寮生はプリンセスがお好き8章_09_皇帝陛下と三銃士

遠くで我らがカイザーが剣もとい大振りナイフを構えている。
欲を言えばもう少し大きめの武器が良かったが、それでもそのナイフを脳内で剣変換できるのがオタクである。

俺らのカイザー、カッコいい!超カッコいい!!

モブース達は海岸方面から来た化け物に対峙する自寮の寮長ギルベルトにうっとりとした視線を向けていた。


彼らが大好きなアニメ、【エルサイア・オデッセイ】の主人公ローランにそっくりな銀狼寮のカイザーは彼らの誇りであり推しである。

ローランがいついかなる時もカッコいいのと同様、カイザー・ギルベルトもいついかなる時もカッコいい。

そう、校内だろうと寮内だろうと、もう容赦なくカッコいいわけなのだが、こうして武器を持って敵と対峙している時のカッコよさと来たら、もう世界の至宝レベルだ。

その服装がピシッと着こなしたタキシードだというのも、そのカッコよさに磨きをかけている。

どうやら結界となっている荒縄の内側には入ってこられないようである敵を前に、自身の家の御用達の業者であるツヴィングリの人間を右、金狼の寮長を左に従えて、二人に何やら指示をしている姿は、神々しいほどだ。


そこから数メートル離れた中央の東屋に待機中のメンバーの中には【エルサイア・オデッセイ】のヒロインであるアリア似の愛らしいドレス姿の自寮のプリンセスがいて、銀竜のプリンセスと抱き合って震えながらも、心配そうな視線をカイザーに送っている。

そしてその手にはタオルに包んだ小鳥。
それは最初の探索の途中でプリンセスが怪我をして弱っているところを見つけて保護して手当をしたもので片翼に包帯が巻かれていた

自分もこんな離島に漂着してどうなるかわからない状況で他の動物まで気にかけて手を差し伸べる優しいところは本当にアリアそのもので、ローランとアリアが揃って事故で見知らぬ島に漂着というシチュエーションに、モブース達は不謹慎だが胸が高鳴ってしまう。

普段はよく3人して推しCPの家の壁になりたいなどと話していたが、こうしてそんなピンチに寄り添う二人を堪能できることを考えると、人間に生まれて良かったとつくづく思った。

自分達はモブという立場を愛しているので表舞台の中央にあがりたいとは思わないが、それでも推しに多少なりとも認識されて、モブとして舞台の端っこにいるような存在になれたとしたら理想的である。

そう思ってせっせと一般寮生として、この危機に色々忙しいカイザーとプリンセスのために動いていたら、なんともったいなくもありがたくも、カイザーから【白モブ三銃士】という名前を拝命してしまった。

もちろんそれはカイザーの方から自分達をモブと言ったわけではなく、自分達がモブという立場が好きなのだと主張した結果の命名である。

そこでそんな素敵な名を下さったカイザーにはどこまでもついていこうと3人で誓いあった。


化け物は結局日が昇る直前まで居て、太陽の光を避けるように森の中に消えていったので、それまで全員その場に待機していたが、化け物が消えてカイザーと金狼の寮長の香、それにツヴィングリの人間であるバッシュ以外は休息を取るために小屋に戻る。

モブース達もその予定だったが、今回の一連を全て余さず見ておきたいということで3人話し合って、プリンセスと同じ小屋のモブースはそのまま小屋に、マイクは雑用係として使ってくれと言ってカイザーの元へ、そしてボブはいまのうちに休んであとで記録係を交代という形を取ることにした。


モブースの小屋はカイザーとバッシュがいないため、モブースの他はお姫様二人だ。
招集がかかるまで眠っていたのもあって眠くないらしく、小鳥を挟んでおしゃべりに興じている。

どうやらお姫様達が拾った小鳥は卵が生まれそうだということで、少しでも栄養をと果物を与えながら、ここを出る時に連れていけないかなどと相談していた。

そう言えば【エルサイア・オデッセイ】でもヒロインのアリアは小鳥を連れていて、彼女が攫われた時にその小鳥が主人公ローランに拉致されている場所を教えたりなどという展開が多々ある。

やっぱりヒロインには小鳥が似合うなぁこの小鳥がカイザーとプリンセスの間を行き来するとか、すごくローランとアリアみたいで良いなぁなどとモブースがしみじみ思っていると、数分後、小屋にカイザーが戻ってきた。

2時間仮眠を取る。6時になったら起こしてくれ。
そうしたら今度はバッシュが2時間仮眠。
8時になったらバッシュがまた見張り。
俺と香が蝶塚発見した幼馴染3人組の男1人を連れて海岸と蝶塚の様子見に行く」

当たり前に固い床に寝転ぼうとするカイザーの腕を両手で持って、プリンセスが自分が寝ていたシートに誘導し、そこにふわりと座り込むとポンポン!と自分の膝を叩いてにっこりと見上げる。

あ~~!!これは【エルサイア・オデッセイ】で同じような場面を見たことがあるぞ!!
と、それを見てモブースは内心興奮気味に思った。

リアルローラン&アリアを目の当たりにして、二人にはあとで絵にして見せてやろうと思いつつも心のアルバムにその姿を貼り付ける。



どこか得意げに自らの膝に誘うプリンセス。
それにカイザーは一瞬目を丸くすると、次にくすっと笑って頭をそのふんわりと広がるワンピースに包まれた膝の上に乗せた。
そのカイザーの銀色の髪を白く小さな手が梳くように撫でる。

見つめ合う目と目が甘く優しい。

こんな尊いものを見せてもらえるのなら、死なない限りは多少のトラブルがあろうと最高の旅行だとモブースは心の底から幸せを噛み締めた。




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