清く正しいネット恋愛のすすめ_8_白姫ギユウと初めての狩り

その日はそれから3人で狩り。
タンジロウとサビトは素材狩りがてらギユウのレベル上げに付き合うことに。


中の人がどうであれ、ゲーム内では女性キャラと遊ぶことも少なくはなかった錆兎だが、ギユウはリアルで自分と同い年の女子だとわかっているので、なんとなく緊張する。


レベル上げするのがアタッカーなら、そのキャラがダメージソースになれるよう、そのキャラのレベルに合わせた敵を狩るようにしてやるのが良いのだろうが、彼女はヒーラーなため、他のパーティーメンバーがHPを減らさないとやることがなくてつまらないだろう。

そんな理由から、サビトでも殴られればわずかばかりHPが減る、しかしリンクしない系の敵を狩ることに。


キャンプ地を決めて、釣り役は飛び道具が使えるジョブがいないため、サビトが神聖魔法で釣ってくる。

レベルが低いうちに覚えるものなので、弱い代わりに消費MPも少ないし、しかも詠唱が短い。
カンストしていてもほとんど役に立たない威力の低い神聖魔法を、今までなんのためにあるんだ?と思って使ったことはなかったが、意外なところで役に立つものである。

こうしてサビトが釣って来てそのままタゲをキープ。
タンジロウがメインで削って、敢えてディフェンダーをいれずに敵に削らせるHPはギユウがヒールで回復する、の、繰り返し。

時折近くに敵がポップしてターゲットが複数になった時には、すかさずディフェンダーをいれてHPを減らさないようにすることで、ギユウがヒールをいれて万が一にもタゲを取らないようにと気を付ける。

ギユウのレベルにしてはかなり強い敵を狩っているため、一発殴られたら即死なので、錆兎は普段からタンクをやっていてもほぼタゲを後ろに流したりすることはないが、今回は念には念を入れてタゲをキープしつつ、2匹以上の敵が沸いた時には、”守る”を使うから自分の後ろに移動するように、と、ギユウに指示した。


そういうわけで狩っている敵のレベルにしてはやや緊張感のある狩りだったが、その代わり戦闘が終わるたび、リリン、リリンと、ギユウのレベルが上がった音がする。

とにかく繰り返しの戦闘なので、基本操作さえぎこちなかったギユウも、1時間ほど狩りを続けてレベルが19になった頃には、だいぶ色々に慣れてきた。


「レベルが20になったら、クラスアップしないとだから、明日はそのためのアイテム取りをするか。
今日はもうそこまでの時間がないしな。
あとの時間は…そうだな、合成でもしてみるか?」

レジェロではレベルは20で一旦止まり、その後は各ジョブごとに指定されたクエストをこなすことでクラスアップするためのアイテムをもらえる。
それを神殿に持参することでクラスアップして、21以上にレベルを上げることが出来るのだ。

だからこのまま狩りを続けていても、すぐレベルが上がらなくなってしまうため、そう提案したのである。


それにタンジロウが、
「サビト、合成もあげてるんですか?」
と聞いてきた。


合成と言うのは様々な種類のアイテムを自作することで、それぞれの合成アカデミーで弟子入りをし、指定されたものを作ることでスキルをあげ、ある程度スキルがあがったら試験を受けて上のスキルに…と、レベル上げと同じような経過をたどる。

もちろん戦闘だけを楽しんで合成に全く手をつけないプレイヤーも少なくはないが、合成ができれば作ったものを競売で売って資金稼ぎができるので、サビトは戦闘と同じ程度には合成スキルもあげていた。


「ああ、調理と釣り以外は師範になったな。
ナイトは自己回復もできて無理が利くジョブだし、合成素材を自前で集めやすいからな」
と言うと、驚くタンジロウ。


師範…というのは、合成職人の最高位である。

最初は初心者>>見習い>>新人>>中堅>>ベテラン>>師範と、スキルが20上がるごとに昇格試験を受けることで位があがっていく。


「すごいなっ!俺もレベルがカンストしたらやってみようと思っていたんだが…」
「いや、あげながらの方が、素材を集められるから楽だぞ」
「そうか…そうだよな」

などと言う会話に、

「じゃあ、私は調理をやってみたい」
と、ギユウが言う。

「そうか。なら、今日狩ったウサギがドロップした肉を全部やろう」
「え、あ…それは、レベル上げに付き合ってもらった上に申し訳ないから…」

と、一緒に狩って得たそう高くもない素材でも遠慮して慌てるギユウに、サビトは秘かに好感を持つ。


そこでどうすれば彼女が受け取りやすいかと考えた末、

「この肉でウサギの干し肉を作れば調理スキルが上がるんだ。
だからスキル上げで作った干し肉をくれればいい。
少しばかり攻撃力がアップするアイテムだから、攻撃が高くないナイトが素材狩りをする時に食えば、殲滅が早くなるし」
と、言うと、彼女は、それならぜひ!と、喜んでそれを受け取った。

そのついでに、どうせ成果物はもらうから…と、それを作るのに必要な塩と香草も買って渡してやる。


「で?お前は何をあげる?タンジロウ」

と、その後にタンジロウにも聞いてやると、タンジロウは、それなら自分は自前で薬をつくれるように薬学をあげたいというので、

「そうか。じゃあ、お前はスキルが低いうちは自前で買えるだろうし、スキルが上がった時用に俺がスキル上げに使った残りの素材が結構残っているから、それを送っておいてやろう」
と、こちらにも平等に申し出る。


「いや、それは悪いから…」
と、やはり同様に遠慮するタンジロウには、

「その代わり今度素材狩りにつきあってくれ。
剣士がいた方が殲滅早いから。ドロップはみんなで山分けでいい」
と、提案。

それなら…と、タンジロウも了承した。


こうしてまず調理アカデミーに行ってギユウが登録。
その後、薬学アカデミーでタンジロウが登録。
それぞれスキル上げに十分な素材を持って、街中の池の傍へ。

そこでギユウとタンジロウはそれぞれの合成のスキル上げ。
サビトは池に釣り糸を垂らして釣りのスキル上げをしながら、まったりと雑談を始めた。




──ゲーム内で追い払ってやるのはいいが…リアルでは大丈夫なのか?

ぽちゃん…と釣り糸を投げ入れながら、サビトは気になっていたあたりを聞いてみる。


炭治郎は現在は錆兎にとって同じ剣道道場に通う弟弟子で、その実力はよく知っているし、錆兎と同じく女性に暴力をふるうような輩を見て見ぬふりをするような男ではないということもよくわかっていた。

だから、もしギユウが暴力を振るわれていたりすれば、かばってやっているだろう。
なのに今もなおそれが続いているのは解せない。

そう思っていると、ギユウの口から、さすがにもう暴力はなくなって暴言だけで、学校内ではたいてい女子の友人が間に入ってくれるし、登校は時間を読まれないし、下校の時には急いで逃げるので大丈夫だ、と言う言葉が返ってきた。

「足だけは速いから」
と、画面上なのにややドヤっとした感じがわかってしまって、それが可愛らしくて笑ってしまう。
しかし、内容は笑い事ではないな、と、錆兎は顔を引き締めた。


「追いつかれたら危ないだろう?
中等部と高等部と、校舎は分かれているとはいえ、どうせ同じ学校なんだ。
炭治郎が迎えに行ったら抑止になるんじゃないか?」

と、錆兎としては名案のつもりだったのだが、ギユウに、

「以前、それで炭治郎に怪我をさせてしまったから…」
と俯かれ、

(ああ、なんでもないのに素手の相手を竹刀でどつくわけにはいかないし、炭治郎は剣道しかやってないしな…)
と、納得した。


しかし、その言葉で
「いえっ!でもそこはやっぱり俺が盾になるべきですよねっ!
あの頃は小学生でしたし、今なら…少なくとも義勇さんのことを逃がすことくらいはできますし、俺、明日から迎えに行きますっ!!」
と、使命感に燃えやすい長男魂に火がついてしまったようだ。

「いや、それはやめて欲しいっ!」
と、必死に止めるギユウ。

…失言だったか……と、後悔する錆兎。


「最近は手をあげられるわけじゃないし、怒鳴られるだけで怪我をするわけでもないからっ!
炭治郎が怪我をするのは困る!」

と、さらにそう言う義勇に、炭治郎が

「いえっ!それこそ俺に怪我を負わせれば、不死川さん、退学になって消えてくれるかもしれないじゃないですかっ!!

と言うところまで言い切った時点で、心情的には──その志や良しっ!──と思わなくもないが、それをやられたギユウは嫌だろうし、これは介入するしかないだろう、と、錆兎は腹をくくった。


本当は嫌だが……せっかく仲良くなって和やかな関係が築けているところに、怯えて緊張されるのは辛いが、背に腹は代えられない。

女性が傷つくくらいなら自らが身体を張ってでも阻止というのは、男の行動としては正しいとは思うが、炭治郎だって錆兎にとっては可愛い弟弟子で、怪我をさせたくはないし、それで守られる側のギユウが責任を感じるのも可哀そうだ。

なので二人に宣言した。

──俺が行ってやる
…と。


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