清く正しいネット恋愛のすすめ_9_ナイト様はリアルでもナイト様だった件

夜中の0時…PCの電源を落とした義勇は8歳上の姉、蔦子の部屋に駆け込んだ。
社会人の姉はだいたい0時半くらいまで起きていることが多いことを知っているからである。


「あらあら、義勇。こんな時間にどうしたの?」

と、こんな時間に押しかけたにも関わらず、姉は優しく聞いてくれる。
優しいだけでなく、とても女性らしくて綺麗な姉は、義勇の理想だった。


「…あの…ね、姉さん…」
「…うん?なあに?どうしたの…?」
「…明日…特に可愛くして学校に行きたいのだけど……」

幼い頃はよく姉が綺麗に髪を編み込んでくれた。

義勇も適当にしていたわけではないけれど、姉が編み込んでくれた髪型ほど可愛い髪型はないと思っている。
だから可愛くしたいと思えば、姉にお願いするのが一番だと思った。


そんな妹に、蔦子は目を丸くして固まると、次の瞬間、

「あらあら、まあまあっ!!」
と、おそらく睡眠のお供にと思って手にしていたのだろうお手製の綺麗なブックカバーのかかった本をベッドに放り投げて、

「義勇、とうとう好きな男の子ができたの?!どんな素敵な男の子なのかしら…」
と、駆け寄ってきた。


好きな男の子…と、ついぞ自分に縁がなくて姉の口からだされたことのない言葉に、義勇はかぁ~っと赤くなる。

「好き…か、まだわからないけど…」
「うんうん!大丈夫よ、お姉ちゃん、いつでも義勇の味方だからね?
明日は編み込みしてあげるわね。ご飯の前にお姉ちゃんの部屋にいらっしゃい」

と、約束をしてくれたので、義勇はお礼を言って自室に戻る。


そしてベッドにもぐりこむが、眠れそうにない…。ドキドキする…。

いつも”きゅん!としちゃう”が口癖の甘露寺を思い出した。
そう言えば、今回ゲームを始めたのも彼女がきっかけだった。


そう、初めはいつも仲良くしてくれる数少ない友人の甘露寺が誘ってくれたこともあって断り切れずに始めただけだった。

自分では色々よくわからず、小等部の頃に縦割り班が一緒でよく懐いてくれた下級生、炭治郎に連絡を取って教えてもらってまでやるのは正直面倒くさかったが仕方がないと思う。

しかしキャラクタを作り始めると、意外に楽しくなってきて、さらに炭治郎が義勇が少しでも楽しめるようにと、あらかじめ女性キャラ用の可愛い洋服まで用意してくれていたので、基本的な準備を終えて、あとは夜に…と、いったん終了して自宅に帰る頃には、それで遊ぶのが楽しみになっていた。

可愛い格好をした自分に似たキャラでファンタジーの世界を堪能する…それだけで十分楽しい。
だが、おとぎ話はそこで終わらない。

義勇はそこでまるで物語に登場するお姫様のように、運命の出会いをしたのだった。



初日で義勇のキャラはまだ作りたてなので死に戻りでも問題なかろうと、アクティブなモンスタの多くいる可愛らしい森へと連れて行ってもらった時のこと。

案の定絡まれたギユウを殴られる寸でのところで助けてくれたのは、銀色の鎧を着た、イケメンナイトだった。


ギユウを殴ろうとするモンスターを次々自分に引き付けたかと思うと、ギユウを背にかばって、かばった相手への攻撃を代わりに自分が受けるナイトのアビリティ”守る”を使ってかばってくれる。

…カッコいい…と、それだけで義勇はときめいてしまった。


なにしろ今まで義勇の周りにいた男子は危害を加えてくることはあっても、こんな風に守ってくれるなんて皆無だった。

まるで少女漫画かおとぎ話のような展開…。
もっともファンタジー系のオンラインゲームなので、おとぎ話の世界と言えばそうなのだが…。


義勇はあまり活発な方ではなく、いつも姉のおススメのファンタジー小説や少女漫画を熟読しているような子どもだったので、実はとても少女趣味だった。

現実の男子は意地悪だったが、その分、本の中の王子様や少年勇者に憧れた。

その憧れたままの王子様のようなナイトが、今、自分を守ってくれている。


チラリとキャラに目をやれば、風にたなびく髪は鮮やかな宍色で、同色の太めの眉。
やや丸いが吊り目がちなためキリリとした印象の瞳は綺麗な藤色で、唇から右頬にかけては大きな傷痕。
それを含めても男らしく精悍で整った顔立ちだ。

最初は王子様…と思ったが、どちらかと言うと、勇者様といった風情である。


物語…ゲームの中だけでも、こんな素敵なナイトが優しく接してきてくれるなら幸せだと思ったが、彼はなんと炭治郎が世界中の誰より尊敬している立派な先輩だと言うのだ。

実在している…このカッコ良くも優しい彼が実在しているんだ…
そう思うと、なんだか世界がぱぁ~っと明るく光に満ちてきた気がした。


ギユウ達をモンスターから助けてくれたあと、彼は礼も求めずに立ち去ろうとしたが、タンジロウがそれを引き留めてくれた。

ナイスだっ!タンジロウ!!

と、義勇はリアルでこぶしを握る。



しかもタンジロウが実に気が利くことに、義勇に意地悪をしている男子もこのゲームをやっているから、絡んでこないように一緒に固定パーティーを組んでくれないかと頼んでくれた。

優しい彼はそんな事情を聞いて否ということはなく、ギユウはめでたくそのカッコいいナイト様、サビトとこれからずっとパーティーを組めることになったのである。

ゲーム自体、ファンタジー好きの義勇にとっては楽しいものだったが、常にこんな素敵なナイト様が傍で守ってくれるなんて、夢のようだ。



その日はギユウが19になるまでレベル上げをして、翌日にクラスアップのためのアイテムを取るクエストを手伝ってもらう約束をして、余った時間は合成スキルをあげようということになったのだが、そのスキル上げに必要なアイテムも彼が全て用意してくれる。

スキル上げで作った料理をくれればいいから…と言われて、それなら負担もかけないか、と、受け取ったのだが、レベル上げで得た物を売るのによくよく競売を見て見れば、スキル上げで作る人間が多いからだろうか、作った成果物よりも材料費の方がはるかに高い。

彼は何も言わずに当たり前に材料をそろえてくれたが、おそらくそのことも知っていて、ギユウが気を使わないようにと、成果物と交換しようと言ってくれたのだろう。


…優しい……と、そこでギユウはまたホワンとした気分になる。

そもそもが、彼は素材狩りの時に攻撃力が上がれば殲滅速度が上がって効率的になるからと言っていたが、ギユウのスキルで作れる料理であがるパラメータなど、カンストしたナイトである彼にとっては誤差の範囲だ。

それでも…自分が作った物をサビトが食べてくれるのはなんだか嬉しい。

今はスキルも低くて大した料理は作れないが、スキルがあがればグン!と能力があがる料理だって作れるようになるはずだから、今は厚意に甘えて頑張ろう!

そんなことを思いながら、ギユウはタンジロウが薬学スキルを、サビトが釣りのスキルをあげる横で、せっせと調理スキルをあげていた。

もちろんその間無言であるわけではなく、雑談が始まる。



いや、雑な談話、雑談なんていうのは失礼だ。

サビトはゲーム内ではタンジロウの事もギユウの事も守ってくれると断言していたが、そうやって時間が出来た時に改めて、リアルは大丈夫なのかと心配してくれたのだ。


最初は炭治郎に迎えに行ってやれという話だったのが、炭治郎が以前返り討ちにされた話をしたら、なんと自分が迎えに来てくれると言う。

うあ~うあ~うあ~~!!!!

リアルで義勇は手にしたクッションを抱きしめて小さく嬌声をあげる。


会える!ナイト様に会えるんだっ!!

感動に打ち震える義勇のディスプレイには

──でも…俺は現実でもこんな容姿で人相の悪さとかもそのままで、女子には怖いかもしれないから、怖がらせたらゴメンな?

なんて謝るナイト様の姿。


それに
「いや、錆兎はもともととても整った顔をしているし、顔の傷は小さい頃に地震で天上から落ちてきた商店街の飾りから俺の妹の禰豆子をかばってくれて出来た傷なんだ!」
と、タンジロウが説明する。



そうか…リアルでも彼は弱者を守る優しい人なんだ…と、その言葉に義勇はむしろ感動した。

他の男の子が義勇を殴ったり小突いたりして苛めている時期に、彼は小さな女の子をかばってすごい怪我を負って、それでも炭治郎が目標にするくらいに立派に生きてきた男の子なんだ…そう思うと、ますます彼と会うのが楽しみになる。

むしろ、ギユウも自分にかなり似せて作ったつもりのキャラだが、実際に会ったら彼にがっかりされないだろうか…と、それが気になって、夜中に姉の部屋に駆け込む羽目になったわけで…。



楽しみだけど、少し怖い。

少し怖いけど、すっご~~く楽しみ。

ドキドキワクワクしながら何度もベッドの上でゴロンゴロン寝返りを打ち、それでもいつも早寝早起きが習慣づいていることもあって、義勇はいつのまにか眠りに落ちていた。



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