう。

任務明けで少し疲れてはいるのだが、帰りに買い物をしていって、今日の晩御飯は義勇の好物の鮭大根を作るしかないか…と、錆兎は大きくため息をついた。





2 件のコメント :

  1. 誤字報告です。義勇さんの鉱物→好物。錆兎が錬金術師にジョブチェンジしてる…

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    1. ご報告ありがとうございます💕
      修正しました✨

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