ツインズ!錆義_04_義勇視点-逆さまツインズ

そもそもが義勇とアオイの双子は容姿か性別、どちらかが逆だったなら平和だったのだと思う。

アオイが彼女よりは随分と柔らかめの義勇の髪だとか…どこか儚さを感じさせるいつも潤んでいるような大きな目をとても可愛らしいと羨ましがっているのは知っていた。

だが、義勇に言わせれば、彼女の癖のないしっかりした真っ直ぐな髪質とか意志の強さをうかがわせるようなキリッとした目元は、羨ましい限りである。

さらにこれは義勇達に限らずだが、世間一般のイメージからすると反対かもしれないが、概して女児より男児の方が健康面でも弱い。

義勇は特にこれが顕著で、同じ事をしてもアオイはピンピンしているのに義勇はすぐ熱を出すし、双子のくせに自分だけ喘息持ちで寒さに弱かったりもするし、最初は2人ともをアウトドアに連れだしていた父親も、次第に義勇の事を諦めてアオイだけ連れ歩くようになった。

キリッとシャープな顔立ちに抜群の運動神経と体力、勉強だって文系は義勇の方が若干得意ではあるが、理系は圧倒的にアオイの方が出来る。

アオイがいつも自分が義勇みたいだったら…と嘆くのと同様、義勇だって秘かに自分がアオイのようだったら…とは思っていた。

義勇が欲しかった全てを彼女は持っている。

彼女の悩みが重要でないとは言わないが、義勇の不足の方がどうしようもなく切実ではないだろうか

だって容姿の美醜と言う主観的なものと違い、健康面ははっきりと不可能な事を告げてくる。

アオイは可愛くしたければリボンをつける事も出来れば、大人になれば化粧で多少顔立ちを柔らかくする事はできるだろうが、義勇はアオイと同じ事をすれば熱が出て寝込む事になるし、寒い日や気圧が不安定な日は無理をすれば喘息が出る。

それは努力でどうなるものでもない。
だから諦めて今出来る範囲で生きていく術を模索した。

父親についていけないなら、母親から学ぶしかない。

アオイが父とジョギングやアウトドアを楽しんでいる間、ついていけない義勇と共に留守番をしている母親は、刺繍、レース編み、パッチワークなどなど、アオイがやりたがらない自身の趣味を喜んで教えてくれた。

紅茶だって幼少時から母親に仕込まれたおかげで誰よりも美味しく淹れられるようになったし、ジャムやソース作りも得意だ。

料理全般、炒め物や揚げ物など、ある程度スピーディーに作らないとならない物は苦手だが、ゆっくりことこと煮込む系は母親と同じ美味しい味を出せるようになってきた。

ちなみにアオイは義勇に出来ない事をたくさん出来る代わりに、ゆで卵を作ろうとして爆発させるレベルの料理音痴である。

それらの趣味は実はやってみれば意外に楽しかったが、家族以外に知られれば、からかわれかねない。

そう、アオイはいくら勉強やスポーツができてしっかりしていても別にほめられるだけだが、義勇の場合はマイナスなことを言われかねないのだ。

かといって貧弱に生まれついた事を嘆いたところで、何もでてきやしない。

小さな頃には体調の事があってあまり外遊びができなかったし、女の子のような趣味については色々話したりもできなかったのもあって、同年齢の男の子達との距離感がつかめず、同性の友人もほぼいない。

もっとも…何でも出来るアオイなら同性の友人に恵まれるのかと言えばそういうわけでもなくて、単に自分達が互いに一緒に居すぎるのかもしれないが…。

しかし諦めるしかなかった義勇と違ってアオイはまだ完全には捨てずに済んでいる。

諦めた、捨てたと言いつつ、ずっと叶わない初恋を引きずって、自分は可愛くないから…と言いつつ、可愛くなりたいとあがいている。

もっとも…表面上はそんな様子など毛ほども見せない鉄の女ではあるが…。


その日も可愛くなりたいと義勇の所に来てねだって着飾って天元に会いに行ったのだが、夕方になって背中まであった長い髪をばっさりと切って帰って来た。

淡々とおそらく嘘の理由を述べるアオイ。
だけど義勇にだけはわかる。

アオイ的にすごくショックな事があって落ち込んで落ち込んで発作的に髪を切ってしまったのだろう。

アオイは“可愛い”を捨てたと言い始めた頃から、人前では泣かない。泣けない。

でも泣ける人間よりもよほど傷つくし落ち込むのだ。


まあ、そんなときのアオイはたいてい立ち直るために義勇を巻き込むのは困りものであるのだが

今回はなんとせっかく髪を切ったのだから、互いの制服を交換して出かけようとか言い出した。

本当に我が妹ながら頭が痛い。
一応拒否してみるが、義勇が行きたがっていた店のパフェを奢るからと食い下がる。

ちなみにアオイは普段は金銭にはシビアな女だ。

お小遣いが入るとぬいぐるみに手芸用品にと消えて行ってしまう義勇と違って、しっかりと小遣い帳をつけ、必要な分以外は貯金をしている。

そんなアオイが奢るからとまで言うということは、かなり参っているとみた。

仕方ないと、そこで義勇は諦めた。
しっかりしていても妹は妹で、やっぱり可愛いし、落ち込んでいたら元気づけてやりたいのだ。

そう、決してパフェに釣られたわけではない。
釣られたわけではないのである。

こうして義勇はめでたく久々に女装姿で外出するはめになった。



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