清く正しいネット恋愛のすすめ_10_ナイト様のお迎え

「え、ちょ、ちょっとっ!!美紀、見てよっ!!鱗滝君いるっ!!」

翌日、色々がまるで頭に入らず迎えた終礼前。
窓際の女子が嬌声をあげた。


「まじっ!!どこにっ?!!!」
「うちらの玄関前っ!!!」
との声に、教室内の女子の半数以上がガタガタッ!!と立ち上がって、窓に殺到する。


「ずっといるってことは、誰か待ってる感じ?!」
「天元?!」

と、振り返った女子に視線を送られた宇髄天元は、

「いやあ?俺じゃねえよ。なに、ウサちゃん、共学科に来るって珍しいな、おい」
と、自分も立ち上がって窓際まで見に行った。


そんな中で、
「サビトさんが共学科なんて、本当に珍しいですね。今日は雨ですかねぇ…」
と言う胡蝶しのぶの言葉で、義勇は初めて、女子が騒いでいる鱗滝君というのがサビトのことだと知る。


それまで今日の帰りに迎えに来てくれるというサビトの言葉で頭がいっぱいで、女子が鱗滝君とやらに騒いでいるのにも全く興味がひかれなかったのだが、サビトがその鱗滝君だということに気づくと

「胡蝶さん…その…鱗滝君て?有名な人?」
と、他を刺激しないように、胡蝶にそっと尋ねた。


義勇のその問いに、胡蝶ははぁ~っと呆れたようなため息。

「冨岡さんて…本当に周りの男子に興味ないんですね。
まあ、誰かさんのおかげで近寄りたくない存在になったっていうのは、分かる気はしますが…」
と、その後、冷ややかな視線を不死川に送る。


それに不死川が何か口を開きかけたが、そこで、思いきりテンション高く割って入った甘露寺の勢いに、言葉を発することができないまま、口を閉じることになった。

もちろん甘露寺は他意はない。

「義勇ちゃん、鱗滝君はねっ、すっごくカッコイイ男の子なのよっ!!
頭が良くて、運動神経抜群で、剣道の全国大会優勝者で…でも、硬派なのっ!!
憧れてる女の子もいっぱいいて、中には告白した子とかもいるんだけど、みんな玉砕してるんだけどねっ、そのお断りもすごく丁寧なんですってっ!
手紙で告白した子には手紙で返事を返してくれるんだけどっ、和紙に筆でものすごく達筆な字で返ってくるんですってっ!!
筆よ?筆っ!!
毛筆で達筆ってすごくないっ?!
日本男児って感じできゅん!としちゃうわよねっ!」

繰り返すが甘露寺には他意はない。

彼女のきゅん!としちゃう発言は、別に相手に恋情があってのことではなく、すごいわねっ!ということを伝えたいだけなのだが…おそらく今の会話を聞いている伊黒は、帰宅したら毛筆の通信教育講座でも申し込むに違いない。


ともあれ…サビトが実はすごい人なのだという事は理解した。
なるほど、炭治郎がわざわざ共学科から男子科に移籍してまで目指す人物である。


そうか…大勢の女子が玉砕している硬派なのか…

自分を心配して迎えに来てくれる…と、そのことで、勝手に好意を持ってもらえるのでは?と浮かれて姉に色々オシャレをさせてもらったが、そこにあるのは好意ではなく善意で、本当に単純に可哀そうないじめられっ子のために加害者を追い払ってやろうというだけなのかもしれない。

色々出来る人間のボランティア的な何かなのだろう…。
そう思うと、義勇は勘違いした自分が恥ずかしくてなんだか悲しい気分になった。


こうして終礼が始まると、後ろから何かが飛んできた。
拾ってみると丸めた紙。

一瞬ゴミかと思ったが、同時に後ろの方の席の不死川からものすごい圧を感じるので、おそらく彼が投げてよこしたのだろうと、おそるおそる開いてみる。

『お前、レジェロ始めたかぁ?始めたんならアカウントNo教えろ。フレ登録するぞ』
と、その内容に義勇は青ざめた。


教えたくない。ぜ~~ったいに教えたくない。
楽しいゲームの中でまで暴言を吐かれたくない。

これは…なんとしても逃げきらなくては…。
サビトの所まで逃げきれば、彼がなんとかしてくれる。

そう思った瞬間、ただ追い返してくれるだけでもありがたいなと、義勇は気を取り直した。

そうだ、別に恋情とか彼にとってのお姫様になれなくとも、毎日一緒にゲームで遊んでくれるのだし、十分じゃないか。

とにかく今日彼が来てくれて良かった。
帰りの挨拶が終わったらカバンを持ってサビトの元まで猛ダッシュだ!



──起立、礼…さようなら!

ダッシュっ!!!!

カバンをひっつかんで駆け出す義勇。
それを何故か追いかけてくる不死川…を、胡蝶が

「冨岡さん、嫌がってますよ!」
と、一瞬止めてくれる。



さすが学級委員。
義勇にも時には辛辣だが、こういう時は不死川のような男子相手でも毅然とした態度で注意してくれる。

その一瞬の間に距離を広げる義勇だが、不死川も
「うるせえっ!どけっ!!!」
と、すぐにその手を振り払って、追いかけてきた。

教室では事情を知る宇髄が、あ~…もうちっと上手くやれよ…と、頭を抱えている。



必死に走る義勇。

1年生の教室は3階なので、ほとんど階段を飛び降りるように駆け下りるが、義勇が足が速いほうだとしても相手は男子だ。

なんとか1階にたどり着いた時には後ろの方に不死川の気配を感じて義勇は焦る。


そしてとうとう玄関で、靴を履き替えようと下駄箱に伸ばした手を掴まれて

「逃げんなァっ!!」
と、怒鳴りつけられて泣きが入った。

…と、その時だった。


駆けつけてくる義勇のナイト。
掴まれていた手が自由になる。

「サビトっ!」
と、振り返ると、ゲーム内のままの宍色の髪のとてつもなくカッコイイ男子が、陽の光を背に立っていた。


強く手を掴まれていたため感じていた痛みが消える。
それに気づいて視線を向ければ、

「…大丈夫か…?…ゆっくり靴を履きかえていいからな?」
と、気づかわし気に言う錆兎の手が、さきほどまで義勇の手首を掴んでいた不死川の手をしっかりつかんでいる。

義勇にとってはかなり大きく恐ろしかった不死川よりも錆兎はまだ大きくて、力もかなり強いらしい。
あの不死川が手を外そうとしているのにビクともしない。

その不死川に向けるのは、義勇に向けていたのとは比べようもなく厳しい視線。


そして…
「…っ…てっ…めえっ、離せやぁぁ~!!!」
と、焦れて飛んできた左手もパシっと掴み、そのままいきなり投げ飛ばした。

膨れ上がる怒気。

しかしそこで、
「待ったっ!!!ウサっ、ちょっと待ったああああーーー!!!!」
と、慌てて二人の間に入ったのは宇髄である。


さきほどの女子の話からすると、互いに訪ね合うことがあるくらいには親しい知り合いのようだが、サビトの視線はすごく冷ややかだ。


──天元…貴様もグルか?…そういう男ではないと思っていたのだが…俺がお前のことを見損なっていたのか……

ぞくり…と背筋が寒くなるような、怒りを通り越して軽蔑を前面に出したような低い声。


「いや、誤解だっ!!
あのなっ、こいつ、不死川はずっと冨岡に謝りたくて、でも逃げられて謝る機会が持てなくて追いかけまわしてたんだってっ!」


………
………
………
それは初耳だった。

びっくりして固まる義勇。


だって、不死川はいつだって義勇に向かって口を開くときは怒声か罵声だったし、義勇の考える”ごめんなさい”という言葉を口にするシチュエーションとはかなり違っていた気がする。


あまりに意外な言葉に言葉もなくただ目を丸くして立ち尽くす義勇に、サビトが少し身をかがめて視線を合わせてくる。

そして、まるで、大丈夫だぞ、とでも言うように優しく微笑みながら、柔らかい口調で
「どうする?聞くだけは聞いてやるか?」
と聞かれて悩む。


今までの事を考えると、本当かどうかわからない…という気持ちもある。

今は強いサビトがいるからそう言っているだけで、居なくなったらお前のせいで大勢の前で謝らされて恥をかかされたとか怒鳴られたら怖い…。

そんな風に迷う義勇を気遣ったのか、サビトが代わりに言ってくれる。


「まあ、俺はそんな謝罪は認めないがな。
自分が謝罪を意味する言葉を言いたいというだけで、怯える義勇を追いかけまわして、さらに怖い思いをさせて、何が謝罪だ。
謝罪の気持ちがわずかでもあるなら、相手の意志を無視して、嫌がる手を無理矢理掴んで、言葉を聞かせようなどとはしないだろう。
そいつの自己満足のために怖い思いをさせられる義勇はいい迷惑だ…」

あまりに切り捨てた言い方に、その場の空気が凍り付いた。

「じゃあ、てめえは一度間違ったことをしたら、二度と相手に近づくなって言うのかよぉ!!」

「…過ちには許されるものと許されんものがある。
一方的に振るう暴力は後者だ。特に、自身より弱い相手に対してはな。
そもそもがそんな人間の屑しかやらんことをしておいて、よく恥ずかしげもなく近寄ってこれるものだと感心する。

とにかく…小等部の頃から暴力暴言を繰り返していた男子生徒がいまなお怯える女生徒を追い回して拘束して怒鳴りつけている…これは学校としても十分問題行動だ。
これ以上、義勇に何かするのであれば、俺は男子科、女子科の生徒会長の知人達を通して、生徒会から正式に学校運営陣に訴えるつもりだ。

そうなれば……天元、それを助長させる動きをしていたお前も連座だぞ。
嫌なら止めさせろ…」


そう言い捨てた後、サビトは

──支度ができたようだな。行くぞ──
と、義勇の手から義勇のカバンを取って自分のカバンと一緒に片手に持つと、そっと腕を差し出す。

──良ければ…
と言う控えめな申し出に、義勇がこちらも控えめにそっと手をその腕にかけると、

──では、行こう。
と、さきほどまでからは考えられないほど柔らかい声音でそう言って、歩き出した。



不死川は追ってこない。
誰も何も言ってこない。

ゆっくり、ゆっくり、歩いて帰れるのは久々だ。

校門を出て、駅の方へ向かう道。
曲がり角を曲がった所で、サビトが足をとめた。


不思議に思って頭一つ分以上高い錆兎を見上げると、なんだかとても困ったように、さきほどまでキリリと凛々しかった太めの眉が八の字になっている。


「…さび…と?」

コテンと義勇が首をかしげると、サビトは

「ギユウ、さっきはすまなかった…」
と、いきなり謝ってきた。


「……??」

何を謝られているのかわからない。
だって、本当に怖くて怖くて泣きそうだったのを助けてもらった。
ますますわけがわからなくて首をかしげていると、サビトは言う。

「目の前でいきなり暴力をふるったり、声を荒げたりして、怖い思いをさせただろう?
反省してる。これからは気を付ける。
それでなくとも俺は見た目からして怖くて近寄るのは嫌だろうし…。
学校を出たら離れて歩いてくれても構わない」


え?ええ???

「何故??怖い不死川からかばってくれて…すごく強くて…
言っていることもとても理にかなってて冷静な感じで……え~っと……
……サビト、すごくカッコよくて、ナイト様だった…」

と、感じたままを口にすれば、今度はサビトがぽかんと固まった。


鋭い視線で理路整然と相手を追い詰める様子もカッコよかったが、こうやって驚きに気が抜けたような顔をしていても、やっぱりカッコいい。

「見た目も…ゲーム内と同じですごくカッコいいし…」
と、口にした時点で、義勇は自分が口走ったことがなかなか恥ずかしい事かもと思って真っ赤になってうつむいた。


「…ギユウは…俺が、怖くないのか…。逃げないでいてくれるんだな…」

と、その後上から降ってきた声は、なんだか切ない響きがあって、義勇はなんだか胸がきゅんとしてしまう。


「…怖く…ないよ?ぜんぜん」
と言う義勇の言葉に、

「…そうか……」
と、返って来て、それからサビトはまたゆっくりと歩き出した。




おそらく義勇の歩幅、義勇の歩調に合わせてくれているのだろう。

ゆっくり、ゆっくりと…。


そしてまた上から声が降ってくる。

「何かすれば学校側から正式に処分が下るとなれば、相手もこれ以上の無茶はしてこないだろうし、あえてキツイ言い方をしたから、相手が恨んで敵意を向けてくるのは俺に対してになると思うから。

それでも何か言ってくるなら、義勇はとりあえずは俺を悪者にしていい。
俺が怖いし、何かあれば俺が学校側に訴えてくるからと言っておけ。
その後、俺にその旨を言ってくれれば、ちゃんと義勇に危害が及ばないように対処する。

女子科の生徒会長は俺の従姉妹だし、男子科の生徒会長は同じ道場で色々教えていた年上の弟弟子なんだ。
だから両方ともちゃんと動いてもらうことはできるから。
もちろん、義勇が嫌じゃなければこれからも絡まれないように迎えに来るし…」

「え?!これからも来てくれるの?!
嫌じゃないっ!ぜんっぜん嫌じゃないっ!
むしろ、帰りだけじゃなくて、ずっといてくれてもいいくらいっ」

思わず俯いていた顔をバッとあげて上を見上げると、ちょうど見下ろしていた錆兎とばっちり目があって、互いに真っ赤になってうつむいた。




──ちょっとごめんな?

その後の帰り道、曲がり角や信号や、色々なポイントで錆兎はそう断って、カバンを反対の手に持ち直すと、義勇をそれまで歩いているのと反対側へと誘導する。

最初は少し不思議に思ったが、すぐ気づいた。
錆兎は常に自分が車道側を歩くようにしてくれているのだ。


…し…紳士だ……

それに気づいてしまえば、もう頬が赤くなるのを抑えられない。
まるで本当に少女漫画の王子様のようだと思う。

これ…本当に実在の人物なんだろうか…
何かおとぎ話の中から飛び出してきたんじゃないだろうか…
あるいは自分は今まだベッドの中で夢を見てるのかも……


たった一日で義勇の男子高校生への認識はひっくり返ってしまった。

そう…男の子は皆が皆、乱暴なわけじゃない。
世の中にはナイト様系男子高校生というものが存在するのだ…と。


Before<<<    >>> Next(8月7日0時公開予定)





2 件のコメント :

  1. 😃待ってました!
    やっと錆兎が義勇♀に逢えた°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°
    ちょっと実弥が可哀そうな気もしますが・・・錆義は譲れない!

    返信削除
    返信
    1. やっとリアルで会えました(^o^)
      さねみんは…原作でも初っ端に禰豆子刺しつつ、柱稽古でも炭治郎を顔変わるまでボコってる手が出やすい人ですしね💦
      女の子から見たら普通に怖い人だと思います😅

      削除