もちろん錆兎が語ることも嘘ではなく本当のことなのだが、実は女性を妻にするつもりはなくとも人生の中で恋情を持たず恋人を作らないというわけではないことを天元は知っている。
妻や恋人は守るもの…と言う錆兎が唯一自分が守る相手と公言しているぎゆう。
これが錆兎の恋人であることを知っているのは本人たちと渡辺の家族、そして耀哉様と天元くらいだろうか。
たしか卜部のぎゆうの側の家族も知らないはずだ。
あそこの親は一人息子のぎゆうが錆兎と親しいことからなんとかその縁で娘達の誰かを錆兎の嫁にしてもらえないかといつも画策している。
ああ、あともう一人いた。
産屋敷月哉…産屋敷の分家の息子で幼いぎゆうを見初めたが見事に避けられて、挙句の果てに何故か鬼になった輩だ。
それが発覚したのは、錆兎とぎゆうが渡辺家で愛を交わしたまま同じ衾で眠っているところにタイミング悪く忍び込んでしまった時らしい。
天元は月哉のことが大嫌いだったが、惚れた相手を拉致しようと忍び込んだら当の相手が行為の事後感満載で恋敵の腕の中で眠っていた挙句、目を覚ました恋敵に斬りつけられて惚れた相手に目を射抜かれて逃げかえらざるを得なくなったなんてことには正直同情する。
ともあれ、この最初の出会いの人生では、産屋敷が政敵に勝利してその地位を確固たるものにしたあとは都を離れて全国のあちこちを駆け回る錆兎達と都にとどまる耀哉様の連絡役として双方の間を行き来した天元は、2人と程よい距離を保ちながらも良い友人として人生を終えた。
問題はそのあとだ。
おそらく最初の人生から数十年ほど後、何故か記憶を持ったまま宇髄家に生を受けた天元は、同じく産屋敷家に生まれた耀哉様と出会う。
そして二人がこうして記憶を持って生まれたのならよもや?と思って渡辺と卜部の家をずっと気にしていたら、案の定、錆兎と義勇が記憶を持って生まれてきた。
もちろん周りはそんな前世を知らないので、名は違う名だったが…
全員記憶持ちなので前世よりも親しくなるのは早いというか、あっという間で、何故自分達がこうしてまた記憶を持って生を受けたのかと考えた時に、これはやはり産屋敷家の人間の短命の原因となった鬼の月哉を滅するためだろうと言う結論に落ち着いた。
その回の人生では錆兎も義勇も幼少時から産屋敷家に仕えて産屋敷家に泊まることも多く、結果的に天元も彼らと過ごす時間が前世に比べて格段に増えた。
前世では有名な武士の家に生まれて英才教育をされた成果だったのだろうと思っていた錆兎の剣の腕前は、実は圧倒的に持って生まれた才能のおかげなのだと知ったのもこの人生でのことである。
共に時を過ごすことが増えて、錆兎だけ特別な教育を受ける時間というものがそれほどなくても、天元は一度として剣術で錆兎に勝つことはできなかった。
それでもそれは不快なことではなく、むしろ優れたところのある人間が友人なことが誇らしい。
もちろん錆兎がそれを鼻にかけたりすることが一切ない嫌味のない男だったからだが。
錆兎のほうも人間の感情の機微とかを細やかに察することが苦手な武骨者だから宇髄はそのあたりがすごくて感心するといつも天元を立ててくれたし、裏表のない男だからそれが本心であることはよくわかったので、共にいる時間が多ければ多いほど、天元の錆兎に対する好感度はあがっていった。
耀哉様と錆兎。
それは天元が自分が絶対に敵わないというか、もう競うだけ無駄だと思っている数少ない人間ではあるが、完全な主従関係である耀哉様と違って錆兎は近しい。
耀哉様が帝のような存在なら、錆兎は一緒に戦う仲間内の大将だ。
同じ釜の飯を食いながらも自分達よりわずかに上。
しかしそのわずかが無くなることは絶対にない。
同年代の友人を持ってこなかった天元にとってそれはとても新鮮な、そして楽しい関係だった。
そんなわけで、耀哉様とはどれほど長い時間近い位置にいても節度と礼節を持ち続けていたが、錆兎とは馬鹿な話もする。
なんなら下の話まで。
錆兎とぎゆうが恋仲なのは世間一般にはあまり認められない話だったし、錆兎もぎゆうも自分が貶められるのは全く気にならないが相手がひどい言い方をされたり嫌な目にあうのは避けたいという人間だったので、自然と自身の恋愛については否定はしないが公には出来ないというスタンスを保っていた。
そんな中で天元がそれを話せる数少ない相手だったというのもあって、色々相談に乗ることも多くなる。
そんな風に錆兎は天元に対して壁を作らず、自分の弱みも当たり前に晒してくれたので、天元も彼には全面的な親愛と信頼を置いていた。
この転生後の2回目の人生では互いだけの時は互いの名で呼び合ったが、他の人間がいる時には当然2回目の人生でつけられた名で呼ばなければならないのがなかなか違和感があって面倒だと感じる。
ゆえに2度あることは3度あるのかもしれないということで、それぞれの家の者に、錆兎なら宍色の髪に藤色の目、義勇なら黒髪に青い目など、自身と同じ特徴の者が家系に生まれたなら、それぞれの名をつけるように、と、言い含めて人生を終えたので、案の定あった2回目の転生、つまり3度目の人生では互いに呼びなれた最初の人生での名で呼び合った。
それについて不思議に感じ始めたのだが、錆兎は卜部のぎゆうのことは恋人なので”ぎゆう”と名で呼ぶし、その時代時代の四天王の家系の人間もまた下の名で呼ぶのに、天元のことはいつも下の名ではなく名字の宇髄で呼ぶ。
そう、転生したわけではないその人生の間だけの付き合いの他の四天王の家系の人間は名で呼ぶのに、ずっと転生を続けてずっとそばにいても天元のことは宇髄と呼ぶのだ。
四天王の直系ではない…それだけで自分は錆兎にとって親しく下の名で呼ぶ存在ではないということなのだろうか…
もちろん錆兎のことだから下の名で呼ばれないのが寂しいとか、下の名で呼んで欲しいと言えば呼んでくれるのだろうが、それでは意味がない。
他よりも近しい者と錆兎自身が感じて自発的に呼ぶようになってくれないのなら意味がないのである。
そして二人がこうして記憶を持って生まれたのならよもや?と思って渡辺と卜部の家をずっと気にしていたら、案の定、錆兎と義勇が記憶を持って生まれてきた。
もちろん周りはそんな前世を知らないので、名は違う名だったが…
全員記憶持ちなので前世よりも親しくなるのは早いというか、あっという間で、何故自分達がこうしてまた記憶を持って生を受けたのかと考えた時に、これはやはり産屋敷家の人間の短命の原因となった鬼の月哉を滅するためだろうと言う結論に落ち着いた。
その回の人生では錆兎も義勇も幼少時から産屋敷家に仕えて産屋敷家に泊まることも多く、結果的に天元も彼らと過ごす時間が前世に比べて格段に増えた。
前世では有名な武士の家に生まれて英才教育をされた成果だったのだろうと思っていた錆兎の剣の腕前は、実は圧倒的に持って生まれた才能のおかげなのだと知ったのもこの人生でのことである。
共に時を過ごすことが増えて、錆兎だけ特別な教育を受ける時間というものがそれほどなくても、天元は一度として剣術で錆兎に勝つことはできなかった。
それでもそれは不快なことではなく、むしろ優れたところのある人間が友人なことが誇らしい。
もちろん錆兎がそれを鼻にかけたりすることが一切ない嫌味のない男だったからだが。
錆兎のほうも人間の感情の機微とかを細やかに察することが苦手な武骨者だから宇髄はそのあたりがすごくて感心するといつも天元を立ててくれたし、裏表のない男だからそれが本心であることはよくわかったので、共にいる時間が多ければ多いほど、天元の錆兎に対する好感度はあがっていった。
耀哉様と錆兎。
それは天元が自分が絶対に敵わないというか、もう競うだけ無駄だと思っている数少ない人間ではあるが、完全な主従関係である耀哉様と違って錆兎は近しい。
耀哉様が帝のような存在なら、錆兎は一緒に戦う仲間内の大将だ。
同じ釜の飯を食いながらも自分達よりわずかに上。
しかしそのわずかが無くなることは絶対にない。
同年代の友人を持ってこなかった天元にとってそれはとても新鮮な、そして楽しい関係だった。
そんなわけで、耀哉様とはどれほど長い時間近い位置にいても節度と礼節を持ち続けていたが、錆兎とは馬鹿な話もする。
なんなら下の話まで。
錆兎とぎゆうが恋仲なのは世間一般にはあまり認められない話だったし、錆兎もぎゆうも自分が貶められるのは全く気にならないが相手がひどい言い方をされたり嫌な目にあうのは避けたいという人間だったので、自然と自身の恋愛については否定はしないが公には出来ないというスタンスを保っていた。
そんな中で天元がそれを話せる数少ない相手だったというのもあって、色々相談に乗ることも多くなる。
そんな風に錆兎は天元に対して壁を作らず、自分の弱みも当たり前に晒してくれたので、天元も彼には全面的な親愛と信頼を置いていた。
この転生後の2回目の人生では互いだけの時は互いの名で呼び合ったが、他の人間がいる時には当然2回目の人生でつけられた名で呼ばなければならないのがなかなか違和感があって面倒だと感じる。
ゆえに2度あることは3度あるのかもしれないということで、それぞれの家の者に、錆兎なら宍色の髪に藤色の目、義勇なら黒髪に青い目など、自身と同じ特徴の者が家系に生まれたなら、それぞれの名をつけるように、と、言い含めて人生を終えたので、案の定あった2回目の転生、つまり3度目の人生では互いに呼びなれた最初の人生での名で呼び合った。
それについて不思議に感じ始めたのだが、錆兎は卜部のぎゆうのことは恋人なので”ぎゆう”と名で呼ぶし、その時代時代の四天王の家系の人間もまた下の名で呼ぶのに、天元のことはいつも下の名ではなく名字の宇髄で呼ぶ。
そう、転生したわけではないその人生の間だけの付き合いの他の四天王の家系の人間は名で呼ぶのに、ずっと転生を続けてずっとそばにいても天元のことは宇髄と呼ぶのだ。
四天王の直系ではない…それだけで自分は錆兎にとって親しく下の名で呼ぶ存在ではないということなのだろうか…
もちろん錆兎のことだから下の名で呼ばれないのが寂しいとか、下の名で呼んで欲しいと言えば呼んでくれるのだろうが、それでは意味がない。
他よりも近しい者と錆兎自身が感じて自発的に呼ぶようになってくれないのなら意味がないのである。
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