今それを言い出すってことは、何かあるんだよな?」
と、協力をするという前提で先を促すと、香は
「悪い!俺がミスった!」
と、また頭を下げた。
と、それにギルベルトが聞くと、香は苦い顔で頷く。
「あ~…うん。
ゴリプリはそう思ってそう言っててチケットも王大人からってことでゴリプリに送られて来てた。
けど、俺が王大人に直接折返しで確認を取るのを怠ってた。
もし王大人が手配してたら絶対にこんなことになってないから、たぶん違う。
そもそもが王大人が乗ってたら俺よりすげえプロ護衛が超随行してるから、避難ってなった時に誰かしら寄越されてる感じ?
避難の時点ではめられた可能性に気づいて、俺も少し動揺してそのあたりの判断誤ったっつ~か…せいぜい救命ボートん中で何かされるくらいに思ってたんだけど…
考えてみりゃあゴリプリがターゲットって知らせたくねえわけだし?
そしたら全員が同じ危険にさらされてる中でたまたまゴリプリがって形にすんなら、ボートん中はありえねえなって」
「…で、ここに漂着して救助が来るまでに何か起きるってことか」
「…たぶん?」
「てことは普通に考えて、一緒に漂着した面々の中に敵の息のかかったやつが混じってるってことだよな?
相手に検討は?」
「全然。
今だから言うけど、本当はギルに言われるまで銀竜プリをちょっと疑ってた。
可愛い可愛いプリで通してるわりに、たまにすげえ冷めた目してるから」
と、香が彼にしては珍しくちょっと困ったような気まずそうな顔をして言う言葉に、ギルベルトはプハッと小さく吹き出した。
言われたフェリシアーノも別に気を悪くする風はなく、普段細く笑みの形を作っている榛色の瞳を少し丸く見開いて
「すごい観察眼だね。さすが護衛一族。
でも気づく人間もいるなら、俺もさらに気をつけないと…」
と、すぐまた笑顔をはりつける。
それから、
「敵…だけど、俺、たぶんわかってるよ」
と、続けたフェリシアーノの意外な言葉に、今度は香とギルベルトが目を丸くした。
「「どいつ??」」
と声を揃える二人に、フェリシアーノはニッコリと天使の微笑。
「えっとね…二組CPがいるじゃない?
そのうちの一組の方のブルネットの女の子。
サラ…だっけ。
彼女はたぶんここにいる全員の情報を持ってる。
それでいてそれを言わずにいるってことは、そういうことだよね?」
「へ?なんでそんなことわかんの?」
と、香が言う。
高校生だったとしても一応香は護衛のプロだ。
その自分が気づかなかったのに…というのがあったようだが、フェリシアーノはそんな香の心のうちを読み取ったように
「気づいたきっかけは、みんなが居る時の行動じゃないから」
と、前置きをした上で、人差し指を顎にやって、実はね…と、話しだした。
「彼女、サラはね、”俺が”男だって知ってた」
「へ?」
「俺は完璧な”プリンセス”だし、普通に気づかれたことってないんだけどね。
現に他は全員、俺とアーサーを女の子だと思ってるでしょ?」
コテンと小首をかしげて微笑む様は確かにどこからどう見ても愛らしい少女だ。
そもそもが普通は男がドレスを着ているとは思わないし、声変わり前で高い声も合わさって、フェリシアーノを男かも…と思う人間はいないと思う。
バッシュは確かにアーサーが少年だと気づいていたが、それはギルベルトがシャマシューク学園の生徒だということ、シャマシューク学園のカイザーとプリンセスの制度を知っているという前提で、そうでなければ彼もまた気づかなかっただろう。
そんなことを考えている間もフェリシアーノの話は続いていく。
「もちろん、なかにはとんでもなく勘のいい人間がいて気づくという可能性もないとは言えないけど、そうだとしたら今度はなんでドレス着てるのかとか聞くでしょ?
でも彼女は知らんぷりしてるんだ。
”俺が男だと知っていて素知らぬふりをしている”」
そう語るフェリシアーノは笑顔だが、普段の表の顔ではなく、どこか狡猾な”裏の顔”をしている。
「…なんでそれわかった的な?」
フェリシアーノが可愛いだけのプリンセスではないと薄々気づいていた香だがその変化に少し緊張の色を見せつつ、それでもおそるおそる疑問を口にした。
「えっとね。生理用品」
と、それに返ってきた答えに男二人
「「はあ??」」
と、一瞬呆けて、直後、ギルベルトは少し顔を赤くする。
そんな二人の反応に構わずフェリシアーノはニコニコと
「これは秘密だよ?アンが可哀想だからね?」
と、シ~ッとでも言うように唇に指を当てて言い、また出てきた知らない名前に戸惑いながらも二人が頷くと、話を続けた。
「実はね、解散後に俺と同室の幼馴染3人組の女の子のアンがコソコソっとね、俺だけを少し離れた所に呼んで、生理用品を持ってないかって聞いてきたんだ。
急になっちゃったって言って。
で、サラもその時に近くにいたのね。
でも無反応で…。
それで俺が『一応持ってきてるからあげるよ』って言ったら、すごい顔で振り向いたんだ。
だから…『どうしたの?』って俺が聞いたら、すごく焦っててね。
俺の方も彼女を怪しい…って思ったって気づかれたくなかったから、素知らぬ顔で『もしかしてサラちゃんも困ってた?少し分ける?』って聞いたら首を横に振って『ううん。単に準備が良いなって思って』ってごまかしてたけど。
アンの方は『あたしも普段は少しは持ち歩いてるんだけど、今回は本当にうっかりしてて助かっちゃった』って言ってたし、持ち歩かない子もいるけど念の為生理用品持ち歩くのって女の子からしたらぎょっとするほどのことじゃないんだよね」
フフッと笑うフェリシアーノ。
だが、ギルベルトは問いたい。
女の子なら驚くほどじゃない。
驚くほどのことじゃないのはわかるが、何故”男の”フェリシアーノがそれを持ち歩いている?!
と、もう視線で思い切り問いかけていたのだろう。
フェリシアーノは当たり前のことのように
「えっとね、ナプキンて血を吸収するアイテムだからね。
急な怪我とかの対応にすごくお役立ちなんだよ。
外で”女の子”でいる場合、あまり大げさな救急セットを持ってると色々怪しまれることもあるけど、ナプキンなら気にされないから」
と付け加えた。
「すげえ…うちのゴリプリにも見習わせたい!」
「…………」
1年組それぞれの寮長の反応も気にすることなく、フェリシアーノはニコニコとしている。
「でも相手が俺の事を知ってるとか、それで今回の事を仕組んだ側の人間だっていう証拠はないからね。
だからそういう相手だってことで用心しないとだけど、ルークはほら、そういうのきっと顔にでちゃうし、向いてないから。
ということでね、俺、それをギルベルト兄ちゃんに報告したくてさっきあとでって言ったんだよ」
「なるほどな…。
男の方もグルかまではわからないが、少なくとも女の方は要注意ってことか…」
とりあえず…ギルベルトの大切な大切なお姫さんはツヴィンクリ兄妹にサンドされているし寮生であるモブースもいるからCPの方とそれほど接点はできないだろうし、全体としての巻き込まれさえ気をつければなんとかなりそうだ。
最悪自分が3人から距離を取って、全体の仕切りの一環として何かあれば香達のカバーに入る形か……
と、そんな事を考えていると、フェリシアーノも立ち位置を考えていたらしい。
「俺は…ね、表では動かず情報収集に徹するね。
力仕事は向かないし。
ギルベルト兄ちゃんはツヴィンクリ兄と一緒に全体の仕切りをしつつ、何も知らないフリで全員平等に気にかけているようにして、さりげなくフォローかな。
銀狼寮生3人組もいるし大丈夫だとは思うけど、個人的に何か手が必要なら、俺がルークに俺は幼馴染3人組と仲良しになったし一緒にいてもらうから1年の手助けしてあげてってお願いするよ。
危険が全くないとは言えないけど、ルークは逆に全く何も知らないから、返って安全だと思うし」
一応自寮のカイザーに情はあるらしく少し悩みつつも、フェリシアーノはそう申し出る。
「謝謝。
この一件が片付いたら、王大人に今回のことを報告だし、その時にフェリとギルの尽力については絶対に言って、直接会って今回の礼に色々必要な協力してもらえるように繋ぎをつけるから。
今回だけマジよろ」
と、最後に香がそう両手を合わせて礼を述べた…その時である。
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