ツインズ!錆義_03_アオイ視点-双子の約束

背中のあたりまであった髪をバッサリと切って、顎の線で揃えたボブにして帰宅。

まずリビングでそれを見た母親はさすがに驚いて

「どうしたの?その髪」
と、聞いてきたが

「ん~勉強の邪魔じゃない?
髪洗って乾かしたりとか手入れの時間がなければ、1時間近く多く勉強できるし。
トップキープして来年度は生徒会長目指したいの」

と、淡々とそう言えば、

「せっかく可愛い制服の学校入れたのに、全然女の子らしくしてくれないんだから…」
と、残念そうではあるが、ため息と共に諦めたようだ。

そう、口ではあんなことを言っているが、母はどうせアオイの容姿なんて気にしてはいないと思う。
可愛い格好をさせたければ義勇にさせれば良いと思っている節すら見受けられる。

過度の保護もない代わりに過度の干渉もない。
それがアオイと両親との距離感だ。

だから母親にはそう納得させると普通にリビングを抜けて、アオイは2階の自分の私室へと戻った。

が、そこには天元と会うアオイを心配したのだろう。
義勇が待っている。

男女の双子…と言っても、互いに男っぽさ女っぽさがやや欠ける傾向のある2人は、普通に互いの部屋を行き来しているし、アオイの方が義勇が不在の時に義勇の部屋に居たりする事もなくはないので、それに関してはたいして気にはならない。

だが、アオイの髪を見て血相を変えて

「アオイっ!!髪っ!!!
どうしたんだっ?!天元に何か言われたのかっ?!!」
などと言う義勇には正直困った。

アオイが義勇を愛しているように、義勇もアオイを愛している。
これが天元に振られたためだなんて知れた日には、大騒ぎだ。

「ん~、実はね、天元と分かれたあと、街歩いてたら後ろから声かけられてね。
制服可愛くて髪長かったから大人しい感じの子だと思ったみたいなんだけど、振り向いたらやっぱ良いって言われてすご~く腹立ったのよ。
だからそう見えないように切っちゃえって。
前も休みにでかけてて、そんな失礼なことあったし…。
制服で繁華街うろつく事なんて早々ないし、髪切っちゃえば私服の時は絡まれないかな~とか思ってね」

つらつらと天元とは無関係を装いながら兄の様子を秘かに伺う。
いつもポーカーフェイスが得意なアオイと違って、義勇は目が口ほどにモノを言うタイプなので、すぐわかる。

納得していない。

それなら…と、アオイは、突発事項に弱い義勇の性格を突く事にして、自分の勉強机の椅子に座っている義勇に駆け寄ると、その両腕を取って身を乗り出した。

「ね、せっかく髪切ったんだし、制服交換して出かけない?!
明日は開校記念日で休みだし、街で制服デートしよっ?!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねてそう言う妹に、義勇はぎょっとした顔で拒絶する。

「じょ、冗談っ!!
いくらアオイの頼みだからって、さすがにスカート履いて街中出る勇気はないぞっ!!
アオイが俺の服着るのは良いけど、逆はただの変態じゃないかっ!!」

と、このあたりで義勇の脳内からは天元の事が消えている。
しめしめ…と、内心ほくそ笑みながら、アオイはさらにたたみかけた。

「大丈夫よ!顔立ちは義勇の方が可愛いし、去年の文化祭の出し物用に買ったロングのウィッグあるから、それ被れば、もう完璧!」

そんな話を始めれば、アオイもだんだんそれが楽しい気分になってくる。
だって、義勇に自分の制服を着させたら絶対に可愛いっ。

そうだ、例の天元の級友の話も義勇に代わりに行ってもらったらどうだろう?
自分が会うと絶対に嫌な断り方をしてしまうし、そうしたら天元の顔を潰す事になる。

その点義勇なら可愛いし、自分よりはマシな断り方をしてくれるだろう。
そうだ!そうしようっ!!

それなら…話は持って行きやすい。

「あのね、義勇?
もし、明日制服デートしてくれるなら、私、今日の天元の話の内容教えてあげてもいいわ

義勇にとっては悪魔の囁き。
ピクリ…と、義勇の視線がアオイのそれと絡まる。

あと一息だ。

「そうね…義勇が行きたがってた評判のカフェでパフェおごるわ。
開店前から並ぶからちょっと早めに起きて…学校行くくらいの時間に家でなきゃだけど…」

「起きるっ!!」
と、そこで甘い物に目がない兄はあっさり落ちた。

「じゃ、約束ねっ」
と、義勇が色々と面倒な事に気づかないうちにと指切りをして、アオイは

「そういうことで。
もうすぐ晩御飯だし、着替えるから帰ってね」
と、話を打ち切った。

素直にそれに従って自室に戻る兄。

(…本当に…義勇ったら可愛い。
私達、男女逆だったらすごく上手く行ってたと思うのに……)

こうして兄を見送った自室。
ごまかし切った上に、今後の計画も立てられてホっとすると同時に色々がこみあげてくる。
そしてここでようやく1人きりになれた事に気づいて、アオイはやっと思い切り涙を流したのだ。

大丈夫、全ては今更、今更なんだと、自分で自分に言い聞かせながら



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