寮生はプリンセスがお好き8章_06_夜の密談1

まずは金狼と大学生2人組+マイク。
思いがけない食べ物の差し入れに、大学生組とアルフレッドが歓声をあげた。


そんな中で香は礼を言うためという風に近づいてきて

「ギル、あとで相談したいことがある的な?
ゴリプリには聞かせたくないから夜中に小屋の前まで来てもらってOK
そっちの小屋のブラザーは強そうだし、まあ何かあっても距離にして10mを戻る時間くらいはなんとかならね?」
と、深刻な顔をして小声で言ってくる。


それはそうなのだがこの状況でお姫さんからあまり目を離したくはないなとギルベルトが迷っていると、それも当然察していて、

「状況によっては王大人も色々協力してくれるかも?
もっと早く話すべきだったんだけど、話せる場所がなかったから」
と、畳み掛けてきた。

──ターゲットはアルフレッドかもね
と、以前の寮対抗イベントでの事件の時にフェリシアーノが言っていた言葉を思い出す。

お姫さんがいる以上、巻き込まれは避けたいが、その安全のためには情報は欲しい。
話は聞くだけは聞いておいた方がいいかもしれない。

「わかった。あとで寄る」
と、ギルベルトはそれを了承して、金狼寮&大学生組の小屋をあとにした。


次にCP二組+ボブの部屋に行って普通に礼を言われてそこを離れて、最後に銀竜組&幼馴染組の部屋へ。

もちろんここでも食料の追加は大歓迎だ。
幼馴染組の女性とお菓子を手にぴょんこぴょんこと飛び跳ねるフェリシアーノ。

可愛くて無邪気でお菓子が大好きでという表の顔の裏を知っているギルベルトはやや複雑な気分だが、まあいいと、自分の小屋に戻ろうとすると、

「ギルベルト兄ちゃんにお礼言ってくるね
と、ルークやもうひとりの女性に言いおいて、フェリシアーノはドアの外のギルベルトのところまでテテテっと駆け寄ってきた。

「あ~、お裾分けはお姫さんの提案だから
と、その気配に振り向いたギルベルトは、フェリシアーノの榛色の目が意味ありげな視線を向けてきていることに気づく。

何かあったか?」
と、声をひそめると、フェリシアーノは

うん今は話す時間ないかな
ギルベルト兄ちゃん、あとで来れる?
とこちらも声を潜めた。

まああちこちで色々あるものだ

「ん~今夜はすでに先約があるんだが……
と、香の話がどのくらいになるかわからないので悩んだが、ふと思いつく。

「フェリちゃん、あのな?」
「うん?」
「俺様、今夜、香から話がしたいって呼び出されてるのな。
上手くすれば王の協力を得る事ができるって話なんだが、フェリちゃんが奴を信用しても良いってことなら、乗っかるか?
香自身の人間性については俺様が保証するが

「乗るっ!混ぜてっ!!」

互いに仲間を求めているならまとめてしまえばいいそう思って提案すれば、ガシッと必死な形相で手を掴まれる。

「おっけぃ。じゃあ香のとこ行く時に呼びに来るわ」
と、ポンポンとフェリシアーノの頭を撫で、ギルベルトは一旦自分達の小屋へと戻っていった。



こうして自分達の小屋に入ると、毛布を敷いた上にサバイバルシートを被せた上にアーサーとアデルが寄り添うように眠っている。

ギルベルトのお姫さんが今どき珍しい清楚な愛らしさなのはもちろんだが、アデルもそんな感じで、向かい合って眠る二人の頭上にはタオルを巣のような形に巻いた中に鎮座する小鳥。

控えめに言ってその空間だけ楽園だし、眠っている図は天使だ。

モブースもそこから少し離れた部屋の隅ですでに寝ていた。


「あ~お姫さんも眠っちまったのか」
と、ギルベルトが苦笑すると、二人から少し離れた床に座ってナイフの手入れをしていたバッシュは

「あまりに色々あって疲れたのであろう。
一応護身や非常時対応は仕込んでいるアデルですら寝落ちたのである」
と、顔をあげて言う。

まあ、そうだろう。
クルーズ船から救命ボートに乗り換えて海をさすらうなんて事自体がとんでもない非常事態で、さらに孤島に漂着。

島の探索をしながらいつくるかわからない救助を待つなんて言う事態に陥っているのだから、普通に疲弊する。

ギルベルト自身も様々な事態に対応できるよう育てられているし、香もおそらくそうだ。
だが、そうじゃない人間の方が圧倒的に多いので、それらを二人でまとめろと言われると非常にキツイ。
今回、バッシュが同船していたのは、本当にありがたいと思う。

なので
「そう言えばギルは他とも知り合いのようであるが今回の諸々について、何か心当たりはあるか?」
と、言われて、隠しごとはしないでおこうとまず謝罪した。

「あ~まず謝っとく。
俺様は今、シャマシューク学園の寮長やってる」

「うむ。それは吾輩も知っている。
謝罪とは姫のことなら、それも理解している。
寮長であるカイザーが何を置いても優先している姫と言えば副寮長プリンセスでつまり姫、アルトが生物学上は男だと言うことであろう?」

驚いた事にギルベルトが説明するまでもなく、バッシュが当たり前のことのように言った。
驚いたのは別にアーサーが男だと言うことを知っていたことではない。

なにしろ傭兵を排出する会社のトップの跡取りだ。
全世界の富裕層の子息が集うシャマシューク学園のシステムを知っていても全く不思議ではない。

ただ、アーサーが少年だと知ってなお、大切にしているらしい妹と一緒に寝かせていることにギルベルトは驚いたのだ。

そんなギルベルトの驚きに
「吾輩はこう見えても人を見る目はそれなりにある。
シャマシュークのプリンセスは実質その座についている限りは男性ではないという事を知っているのもあるし、それ以上にアルトは性質的に姫で、おそらくアデルに同性の友人のような感情以上の意識を持っていないことはわかるのである。
逆に吾輩が知りたいのは、香とフェリの両名のことと、今回、クルーズ船の主催が何故我々をこの島へ誘導したのか、その原因に心当たりがないかということである」
と、確信をついた質問をしてくる。

さすがツヴィンクリだ。

「ああそのことなんだが……
と、最初から隠すつもりのないギルベルトは
このところ続く、おそらくアルフレッドをターゲットにした事件、
香がその護衛であること、
そしてそれと繋がっているのか無関係なのかはわからないが、どうやらシャマシューク学園の乗っ取りを企む輩が暗躍しているらしいということを打ち明けた。

フェリシアーノについては悩んだが、一応本人の許可が取れていないので口外はNGだろうと判断。
それでもただ可愛いだけのプリンセスではないということは気づかれているようなので、シャマシューク学園の創始者の血筋で、学園の乗っ取りについて色々調べているが、それは秘密にしているという形で伝えておいた。

「んでな、実はさっき菓子を配りに行った時に香から話があるって呼び出されてて、フェリちゃんもそれに加わりたいってことで、3人で会ってくる。
何かわかったらお前にも報告する。
何かあったらモブース起こして良いから。
ということで、これからまたちょっとお姫さん預けて大丈夫か?」

と、新たな依頼をバッシュは当然のように快諾してくれたので、ギルベルトはアーサーが眠っているうちにと、また小屋から外に出ていった。


ドアをきっちり閉めた小屋の中では音も遮られて聞こえないが、外に出るとあの、ウォォォオーーーンという気味の悪い音が聞こえてきて、ギルベルトでさえ少し陰鬱な気分になる。

早く必要な情報を仕入れるだけ仕入れて、可愛い可愛いお姫さんの寝顔を見て癒やされたい。

そんな事を考えながら、途中フェリシアーノを拾った上で香の小屋のドアをノックすると、香が顔を出した。

そしてギルベルトの隣のフェリシアーノに少し不思議そうな視線を向けるが、そこでギルベルトが

「フェリちゃんも仲間に入りたいって言うんだがかまわねえか?」
と確認を取ると、少し考え込んだものの

「あ~、らじゃっ。
そういうことね。了解っ」
と、何か納得したように頷いた。


こうして3人は中央の東屋へ。

「あ~とりあえずな、調べればわかることだし、もしかしたらお前ももう知ってるかもしれないけどな、フェリちゃんは養子に出てるけどシャマシューク学園の創始者の孫な。
で、今学園の乗っ取りを企んでる輩がいて、それについて調べてる。
……って、ここまでは話してもいいんだよな?」

と、ギルベルトは、いきなりフェリシアーノが参加していることについて香にはある程度の事情説明が必要だろうと、最低限と判断した分だけ説明をした上でフェリシアーノに確認を取る。

もちろんフェリシアーノとて全く何も話さずに香の方の込み入った事情に立ち入ることは出来ないという認識はあるので、それに頷いた。

香はというと、おそらくフェリシアーノについての情報はそれだけではないのだろうということは当然気づきながらも、こちらが信頼に値する情報を提供しない限りはおそらくそれ以上の話は引き出せないだろうと踏んだらしい。

「お~けぃ。
俺の方から話す的な感じでOK?」
とギルベルトに打診して、自分の側の事情をまず話始めた。

最初にアルフレッドの父親のこと。
大財閥の総帥の息子で、それが元で事故にみせかけて殺されていること。
その前後での王の推察。
さらにその父親の一人息子であるアルフレッドは本人が望むと望まないとに関わらず総帥が亡くなれば莫大な遺産の相続人の1人で、勘当された父親の件で総帥が遺産を遺さないと遺言を残しても、遺留分だけでかなりの金額になること。
それを潔しとせずに、おそらくアルフレッドの父親を殺した輩がアルフレッドの命を狙っていること。
そして先日の運動会でも色々と仕掛けられていたため、おそらく殺人者の手の者が学園内どころか寮内にもいるらしいこと。

淡々と語る香。

前回2回ほどあった、そうと認識はされていなかったが死人が出たりした寮対抗行事に関してはもしかしたらと思ってはいた。
が、運動会でまでそんなことがあったとは思っても見なかった。

「そう言えば昔、どこぞのパーティで暴漢に襲われてたアルフレッドを助けたことあったけどあれもそのせいか」
と、ギルベルトが思い出して言うと、

「あ~たぶん?
で、王大人からギルは信頼できるから俺の手に余るようならなんとか協力仰いでみろって言われてる感じ?」
と、そんな恐ろしいことを飄々と語る。

本当に。
王の財閥はお金だけじゃなく裏のつながりがすごくて、味方としては心強いかもしれないが、敵に回したら恐ろしい。

そんなところに目をつけられていたと思うと、ギルベルトですらその厄介さにため息を禁じえない。

そんな二人のやりとりに

「さすがギルベルト兄ちゃん。みんなにとって安心安全、絶大な信頼感だね」
とフェリシアーノがクスクスと笑っている。

「やめてくれ
と、それに本気で言うギルベルトだが、香まで

「ま、巻き込まれ大王とも言う」
と、にやにやと言葉を繋いだ。


もうここは放置しているとどんどん追い詰められていく気がして、ギルベルトは話題を変えることにして、香に

「で?話があるってのはその事情を聞かせるためか?
それって今じゃなくちゃいけなかったのか?
それとも何か他に急を要する事があったのか?」
と、矢継ぎ早に尋ねると、香の顔から笑みが消えた。

おそらく深刻な事態なのだろう。
眉間にシワが寄っている。

「香?」
と、黙り込んだ彼にギルベルトが声をかけると、少し考え込んでいるようだった香ははぁ~っと大きく息を吐き出したあと、

「本当に悪い。
俺は代々王大人の家の護衛を務める家の出で、物心ついた頃から色々訓練も受けていて、護衛としてはそれなりに優秀って言われてる人間だったわけなんだけど
今回のゴリプリの護衛はマジ長期だし、敵も手強いし、何故か本人も手強いし、俺もちょっと疲弊してきてて、1人だとありえないミスし始めてて、マジ無理的な感じで
情報全部流すし、なんなら王大人にも可能な限りギルに対して融通はかってもらうようにする。
だからなんとか手を貸してもらえね?」
と、ガバっと頭を下げてきた。

これが去年までなら小等部からわりあいと仲の良かった香の頼みだしと一にも二にもなく協力したところだが、今のギルベルトの最優先はお姫さんの身の安全だ。
できれば危険を自分から呼び込むことは避けたい。

と、悩むギルベルトだが、そこで横からフェリシアーノがまだ声変わり前の高く可愛らしい優しげな声で口をはさむ。

「受けたほうが良いと思うよ、ギルベルト兄ちゃん。
巻き込まれまいと思っても1年のプリンセス同士、絶対に巻き込まれるから
それなら王大人の協力を仰げた方がいいし。
その危険についてだって、情報がなく闇雲に警戒するよりは、事前情報があった方が用心だってしやすいでしょ」

と、ふんわりとした声音とは対象的に、実に冷静で現実的なフェリシアーノの提案に、自身の大切なものがかかっているために若干判断が揺れていたギルベルトはす~っと頭が冷えてきた。


そうだ。
香の提案を断ったからといってお姫さんが巻き込まれないわけではない。
なら、提案を受け入れる方がよりメリットになる。

そこで
「まあ、そうだな」
と、そのフェリシアーノの言葉を肯定すると、香が心底ホッとしたように大きく肩の力を抜いた。



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