「そうですねぇ。一昨日の料理ですしね」
小屋の中ではギルベルトが船から持ってきた肉まんや春巻きを前に話し合うアーサーとアデル。
菓子は一応他の部屋にも配布したのだが、そのあたりの料理は全員に配るには量がないため、昨日、今日と小屋の面々でだけ食べている。
量的にも経過時間的にも今日食べきってちょうど良いくらいだろうと、それで夕飯を済ませた。
食事が終わると、ギルベルトとバッシュは今日の報告と今後について話し合いを始め、アーサーとアデルの二人は小鳥のピチュの餌やりにピチュの巣の代わりのタオルが置いてある部屋の隅に戻り…そして二人して歓声をあげる。
「卵!卵産んでるっ!
「なんて小さくて可愛らしい」
きゃぴきゃぴはしゃぐ二人の声に、モブースが巣とピチュを見に行った。
…そして…青ざめて戻ってくる。
「カイザー、カイザー……」
と、珍しく相手が何かをしている時に割り込むようなことをしてくるので、バッシュに今日の諸々の報告途中だったギルベルトは、そこでバッシュに少し待ってもらうように手で合図して、
「どうした?」
と、モブースを振り返った。
──…あの……
──ん?
──…卵……
──うん?
──…やばいものかも……
──…?
何がやばいのかはわからないが、すぐそこにあるわけだし実際見た方が早いだろう。
そう思ってギルベルトも腰を上げて部屋の隅の巣を見に行って…そして青ざめた。
お花畑のプリンセス達……
何故気づかない?
そのピンポン玉くらいの赤い球体は……
ギルベルトが声をかけようとした瞬間、外で悲鳴が聞こえた。
バッシュが反射的に銃を手に立ち上がる。
「様子を見てくるである!
三銃士その1も連絡係として…」
「はいっ!ついていきます!!」
と、バッシュに全てを言わせるまでもなく、モブースも外へと飛び出して行くバッシュのあとを追った。
そちらは二人に任せることにして、ギルベルトはお姫様二人に話しかける。
「お姫さん…その卵は…やばい。
ほら…壁画にあったコレじゃね?」
と、ギルベルトは自身のスマホに写った写真をみせた。
落ち込むかな…落ち込むよな…。
どうリカバリするかな…。
拾ってまだ一日強だがアデルと二人、とても可愛がって面倒をみていたため捨ててくるとなると落ち込むか…と思ってスマホから顔を上げると、ギルベルトに向けられたのは可愛らしい顔に可愛らしく怒った表情を浮かべて視線を向けるお姫様達。
「ギルさん…ひどいです」
「そうですわ。たまたま壁画の絵が赤い球体だったからといって、ピチュの卵と一緒にするなんて!」
口々に可愛らしい声で浴びせられる非難の言葉。
おお~い、そう来たかっ!!
パシッと自らの額に片手を当ててギルベルトはため息混じりに天井を仰いだ。
怒りの涙目でぷるぷる震えている二人。
これは…1人では分が悪い。
バッシュに戻ってもらって即説得するか…
とりあえず最悪、ビニールに入れた蝶がいるからなんとかなるかもしれないが…
そんなことを思っていると、モブースが血相を変えて戻ってきた。
「カイザー、大変ですっ!荒縄が燃えてますっ!!」
「ええっ?!!」
即確認に行きたい…が……と、ギルベルトは悩んでお姫様達に…いや、正確にはその腕に抱かれたタオルの中の小鳥と赤い卵に視線を向けた。
「あ~…じゃあ、妥協案。
その鳥と卵はタオルごとモブースに預けろ。
でないと万が一があれば他の人間にも迷惑をかけるし拠点には置いておけない。
で、モブースは異常が起きないうちはそれを死守な。
不安かもしれんがプリンセスの意向だ」
と、そのギルベルトの指示にアーサーとアデルはピチュを渋々タオルごとモブースに。
モブースは青ざめながらもそれを受け取った。
「てことで俺様は外の様子を見てくる。
ついでにマイクをこっちに寄越すように言ってくるわ」
と、ギルベルトはそれを確認後、小屋を出て様子を見に行くことに…。
恐ろしいことにモブースの言った通りだった。
荒縄が燃えている。
人為的なものか外側から何かが起こったのかはわからない。
さきほどの声は香に言われてギルベルトを呼びに外に出たマイクのものだったらしい。
その声に外に出てきた面々が慌てて火を消そうとしているが、縄は半分くらいは燃え落ちてしまっていた。
「これから夜だと言うのに…」
と青ざめる一同。
「とりあえず…蝶のビニールが頼りであるな。
ビニールを持って…一応いざという時に逃げやすいよう東屋に集まるであるか…」
とのバッシュの提案だが、例のフェリシアーノが秘かに指摘した二組のCPの小屋の女性サラが
「あたし達は小屋にこもるわっ!
こうなったら小屋を締め切って蝶を放った方が安全だもの!」
と、断固として小屋にこもることを主張するので、そちらは放っておくことにした。
むしろ混乱に乗じて何か行動を起こされる方が厄介だし、こもって近づいてこないならそちらのほうがありがたい。
こうして他は一旦必要最低限のものと蝶の袋を手にして東屋集合ということで、大急ぎで小屋に戻ることに。
バッシュとギルベルトも連絡用にマイクを伴って小屋に戻ったが、そこでは思いがけないことが起こっていた。
ギルベルトがまず小屋に入ると、姫君二人がどこか申し訳無さ気な不安げな表情でギルベルトを見上げてくる。
そして…部屋の片隅で起きていることを目にしてその理由を知ると、ギルベルトは今度こそ頭を抱えてしまった。
小鳥…ピチュが巣代わりのタオルから出て、蝶のビニールを破って蝶を食べてしまっている。
うあああーーーー!!!
と、叫びだしたくなった。
なんでこんなタイミングで?
よりによってこのタイミングでかぁああーー
いつもは冷静なバッシュでさえ、片手で顔を覆って大きく息を吐き出している。
「お~ま~え~~!!!なんで止めないっ?!
まじでヤバいぞ?!」
と、マイクがモブースの頭をすこ~んと殴った。
落ち着け、落ち着け、俺様。
今はこの状況の打開策を考えねえと……
誰の責任とか言っている暇はない。
今はもう夜で結界になっていたらしい荒縄もない。
とりあえずはまずバッシュと認識を共有するために、さきほどのピチュの卵のことを告げる。
すると小屋の中は阿鼻叫喚となった。
まずバッシュとギルベルトはアデルとアーサーについては限りなく甘いが、それでもその身の安全がかかっているとなれば逆方向にふりきれる。
断固として廃棄を主張し、それを取り上げようとするバッシュに珍しくアデルが泣きながら反対する。
ギルベルトとアーサーも同じく。
タオルを抱えたままオロオロとするモブースに
「グズグズすんなっ!それを遠くへ捨ててこいっ!!」
と命じるギルベルトに、
「捨てちゃダメだっ!!捨てたら絶対に許さないからっ!!」
と、泣くアーサー。
「「モブースっ!!」」
カイザーとプリンセス両方に逆方向のことを命じられて、モブースは緊張が天元突破。
「あのっ!!ゲームとかアニメとかだと実は逆だったとかってありますよねっ!!」
と、いきなり現実逃避に二次元に走った。
「あ~…敵とか危険なもんだと思ってたモンが、実は味方だったり、お助けアイテムだったりする系?」
と、どんな時でも二次元を語られると乗ってしまうマイクもそれについつい口を挟む。
「そうそうっ!この卵が実はお助けアイテムだったりするかもしれないじゃん?
捨てたら終わりなアイテムだったら取り返しつかねえし?」
「ちっと待った~。ストーリー考えてみる…」
「わかったっ!ストーリーはもういい!!
それはモブース、お前が責任持って保持しとくこと!
でも何かあったらやばいからお姫さん達からは距離とっておけよっ?!」
もう色々が一度に起こりすぎて自分でも様々な可能性を判断する余裕がない。
諸々がはっきりわかっていない以上、重要であるかもしれないアイテムを完全に捨てて絶対に大丈夫なものか判断できない。
結果、ギルベルトはイレギュラーが起きても大丈夫なように守るべき者からそれを少し離れた位置にキープしておく事にした。
「マイクもモブースの側。
そいつになにか起きそうだったらどちらか叫べる方が叫べ」
結界らしき縄と御札が失くなった以上、夜にここを拠点にする意味はあまりない。
なのでいつ移動になってもいいように荷物もまとめて重い物はマイクに背負わせ、軽いものはアーサーとアデルに。
ギルベルトとバッシュは時間稼ぎの戦闘に備えて武器を手にする。
そうして外に出ると、もう皆東屋の周りに集まっていた。
「…ギル、悪い。
うちの小屋、全員外で縄の消火に当たってたら、蝶殺されてた的な…」
ギルベルトを見つけてまず走り寄ってきた香の言葉にギルベルトはまた頭を抱えたくなってくる。
おそらく香達の小屋のものはサラかもし共犯がいるならそいつの仕業だろう。
「すまん…うちのは小鳥が食っちまったらしい…」
と、ギルベルトが眉尻をさげると、おそらくギルベルト達もそうだったように、香もこちらの蝶を期待していたのだろう。
「マジ…?」
と、さすがにショックを受けたようだったが、そこで
「大丈夫っ!うちの小屋のはアンと二人でキープしてたからっ!」
と、アンが袋を指差すフェリシアーノに二人そろってホッとする。
こうしてギルベルト達の小屋の5人、香の部屋の金狼寮組と大学生2人組、そしてマイク、フェリシアーノの部屋の銀竜寮組と幼馴染3人組…そして何故か今小屋にこもっている2組のCPの小屋のはずの白モブ三銃士のボブもいる。
「お前、あの小屋にこもらないでいいのか?」
と、ギルベルトが聞けば、
「こもってたらカイザーの活躍が見られませんからっ!!」
と、即答された。
まあ手足になる人間は多ければ多いほど良いので、そうか、と頷いたが、それに続く言葉…
「でもたぶん…縄を燃やしたのサラだと思うので気ぃつけて下さい」
との言葉に、ギルベルトは固まった。
サラが怪しいと言うフェリシアーノの話を聞いているのは自分と香、それに自分がそれを一応伝えてあるバッシュだけである。
「何故…そう思うんだ?」
と、本来サラが怪しいと知るはずのないボブの言葉に素知らぬフリで聞き返すと、ボブは少し声を潜めて
「…カイザー達が蝶連れて戻って色々話したあと皆が小屋に戻った時になかなか戻って来なくて、彼女が戻ってすぐくらいに騒ぎになったんすけど、サラが戻った時になにかカバンに戻してたから騒ぎで誰もいない小屋でこっそり見てみたらライターがあって…
はっきりとした証拠はないんで大きな声では言えないんすけど、プリンセスに万が一の危険が及ばないようにカイザーには言っておこうと思って」
とちらりとアーサーに視線を向けながら言った。
本当に…本当に今回はたまたま自寮の寮生3人衆が同じ船に乗っていて良かったと思う。
──今回はお前たちがいて良かった。本当に色々助かる
と思わず言うと、なんだかすごく嬉しそうにはしゃいで、仲間二人の方へと駆け出して行った。
そして当然ギルベルトはそれを香とバッシュには報告。
「これは…出来れば救助来たらサラ確保して吐かせたい案件的な…。
王大人に手ぇ回すから、救助がバイルシュミットかツヴィングリだったら、健康状態チェックでもなんでもいいんで、逃げられない場所に確保よろ。
たぶん2時間以内、長くても半日のうちには人寄越すんで」
との香の要請に、ギルベルトもバッシュも了承する。
と、そんな話の途中で、今回はどちらから来るかわからないからと、東西南北に散って見張りを務めていた大学生二人組み、ルーク、幼馴染組のレンのうち、西側を見張っていたルークが
「来たかもっ!」
と異変を告げ、バッシュが確認に走り、ギルベルトは東屋を守る体制に入った。
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