寮生はプリンセスがお好き8章_05_野営地

2人組が進み始めた方向は、ギルベルト達が進んでいた方向と違い、かろうじて道がある。

もちろん森の中を進む事は変わりなく、薄暗くどこか気味の悪いのは一緒だが


「ここ!ちょっと入りにくいけどっ」

と、ギルベルト達がドーム状の建造物を見つけたときと同じように、木々の切れ間にある一方が50mほどの正方形の土地

なのはいいが……

「ちょっ、これやばくねっ?!入ったらまずい系じゃねっ?!」
とまず香がツッコミを入れた。

それもそのはず。
その土地は四方にグルっと囲むように荒縄で囲まれている。
そうしてその荒縄には一定間隔で何やら御札がぶら下がっていた。

そしてその土地の中央には確かに屋根はあるが壁はない東屋のようなものが見える。
そしてその四方にこちらはきちんと壁のある小屋が4つ。

「なんか封じ込めてる系じゃねっ?荒縄に御札って
と、バッと前に走り出て両手を広げる香。

それに
「え~?俺ら入った時はなんもなかったけど?」
と、発見者の大学生2人組は顔を見合わせる。

一同は足を止め、少しざわついていたが、

「吾輩が一応様子をみてくるのである」
と、そこでバッシュが縄をまたぎ越して、中へと入っていった。


そうして待っている間に風が吹き、ウォォォオーーーンとまた例の音が聞こえてくる。

それに一同は悲鳴をあげたが、ギルベルト達はその音の正体を知っているので、ここがあの建造物と意外に近い位置にあるのだな、と、内心思いながら、音の正体を皆に説明した。

みな納得。
それでも女性陣の一部は怯えて泣いていた。

ギルベルト達は王に招待されたアルに招待されて、ギルベルトなどむしろ渋々来たわけなのだが、大多数は普通より少しだけ裕福な家で親に頼み込んで費用をだしてもらったり、なかには自分達のお金で来ている大学生もいた。

ここをみつけた2人組は、2人で一緒にクルーズ船に乗ってその様子を動画に撮ろうと、バイトで費用を稼いだクチらしい。

そんな諸々を自ら語る彼らの話を聞きながら待っていると、やがてバッシュが戻ってきた。


「中央の東屋の隣には井戸があるし、ずいぶんと時は経っているようだが火を炊いたあともある。
内部に血痕その他は見当たらず、危険はないように思うのである」

そう言うバッシュの言葉に、香はふと思いついたように、じゃあと口を開いた。

「逆な感じかも?
この中が封印に守られた安全地帯って可能性もある的な?」


ああ、それはあるかもしれないと、ギルベルトも思った。
前方からは別に嫌な感じはしない。

「どちらにしてもまた雨降るかも知れねえし、冷えてきてるし、お姫さんに野宿させるわけにもいかねえからな。
救助あるとしても昼間だろうし、日中は誰か目につきやすい海岸で待機ってことで、夜はここで明かすのがいいんじゃないか」
と、最終的にそう言うと、アーサーを抱き上げてバッシュに続いて荒縄をまたいで中に入る。

「ま、それがいい感じ」
と、香もそのあとを追うと、

「薄暗い森にいるよりはいいんだぞ」
と、アルフレッドもそれに続く。

もちろんルークとフェリシアーノ、それにアデルもそれに続いて、そこまで中にはいってしまうと他もぞろぞろとなし崩し的に続いていくが、最後に二人残った大学生らしき青年が二人、

「ごめん本当にそれが外部から守るものなら良いけどそうじゃなかった場合にやっぱり怖いから、俺らは海岸に戻ってシートかぶって寝るわ」
と、持ってきたシートを抱えて元の道を戻っていった。


ぞわりと嫌な悪寒を感じた気がしたが、何に対してなのか自分でもわからないものを他人に説明することなど出来ず、ギルベルトは黙ってそれを見送り、皆がいったん集まった東屋の石造りのベンチへと走り寄る。

そこでそれぞれ軽く見てきた物、集めた物などを確認しあった。

まずギルベルトとアーサーの銀狼寮組、銀竜寮組、金狼寮組、そしてバッシュとアデルの8人は昼間に発見したドーム型の建造物とその中に描かれていた絵の写真を見せた上で、途中で拾ったリンゴのような果物を配布する。

一応途中で鳥がつついていたのを見ていたので食べられるだろうと判断したバッシュが口にしてみて問題なかったものだ。

ここを発見した大学生2人組はここを発見したあと、急いで他に知らせようと海岸に戻ったとのことで他に成果はなし。

もう一組は男2女1の幼馴染の3人組で、行動は海岸に戻った大学生二人組としていたらしいが、発見したのはものすごい数の蝶が集まっている塚だとか。

「あれだけいると綺麗な蝶も少し気持ち悪かったけどな」
と、1人がスマホに撮った写真をみせてくれた。

あとの2人は男女のCP2組で、彼らはずっと海岸に居たという。

まあそれでも1週間ほどと限定されれば、最低限の水と食料は確保出来たようだ。

皆ホッとしたところで4つある小屋の部屋割にと話は移っていく。

現在20名。
小屋は4つなので普通に分ければ5名一部屋だ。

「俺はお姫さんを守る義務があるから、絶対に同じ小屋で」
と、強固にギルベルトが主張すれば、ルークはフェリと、バッシュはアデルと離れるわけにはいかないと同じく主張する。

「お、俺だってこんな時なんだから彼女を守るんだぞっ!」
と、アルも主張し、香はため息一つ。

「俺は一応こんなのでも護衛しないと行けない立場なんで?
同じ部屋で
と、小さく片手をあげた。

そこで普段は全てお兄様に任せるアデルが
「あの出来ればわたくしアルトさんと一緒が良いです、お兄様。
ピチュのお世話もありますし、お話も合うので
と、兄をせっつく。
ちなみにピチュというのはアーサーとアデルが拾った小鳥の名だ。

「ふむ吾輩も得意客のバイルシュミット家の嫡男の護衛はしたいところである。
なので、吾輩とアデルとギルベルトと姫が同じ小屋でということで」
と、兄は兄で別の思うところがあったらしく、そう主張する。

そこでさらにフェリシアーノまでアーサーと一緒が良いと言い出し、揉める部屋割。

結局それではギルベルトとアーサーが同室者を決めるということになった。

ギルベルトは当然アーサーの希望を優先するわけなのだが、もちろんそれがアーサーの希望だとは言わない。
自分の希望としてバッシュ達を選んだ。

「ちょっと今後について色々話し合いたいしな」
と、もっともらしい理由も添える。


「今後についてってことなら香でもいいんじゃないのかい?!」
と、ギルベルトの言葉に諦めきれずに不満を漏らすアルだが、

「香は長い付き合いで色々出来ること出来ないことわかってるからな。
バッシュとはそのあたりも含めて確認が必要だ。
それが最終的にお姫さんの安全にもつながるんだから諦めろ」
と、アーサーの安全を全面に出されて、不満げに口を尖らせつつもそれでようやく諦めた。

全員が連れと一緒にというのは無理なので、そこは寮長権限で銀狼寮生3人組が分かれて4人部屋に入るということで、最終的には

銀狼組とツヴィンクリ兄妹+モブース、銀竜組と幼馴染3人組、金狼と大学生2人+マイク、そしてCP二組+ボブに分かれて小屋に泊まることになる。


木のドアを開けて室内に入ると、中は8畳間くらいの広さで、雨風はしのげるが本当にそれだけのものだ。
窓はあるがガラスはなく木戸になっていて、閉めてしまえばないも同じである。
だが、開けていて毒のある虫などが入ってきても困るので閉めておくことにした。

その他には本当になにもないが、唯一、少し埃を被ってはいるが毛布が2枚ある。

「毛布は明日洗って干すとして、今日はお姫さんは1枚の毛布の上にサバイバルシートを敷いて敷布にしてカバンを枕に俺のコートと俺の上着を掛布に寝てもらう感じかな。
モブースはそのへんで自分のカバン枕に自分の上着を被って寝ろ」
と、それを確認してギルベルトが言うと、バッシュも

「アデルも姫と同じにするのである」
と、頷いて言う。

それに対して
「ギルは?」
「お兄様はお休みにならないのですか?」
と、アーサーとアデルがそれぞれ口を揃えて言うが、ギルベルトとバッシュは顔を見合わせて、互いに視線で何かを確認すると、最終的にギルベルトが
「俺達は今後について話を詰めないとだから。
寝るのは朝になって皆に色々指示してからになるかもしれねえし、先に寝ててくれ。
寝てる間に何かやっておいてもらうことになるかもしれねえしな」
と、言うと、ギルベルトやバッシュが休んでいる間には何か頼まれるのだと思ってアーサーもアデルも納得した。

その後、食事の支度が出来るまでと、アデルとアーサーは拾った小鳥の包帯を替えたり、みんなで分けた今日拾った果物を少し小鳥にやったりと、小鳥の世話に勤しみながらおしゃべりをしている。

モブースはそんな二人の雑用をしながらも、時折ギルベルトの方にも御用聞きに行き、ギルベルトとバッシュが共にカバンやリュックの中から普通のシートを取り出し、そこに残りの果物を置いたあと、こそりと持参したものを互いに確認させるように並べていくのを見て、

「これも良ければ使って下さい。
カイザーの行動を見て俺も少しばかり食料確保してきました」
と、自分が確保した食料を並べた。

「お、気が利くな。さすが銀狼寮生」
と、それにギルベルトは笑みを浮かべてポンポンと彼の肩を叩く。



「やはり色々準備しているのであるな」
と、バッシュがギルベルト側の物を確認するように視線を向けると、ギルベルトも同様に確認しながら

「ああ、俺様はお姫さんだけはどれだけえげつない事をしても絶対に守るつもりだから、全部の手の内を明かすのは同等の準備と能力があって協力しあえる相手じゃねえとな」
と言うと、バッシュは

「同感だな。
吾輩は優先順位はアデルが最優先だが、協力体制を取る前提でアデルのついでに出来るものなら、そちらの姫を可能な限り保護することはやぶさかではない。
もちろん逆も約束をしてもらわなければであるが
と、頷いた。

ギルベルトももとよりそのつもりなのでそれに頷いて、携帯食料や医薬品など、全て一度一つにした上で二等分して持つことにした。

その他、船から避難する前にギルベルトがこっそりとバイキングの料理の中から失敬してきた大量の焼き菓子やゴマ団子、春巻きなどの入ったビニール袋を取り出すと、バッシュは

「あの状況でギルも部下も判断が早いな」
と、目を丸くする。


とりあえず互いに携帯食料のたぐいは日持ちするからとそれぞれしまって、果物とバイキングの菓子類で食事にするかとアーサーたちを呼ぶと、案の定、

「これフェリ達にもあげちゃだめか?」
と、アーサーが言い出すので、ギルベルトはそれを持参しているビニールに小分けにして、他の3つの小屋に配りに行くことにした。


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