誰がこれを作ったのか…また、化け物を倒す術を描いた建造物が何故あんな所にあるのか…
色々謎が多い。
一応、あの場所は海からは見えないため、救助を待つなら海岸の方が良いのだが、化け物のことを考えると危険すぎる。
なので、ブルーシートを広げて海岸側の木々にくくりつけて、そこにビニールに入れた居場所のメモを貼っておこうと言うことになった。
荒縄と御札に囲まれた拠点に来た化け物が日の出と共に去ったということは、化け物も昼間は出ないのかもしれない。
なのでギルベルトは殺された大学生の状況を確認しがてらその作業をしに行くことにする。
ということで、同行者をどうするかだが……
正直、場所的には安全なのかもしれないが、今回の事故の黒幕側らしき人間が居る中に、自分の大切なプリンセスを残していって巻き込まれさせるのは絶対に嫌だ。
だから万が一化け物が日中もうろつく可能性が絶対にないとは言い切れなくとも、アーサーは連れて行くことにする。
だが素人だらけの中で敵がどんな手を使って来るかもわからない中、命を狙われているアルフレッドの警護が香だけでは大変だろう。
だからバッシュにも残ってもらう。
一応バッシュには香と引き合わせてアルフレッドのことについて説明し、こちらにももし無事戻れたら王の方からツヴィングリに色々と融通する旨を約束して協力は求めてあるので、ある程度は安心だ。
逆に探索に行く自分の側だが……
白モブ三銃士のうち1人は連絡係として拠点に置いていって、二人は連れて行く。
腐っても銀狼寮の寮生なのでプリンセスに対する忠誠心は高いし、自分に何かあっても死ぬ気で守ってくれるだろう。
と、しかし気持ちはあっても一般人なので、あとは銀竜組を連れて行くことにした。
ルークは腐ってもカイザーなのでそこそこ戦えるし、フェリシアーノは物理的な力はなくても危機管理に関してはおそらくギルベルト以上だ。
ということで、結局、銀狼、銀竜の正副寮長と、白モブ三銃士のうちモブースとマイク、それに帰りに蝶塚も確認しようと、発見して位置を知っている幼馴染組の1人レンにも声をかけて、計7名で出発することにする。
先頭をギルベルトが、後ろをルークが守りながら何度か往復するうち出来た獣道を海岸へと歩き出した。
薄暗い森の中、少し離れたところをふわりふわりと舞う蝶が木漏れ日に反射する。
化け物が出るのが夜なのは、夜はこれらの蝶がいないからなのか…
あるいは単にギルベルト達が夜に蝶を認識できないからなのか…
どちらにしてもあの壁画の通りなら、この蝶達が化け物から守ってくれるのだろう。
…とは思うのだが、こんな気味の悪い場所で見るせいだろうか、そんな蝶ですら薄気味悪く感じる。
途中、昨日アルフレッドがぶつかった木と同じ木を見つけて幹を揺らして落ちてきた果物を拾った。
もし化け物が日中でもうろついているなら、拠点の外にはなかなか出られなくなるし、ついでがあるうちに食料は少しでも多く確保したほうがいい。
そうして地面に落ちる前にみんなで拾ったものは袋に詰め、落ちて割れた物は放置しているとそれには甘い蜜につられたらしい蝶がひらりひらりと寄ってきて群がった。
正直蝶の群れと言うのは気持ち悪い。
皆同じ感想だったらしく、そこを逃げるようにあとにして海岸へと急いだ。
そうして薄暗い森を突っ切って海岸へ出る。
白い砂浜と青い海はこんな時でなければ心浮き立つものだったのだろうが、それでなくとも爆発した救命ボートの破片とそのボートに乗っていた船員の遺体の一部が散乱する中、さらに皆がいる拠点の方へと逃げようとしたのだろう。
森の方へむかって赤く染まる砂と食い散らかされたらしき遺体の一部が転がっていて、さすがにギルベルトも顔が引きつった。
これは絶対に目に入れて大切なプリンセスのトラウマを作るわけには行かない。
──ルークとマイクはこの位置で皆を守っておいてくれ。モブースは俺と来い!
ギルベルトはそう指示をして、モブースと二人で海岸へ。
本当は色々丁寧に調べた方がいいのかもしれないが、さすがにこの場は精神衛生上よろしくなさそうすぎる。
そう判断。
──助けに来た人間にわかる目印だけ作るぞ!
と、血のついたブルーシートを海水で軽く洗ってしっかりと拭くと、それに油性ペンで大きく【SOS,森にいる。ギルベルト】と書いた上で広げて木にしっかりと縛り付けておいた。
そうしてやるべきことをやって、皆のいる場所へ戻る。
「白モブ三銃士1号、あんな状態の場所ですごく冷静だったな。
実は常人からするとありえないほどに肝が座ってるのか…」
そう、ギルベルトですら正視するのに耐えないような場所で、意外に淡々と命じられた作業をこなしていたモブースには正直驚いた。
なので今度は蝶塚に向かいながらギルベルトがそれを指摘すると、
──我らが寮長、銀狼寮の全ての物語の主役の隣にいて怖いものなんてあるはずないじゃないですかっ!!
と、なんだかキラキラした目で言われてしまった。
彼の隣では白モブ三銃士ぱーと2、マイクが、
「スプラッタ系はあんま好きじゃないけど、リアルローランなカイザーの元でのリアル【エルサイア・オデッセイ】体験と思えば、俺も全然イケるっス。
むしろモブースそこ変われっ!と思ってたっス」
と、熱く語ってくる。
「…エルサイア……オデッセイ?」
と、そこで聞き慣れない言葉にコテンと小首をかしげる自寮のプリンセスに、二人は自分達が好きなそのアニメについて熱く語り出した。
彼らいわく、ギルベルトはその主人公に、アーサーはそのヒロインに瓜二つだということで、お姫さんにそっくりなヒロインなんて最高じゃないかっ、無事戻れたらこっそり円盤を入手して見てみよう…と、ギルベルトは秘かに思う。
ともあれ、壮絶な海岸での景色も、どこか薄暗い森の道を進む気味の悪さも、そんな彼らの熱い語りのおかげでなんとなく薄れて、一行はその話で盛り上がった。
そうしてしばらく行くと辿り着く蝶塚。
なるほど幼馴染組が言っていた通り、これは気持ち悪い。
1匹ならきれいな蝶もこれだけいると不気味を通り越して恐ろしい気がする。
さて、あの壁画の通りならこの蝶が化け物を倒してくれるのだろうし、連れて帰りたいところだが…と悩んでいると、
「あのさ、さっき果物に群がってたじゃん?
ビニールに空気穴開けた上で、果物のかけら入れたら蝶々ホイホイにならん?」
と、幼馴染組のレンが言った。
なるほど!そう言えばそうだったな。
それじゃあ…と、ギルベルトは持参した大きめのビニールを小屋の数分出して穴を開け、そこに切った果物を入れて口が開くように木の枝で固定して、蝶塚よりほんの少し離れた所にそれぞれ少し放して置いた。
そうして待つこと数分。
蝶塚の方から果物に惹かれてふわりふわりと寄ってくる蝶。
それがある程度集まった所で、手分けしてビニールの口を閉じて回収した。
これで必要な事は全て終わったので、全員で今度は拠点へと戻ることにする。
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