2歳年下に生まれた錆兎とぎゆうとの付き合いも10年を超えた。
最初の人生では自分よりも距離の近かった四天王の血筋の人間と錆兎達との関係も、2度目の転生からは鬼になった月哉を滅するために奔走する耀哉様がその協力者として手を回すため、親族よりも産屋敷に近くなってやや距離がおかれることになる。
唯一ぎゆうだけは転生前の記憶があり一緒に産屋敷に呼ばれるのと錆兎の恋人であることもあって相変わらず距離が近かったが、宇髄は別にそういう意味で錆兎と近くに居たいわけではないのでそれは問題がない。
というか、ぎゆうは必要な存在である。
宇髄が錆兎の秘密を共有するのにかかわる存在というのもあるが、それとは別に耀哉様にとっては月哉をおびき寄せられる人間であるということで重要な存在なのだ。
月哉はぎゆうに執着をしている。
錆兎という恋人が出来てもなおそれは変わらず、何度もぎゆうに接触してものにしようと画策をしてきているのだ。
天元のように第三者の視点から見れば、錆兎のような男が恋人な時点でぎゆうが他の奴になびくなんてありえない。
いい加減諦めて他をあたったほうが早い気がする。
だが月哉もまた非常に自信家で己が見えていない人間だったので、あるいは自分の方がぎゆうの近くにいたならば…と思っていたようだ。
…これみりゃあどう考えても無理だと思うけどなァ…
と、そんな月哉に宇髄は思う。
それでなくとも館内の警備は他の貴族などとは比べ物にならないほどに厳重な産屋敷邸。
その中で、主である耀哉様が休む寝殿から長めの渡殿でつなげられた北対に錆兎とぎゆうを住まわしていて、そこは他の人間が来ないようにと気遣われていた。
天元も夜中はもちろん、朝方も極力そちらに足を向けないようにしていたが、たまに、そう、たまにどうしても必要で朝方に北対を訪れようものなら、そこに漂う甘ったるい空気に胸やけしそうになる。
体力の違い…なのだろう。
だいたいぎゆうは横たわって半分寝ていて、錆兎はやや着崩れた着物姿でその横に座り込んでぎゆうの長めの黒髪に愛おし気に指を絡めたりしている。
普段きびきびとしていてやや硬質な印象の錆兎だが、そんな時は本当に空気が砂糖をまき散らしたように甘い。
そう言えば…ぎゆうと最初に出会った宴でも恋愛小説の主人公のようだったから、恋情がそこに入るととことん甘い男なようだ。
よくよく見れば錆兎が身に着けた単衣にはたいてい青のさしが入っているので、おそらくぎゆうのものなのだろう。
そう思って注意してみると、ぎゆうが引き被っている単衣には宍色のさしが入っているので、こちらはおそらく錆兎のもの。
情を交わしたあとは互いに互いの衣を身に着けているらしい。
それだけではない。
ぎゆうの枕元にはいつも趣向を凝らした美しい和紙に流麗な字で和歌が書かれた文。
別に天元が来ることを想定しての行動ではないはずなので、どうなっているんだ?と思う。
たまたまではないとするならば、かなりの頻度で身体を重ねて、しかもその都度、後朝の歌を送っているのか?
あまりに不思議すぎて、無粋とは思いつつも錆兎と二人きりの時にそのあたりについて聞いたなら
「人の一生など短いし、戦場に赴いたりして他人がいる時には出来ないのだから、そりゃあ抱ける時には毎晩抱くに決まっているだろう?
ぎゆうも武人としては体力があるとは言えないが、おなごのようにか弱いわけでもないからな。
で、抱くのは肉欲ではないとは言わないが、欲の発散だけというわけでもまたなし。
そうなると歌の一つくらい贈るのが誠意というものではないのか?」
と、言う。
いやいや、ないない。
一緒に住んで毎日のように抱いている相手に毎日歌を贈るとか、どんだけマメなんだよ、お前…と、天元は突っ込みをいれる。……一応心の中でだけ。
釣った魚に餌はやらないどころか、釣った魚に餌を大量にやりすぎて相手を動けなくさせるやつだ、これ…と思うと、にこにこと邪気がないように見える主人公様の笑顔が恐ろしい。
こんな強力な圧を振りまかれれば、並大抵のものは裸足で逃げていくだろう。
そんな重い愛でがんじがらめにされている中で、しかしぎゆうはそれがこの上なく幸せそうなので、まあ似合いの2人なのだろうと思う。
──死ですら俺達を分かつことは出来ないんだ
と、どちらも嬉しそうに言うので、もうこの二人の間に入り込もうとすること自体が無謀な挑戦でしかないと天元は思うのだった。
ところが…2回の転生、3度の人生でその無謀な挑戦をしやがった馬鹿者がいる。
最初の人生から何度も何度も挑戦しては退けられ続けている産屋敷月哉その人である。
まず錆兎と出会う以前にぎゆうを見初めた初対面で思いきり嫌われて、錆兎と出会ったあとのぎゆうに言い寄ろうとしてきっぱり振られている。
その後、諦めきれずに鬼になったのか、鬼になっても諦めきれなかったのかは知らないが、ぎゆうを連れ去ろうとして錆兎の剣技の前に敗退し、当のぎゆうには弓を射かけられた最初の人生。
そう思って注意してみると、ぎゆうが引き被っている単衣には宍色のさしが入っているので、こちらはおそらく錆兎のもの。
情を交わしたあとは互いに互いの衣を身に着けているらしい。
それだけではない。
ぎゆうの枕元にはいつも趣向を凝らした美しい和紙に流麗な字で和歌が書かれた文。
別に天元が来ることを想定しての行動ではないはずなので、どうなっているんだ?と思う。
たまたまではないとするならば、かなりの頻度で身体を重ねて、しかもその都度、後朝の歌を送っているのか?
あまりに不思議すぎて、無粋とは思いつつも錆兎と二人きりの時にそのあたりについて聞いたなら
「人の一生など短いし、戦場に赴いたりして他人がいる時には出来ないのだから、そりゃあ抱ける時には毎晩抱くに決まっているだろう?
ぎゆうも武人としては体力があるとは言えないが、おなごのようにか弱いわけでもないからな。
で、抱くのは肉欲ではないとは言わないが、欲の発散だけというわけでもまたなし。
そうなると歌の一つくらい贈るのが誠意というものではないのか?」
と、言う。
いやいや、ないない。
一緒に住んで毎日のように抱いている相手に毎日歌を贈るとか、どんだけマメなんだよ、お前…と、天元は突っ込みをいれる。……一応心の中でだけ。
釣った魚に餌はやらないどころか、釣った魚に餌を大量にやりすぎて相手を動けなくさせるやつだ、これ…と思うと、にこにこと邪気がないように見える主人公様の笑顔が恐ろしい。
こんな強力な圧を振りまかれれば、並大抵のものは裸足で逃げていくだろう。
そんな重い愛でがんじがらめにされている中で、しかしぎゆうはそれがこの上なく幸せそうなので、まあ似合いの2人なのだろうと思う。
──死ですら俺達を分かつことは出来ないんだ
と、どちらも嬉しそうに言うので、もうこの二人の間に入り込もうとすること自体が無謀な挑戦でしかないと天元は思うのだった。
ところが…2回の転生、3度の人生でその無謀な挑戦をしやがった馬鹿者がいる。
最初の人生から何度も何度も挑戦しては退けられ続けている産屋敷月哉その人である。
まず錆兎と出会う以前にぎゆうを見初めた初対面で思いきり嫌われて、錆兎と出会ったあとのぎゆうに言い寄ろうとしてきっぱり振られている。
その後、諦めきれずに鬼になったのか、鬼になっても諦めきれなかったのかは知らないが、ぎゆうを連れ去ろうとして錆兎の剣技の前に敗退し、当のぎゆうには弓を射かけられた最初の人生。
二度目の人生でも鬼の身体能力をもってしても、鬼退治の英雄の家系の血を色濃く継いでいるのか生まれ変わっても天才的な剣技を身に着けた錆兎には敵わず。
もちろんぎゆうの気持ちも微塵も月哉にむくことはなく、まっすぐ錆兎に向けられたままだ。
もちろんぎゆうの気持ちも微塵も月哉にむくことはなく、まっすぐ錆兎に向けられたままだ。
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